第43話:工房ダンジョン探索2
「あの、今イザベルカウントが……」
「……結構倒されてるね」
「意味がありそうだな。ヒントなしか?」
戸惑いつつも、全員が周囲を見回す。ゴシックPのイベントに手抜きはない。なにか、ここにあるはずだ。
「あのカプセルの後ろに扉が。最初からありましたっけ?」
「イザベルを倒したから出たのかもしれんな。行ってみよう」
「……気をつけて。扉の向こうから奇襲があるかも」
俺達はカプセル裏に現れた赤い扉を開く。
向こう側にあったのは、書斎だ。実験室という感じでもない、妙に生活感がある。小さな部屋で片隅に簡素なベッドがある所なんか特に。
「私室か?」
「ここに何かありそうですね。片っ端から探してみましょう」
「……画面の隅にイザベルのカウントがある。嫌だね」
小さめな部屋を漁った結果、いくつかのメモを見つけた。
以下、こんな感じだ。
【イザベルメモ】
・イザベル3の記録
研究は順調に進んでいる。あかがねの人々からの協力を得られたのが大きい。
寿命を伸ばす手法として手を出した複製の術法だが、案外必要なかったかもしれない。
・イザベル21の記録
研究は形としては完成した。しかし足りない。この世界は一度救ったくらいでどうにかできる状況じゃなかった。
変更が必要だ。あらゆる脅威に対抗する手段を……。
・イザベル54の記録
あの子は順調に成長している。都市がモンスターに襲撃されているため、あかがねから預かった物品を供与した。おそらく戻ってくることはないだろう。
問題はない。私の研究は更に飛躍しているのだから。
・イザベル142の記録
どうも、最近は周りがうるさい。私の研究を邪魔する虫どもが。仕方ないので、工房の拡張を進める。あかがねの連中も聞き分けがない。方法を変えるか。
・イザベル169の記録
わたしは育てなければならない。あの子のためにためにためにために……。
この体ははもうダメだ。
・イザベル285の記録
外が静かになった。あの子は眠るままにしておく。
きっと、いつか必要な時が来るから。
・イザベル368の記録
外から大きな魔力の反応有り。
ついに来た。終わりかけた世界を終わらせる者が。
あれを使う時が来た。
思い出せない。なんのために私はここにいたのか。
ただ使えとどこかかかかかかかかっかあか……。
「なるほど。わかってきましたね」
「恐らくイザベルはクローン的な技術で延命、超巨大キメラを作ってたっぽいな。それで、年月と共に精神が変調ってとこか」
「……わかりやすい」
「すると、このふざけたイザベル討伐ゲージってのはクローンを倒し切るとオリジナルが出てくるやつだな」
「そうですね。……巨大キメラの方はどうなってるんでしょう?」
「……存在だけは仄めかされてる」
メモに書かれた「あの子」、間違いなく超巨大キメラ、キメラゴドンのことだろう。あかがねの洞窟とも関わりがあるらしいのは驚きだが、今のところ影も形もない。
「ヒントも無しに出てくるのはゴシックPの性格的には考えにくいです。隠し要素になってると思うんですが……」
「今のところ、イザベル退治は上層に誘導されている。シンプルに考えると地下に何かあるんだろうな」
「……でも地下、行き止まりだった。敵も少ない」
そうすると隠し部屋があることになる。見つけるためのヒントがどこかに散りばめられているんだろうか。いやでも怪しいものはこれまで無かった。すると、既にヒントはある?
