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一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO  作者: みなかみしょう


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41/59

第41話:イベント開始

 BWO初のイベント開始日を、俺はログインせずに静かに自室で迎えていた。

 体調が悪いとかそんな訳じゃない。先を争ってスタートダッシュすることもないと思っているからだ。特に今回のような防衛戦が予想されている場合、先行した廃プレイヤーの情報が頼りになることが多い。


 イベント開始はリアル時間で13時。しっかり食事を取り、トイレを済ませた。日課の散歩もしたし、体調は万全だ。

 少し緊張しているのを自覚しつつ、俺はラムネ菓子を口に放り込む。

 フルダイブゲームは脳を使う、なので脳への栄養補給になるブドウ糖で出来たラムネ菓子は良いとされている。ぶっちゃけ医学的根拠のない俗説なんだけど、勝負時はこれを食べてからログインすることにしている。

 ボリボリという歯ごたえと甘く爽やかな味わいを噛み締めながら、VRギア『ツクヨミ』を装着。ゆっくりとベッドに横になり、ログインを開始する。


【VRゲーム『ビヨンド・ワールド・オンライン』にログインします。目を閉じて、心を穏やかに保ってください】


 さあ、勝負の時だ。


 ◯◯◯

 

 イベントに備えてレベル上げはそれなりに上手くいった。今はこんな感じだ。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 トミオ

 レベル:48

 クラス:シーフ(39)

 HP:201

 MP:129


 STR(筋力):39+8

 AGI(速さ): 60 +39

 VIT(体力): 18

 DEX(器用):48 +24

 MNA(魔力):29

 LUC(幸運):44+19

 

 装備:

右手:【追憶】の鎖鎌+6(攻+24 ※鎖分銅に拘束機能あり【シーフ専用】)

左手:ハードバックラー(防+8)※装備しながら二刀流可能

体:先触れのシーフクロース+3(防+18 AGI+1)

頭:ヘッドギア(防+4)

アクセ1:盗賊の証(DEX+1)

アクセ2:あかがねの腕輪(防+2)

AP装備:なし


 クラススキル:ファストアタック、スティルアタック、疾駆斬

 ユニークスキル:鎖鎌マスタリー、ピタッとフック、ダイナミックバインド

 汎用スキル:駆け足(9)、伐採(1)、疾走(1)、アクロバット(6)


 所持アイテム:

 上鎖鎌+3(攻+15 ※鎖分銅に拘束機能あり【シーフ専用】)

 聖水 8個

 HP回復ポーション(上級)30個

 MP回復ポーション(中級)30個

 アウェイクン・シンボル 5個

 メディカルポーション(毒) 3個

 メディカルポーション(麻痺) 3個

 ライトジェムストーン  3個

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 できる範囲で装備も整えた。スキル類は攻撃スキルに「疾駆斬」が追加された。ジェニファー婆さんの旦那さんが使ってきたやつだけど、汎用スキルだったらしい。攻撃と移動が同時にできるので便利だ。

 汎用スキルの「疾走」「アクロバット」は移動やジャンプ力などに関するもの。ピタッとフックを使う時、地味に俺の動きを良くしてくれている。

 装備品も鍛冶で鍛えたり交換したけれど、あまり代わり映えしなかった。どうも、モリス・ルクスは物資が不足していて強い武器がないという設定があるためのようだ。

 何の備えもないより全然マシだ。後はその場の状況判断で動くとしよう。

 

『来たか。モリス・ルクスでクエストを受けると、ルクス山地奥の錬金術師イザベルの工房に入れるぞ』


 ログインしてステータスを確認しているとメッセージが飛んできた。差出人はカモグンさんだ。フレンドリストを見ると、既にコサヤさんもログイン済み。いや、フィーカ達もいるな。俺が一番最後だったみたいだ。


 街でクエスト受けるといってもどこだ? と思ったらすぐにカモグンさんから音声チャットのリクエストが飛んできた。ログイン時間はまちまちだから、イベントはそれぞれのペースでとりあえず始める手筈だ。それが俺がインした瞬間にこの反応ということは、何か困ったことでも起きているんだろう。

 

『王城に行くといつものおっさんから話を聞ける。イザベルの工房はレベル上げで使ったセーブポイント近くだから、ファストトラベルですぐに移動できる』

『何かあったんですか? いつもは一人で情報収集しますよね?』

『そのつもりだったんだけどな。いきなりダンジョンで面倒なのよ。コサヤさんは先に行っちゃったし」


 なるほど。現在カモグンさんは一人か。戦闘できないわけじゃないけど、クラフト系の人にソロ探索は厳しいだろう。カモグンさんのキャラ自体、壁と支援向きになってるしな。


『他の人は? フィーカ達もログインしてるみたいですけど』

『フィーカさんは廃プレイヤー達のパーティーに混ざって動画撮影してる。オリフさん達はモリス・ルクス内のクエストを見て回ってるみたいだ』

『全員自由に動いてますね……』

『しゃあないよ。いきなり固まって動く理由もない。と、いうわけで手を貸してくれると嬉しい。ちなみに、ウインドウの文字が全部ゴシック体になってるから気をつけろ』

『ありがとうございます。すぐ向かいます』


 重要情報だ。過去のトラウマから、俺はゴシック体を見ると血圧が上がってしまう。さすがに強制ログアウトされるほどの数値にはならないけど、心身に悪いのは確かだ。それも、事前に覚悟ができていれば少しは抑えることが出来る。


「まずは王城か……。たしかに、街の様子がちょっと違うな」


 いつもならその辺りに見かけるプレイヤーが少ない。それとNPCも見かけない。妙に静かだ。

 元々半壊しているモリス・ルクスだけど、こうして人の気配がなくなると、廃墟感が増すな。

 イベントに伴ってプレイヤーとNPC両方が移動したと考えよう。

 静寂に包まれた街の石畳を踏みしめて、取り急ぎ俺は王城に向かった。


「やあ、よく来てくれたねぇ。実は、大変なことになったんだよ。ちょっと前に錬金術師イザベルを名乗る者が謁見室に現れてね……」


 王城の広場につくと、そこは人でいっぱいだった。街から消えた人の大半がここに来てるんじゃないかっていうくらいの盛況ぶりだ。イベントに合わせて色んなサーバーにプレイヤーを振り分けたはずなのにな。ちなみに今回ログインしたのは「サーバー056」だった。

 プレイヤーで出来た人だかりの中心にいた、例のメインクエスト進行のおっさんNPCに話しかけると、次々に情報を吐き出してくれた。

 端的にまとめると以下の通り。


 ・何らかの魔法で錬金術師イザベルが謁見室に現れた。

 ・王に向かって「渡り人と手を組んだお前たちは汚れてしまった」とかわけのわからないことを言い出す。

 ・錬金術師イザベルは千年以上前の英雄で、今も世界を救う研究をしているというお伽話があった。

 ・その場で話しかけようとするも、根本的に会話ができそうにない。

 ・何とかしてイザベルを倒さなければならない。


  しっかり回想のイベントシーンまで挟んで説明してくれた。過去の英雄が壊れちゃった系の話か。気の毒に。俺達プレイヤーを汚れ物扱いとは酷いもんだよ。


----------------------------------------------

「イベントクエスト:【錬金術師イザベルを倒せ】を受領しますか?」


 推奨レベル:30~


 伝説の錬金術師イザベル。

 長い時を経て、彼女は変わり果ててしまった。

 人類最後の都、モリス・ルクスを彼女の手から守ってほしい。

 

 報酬:※本クエストの報酬は結果によって変動します。

----------------------------------------------

 

 話を聞いたらあまりにもわかりやすいクエストが提示された。しっかりゴシック体だ。


「いいぜ。やってやろうじゃないの。目にもの見せてやる」

「おお! なんと頼もしい! さすがは渡り人!」


 ゴシックPへの宣戦布告のつもりで言ったら、おっさんNPCがいいように解釈してくれた。今のたしかにそれっぽいセリフではあったな。


「錬金術師イザベルはルクス山地の奥に工房を構えているそうだよ。ひ、一人でいっちゃだめだよ?」

「大丈夫! 仲間がいますから!」


 笑顔で返して、俺はさっそくファストトラベル用の石碑までダッシュした。よし、カモグンさんと合流だ。


 ◯◯◯


 本来ならばイベントクエストを受領して、地道に探索した上でイザベルの工房にたどり着くのだろう。

 しかし、MMOではそうもいかない。後からスタートした者は先行者からの情報を得ることが出来るのだ。……友達などがいれば。


 カモグンさんから連絡があったのはラッキーだった。自力でチャレンジしてなきゃ地道に山中をうろつくか、一度ログアウトして調べたかもしれない。いや多分、誰かに聞いたな。


「来たか。思ったより早かったな」

「さすがに人を待たせてイベントモードの町を歩いたりはしませんよ」


 鬱蒼とした森の中、俺とカモグンさんは崖下の要塞を見下ろしていた。

 そう、要塞だ。石だかコンクリートだかわからないけど、物凄く四角くてSFっぽさすらある巨大建造物が崖下にひっそりと佇んでいる。


「あれが錬金術師イザベルの工房ですか。ファンタジー感ないですね」

「昔のほうが技術力があったらしいよ、この世界。中には既に廃プレイヤーを先頭に気の早い連中が飛び込んでる」

「……イベント前にイザベルの工房を見つけた廃がいたって言ってましたよね」

「あれは別の建物でな。イベント開始と同時に行ったら爆発して跡形もなかったそうだ」

「囮なのか、隠し要素があったのか。今となってはわからないか……」


 気になる話だけど、今はこの状況に集中したい。


「とりあえず、二人で進んでいきましょうか?」

「それでいいだろう。ま、コサヤさんと合流できたらラッキー……」


 互いに確認した所で、視界の端でアイコンが光った。コサヤさんからの音声メッセージだ。

 珍しいな、と思いながら二人同時に同じ動きをして再生する。


『……助けに来て。ちょっと困ってる』


 これはただごとではなさそうだ。

すいません。更新設定してなかったです。

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