……考えろ、ここまであったものを。ゴシックPの仕込みを思い出せ。
「……地下の巨大キメラを維持する設備があるはずですよね。そのエネルギー供給が」
ふと、思いついた。イザベルクローンが保管されているガラスの円筒。そこに接続されている光るエネルギーケーブル。あまりにもわかりやすくないか? しかも、そこら中に引かれてるのもわざとらしい。
「何か気づいたな?」
「あのケーブル、流れるような感じで光ってましたよね。エネルギーが注がれてますって感じで。……どこから来てるんでしょう」
「……なるほど。供給源。地下にも光るケーブルはあったよ」
「ケーブルの光る方向と逆に追いかければいいわけか。さっそくやるぞ」
「……三下娘に連絡はする?」
「何か見つけてからでいいでしょう。あっちはイザベル狩りに参加してるでしょうから」
せっかく廃プレイヤーに混じって動画を撮影してるんだ。その邪魔をすることはない。なにか成果が出てから、フィーカを頼るとしよう。
壁を見れば、今もケーブルは定期的に光を放っている。高速道路の壁がこんな風に光って速度を誘導してたな。
「これ、クローンが起きる度に光ってるんだろうな。早くしないと倒しきられるかもしれん」
「急ぎましょう」
カモグンさんの懸念を聞くなり、俺達はコサヤさんを先頭に駆け出した。ケーブルの光を逆方向に辿って。
◯◯◯
地下への光を追いかけて逆行すると、倉庫のような小部屋にたどり着いた。
「何もない……ってことは何かあるってことですよね」
三人で片っ端から調べたらあっさり地下への隠し扉を発見した。出てきたのは更に地下への階段だ。
「フィーカさんに連絡した方がいいんじゃないか?」
「この奥で何か見つけてからにしましょう。空振りってこともありますし」
「……行くよ」
下った先にあったのは広い通路だった。とんでもなく空間が広い。巨大ロボットが戦えそうだ。
そんな通路とも部屋とも言える場所を進んでいくと、それはあった。
内部に光り輝くクリスタルを保つ巨大な円柱。その上部と下部から赤いケーブルが血管のように伸びて、各地にエネルギーを供給している。
「でっか……」
「……わかりやすい」
「これ、普通に壊していいのかな?」
カモグンさんの言葉の直後、視界に文字が流れた。
◆【caution!】◆
【☆☆☆危険モンスター:魔力抽出ジェネレーター0号 推奨レベル45 出現!】
◆【encounter!】◆
おお、モンスター扱いなんか……。
「……戦闘できるなら倒さねば無作法というもの」
コサヤさんはやる気だ。刀を構えて今にも飛び出そうとしている。うっすら赤い空間の中で幻想的な姿だけど、危険極まりない。
「ここで爆破したら生き埋めにならないか心配だな……」
言いながら手斧と盾を準備するカモグンさん。爆弾はインベントリから出すらしい。生き埋めになる威力のものを持ってるんだろうか。持ってそうだな。
「とりあえず、殴ってみますか!」
一斉に飛びかかって攻撃を仕掛ける。何もしてこないので、最初に到達したコサヤさんの刀が当たった。
直後、ダメージに反応したように、辺りに火球を振りまいた。それもかなりの密度で。
「うおっ!」
「……アルケミカル・アクア・シールド!」
「……ちょっと当たった」
全員がちょっとダメージを受けた。即座にカモグンが水属性の防御支援魔法をかけてくれる。さすが、判断が早い。
「攻撃した瞬間反撃するタイプか……」
「意外と厄介ですね。攻撃範囲が広いし」
「……密度が濃い。削り合いになりそう」
完全に回避するのはコサヤさんですら難しいか。被弾前提で戦うと削り合い。回避型前衛には辛い話だ。
なので、ここで一回アレを使おう。
「じゃ、俺が動き止めますんで、その間にボコる方向でいきますか」
「そうだな」
「……そうだね」
ダイナミック・バインド。こんな時に最適だ。クールタイムは一時間と長めだけど、使い所を間違えちゃいけない。今がその時だ。一瞬で話がまとまり、カモグンさんが武器に水属性を付与してくれる。いつの間にか向こうの弱点も看破したらしい。
「一応、水属性の爆弾も投げてみるわ。ここが崩れたらごめんな」
「ゴシックPもそこまでしませんよ。多分」
「……回避不能な罠はしかけない。多分」
自信はないけどゴシックPにそんな信頼はある。
上鎖鎌をインベントリから取り出し、ジェネレーターを見据える。
カモグンさんとコサヤさんが接近する。
「では、始めますよ! ダイナミック・バインド!」
二つの鎖鎌から輝く鎖が大量に射出される。一瞬でジェネレーターに絡まっていき、ガッシリと拘束。動かない相手を拘束っていうのも変な話だけど、そうなったんだから仕方ない。
「……いくよ」
「お願いします!」
コサヤさんが連続で斬りかかる。ジェネレーターからの反撃は無し。されるがままだ。カモグンさんの水属性爆弾もいい感じに効いている。
「やっぱり無法だわ、このスキル……」
自分が動けなくなるけど、それ以上のリターンがある。
一分もしないうちにジェネレーターはそのまま倒された。最後、スキルが切れてちょっと反撃されたけど。
【ジェネレーター撃破数 1】
お、こっちもカウントするのか。そして一番乗り。
「俺が思うに、この数値が増えると巨大キメラが弱体化します」
「納得できる話だ。早速フィーカさんに連絡するか」
「……できれば、すぐに拡散して欲しい」
現在、あいつは廃プレイヤーに同行中だ。当然、撮影もしている。離脱してまでこちらに来てくれるだろうか。
「こっちに来るか。そこは本人の判断に任せましょう」
恐らく、食いつくだろうけど。と思いながら、俺はフィーカへの音声チャットをリクエストした。




