第4話:狩ってみよう!
フロントタウンの外は草原だ。緩やかな起伏と綺麗な小川が流れる穏やかな景色で、地図によると少し離れた場所に森がある。
わかりやすく、初心者向けに用意された地形だ。
探索者ギルドでクエストを確認した俺は、草原でモンスター狩りに勤しんでいた。周囲には似たような境遇の同胞が沢山いる。この、初心者が最初の町の外で一斉に狩りをしてる光景、サービス開始直後って感じがして嫌いじゃない。
「ピギィ」
「うん。こんなもんか」
目の前でウサギをデフォルメしたモンスターが倒れてうっすらと消えていく。
視界に[うさぎにくを獲得]と表示が出る。インベントリを確認すると、たしかに「うさぎにく」が一つ入っていた。
自動でアイテムが回収されるシステムのようだ。地面に落ちたり剥ぎ取るタイプだと取り合いになるから、こっちのほうが好きだ。
BWOは割と穏やかな方針でゲームを作っているということだろう。
今倒したウサギ風のモンスターの名前はババーニィ。いかにもぬいぐるみとかに出来そうなデザインをしている。
キャラもモンスターもアニメ調の見た目だ。シビアじゃないシステムには合っている。PKも基本的に禁止だしな。
「モンスターの数が多いのは助かるね」
草原にプレイヤーは多いけれど、モンスターも多い。フリーで殴れるババーニィが沢山見える。1サーバー辺りの人数を上手く調整しているんだろう。
とりあえず、手近なババーニィ目掛けてダガーを振るう。まだスキルの一つもないので、本当に振るだけだ。今後、なにかしら補正がかかったりして面白くなるんだろう。
「ピギィ」
[うさぎにくを獲得]
ババーニィの攻撃方法は体当たりのみ。初心者が攻撃に慣れるためのモンスターだ。ドロップ率も高い。
探索者ギルドで受けられたのは初心者向けの収集クエストだった。
・うさぎにくを20個収集
・安物薬草を10個収集
・白い毛皮を10個収集
全て、フロントタウン周辺で集められるもののようだ。シナリオ的には最前線の物資確保と言っていた。
「ピギィ」
[うさぎにくを獲得]
見かけたババーニィを次々と狩っていくとすぐに二〇個集まった。ついでにレベルも上がった。
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トミオ
レベル:2
クラス:新米探索者
HP:18
MP: 0
STR(筋力):6
AGI(速さ): 6
VIT(体力): 5
DEX(器用):5
MNA(魔力): 5
LUC(幸運):6
装備:
右手:ダガー(攻+2)
左手:なし
体:探索者の服(防+3)
頭:なし
アクセ1:なし
アクセ2:なし
クラススキル:なし
汎用スキル:なし
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最初のうちはこんなもんだろう。早めにアイテムを集めきってしまおう。
ババーニィを倒すついでに[白い毛皮]も三つほどドロップした。こちらは少しレア扱いらしい。
さて、後は[安物薬草]とやらを入手できればクエスト完了の目処が立つわけだが……。
辺りを見回すと、近くの森の方に茂みが見えた。一瞬、草が光るエフェクトがある。あそこで採取しろってことね。
手近なババーニィを狩りながら、森に近づく。
森近くの茂み、雑草にしか見えない草の中でちょっとだけ光るエフェクトをまとっているのがいくつか見えた。
[安物薬草を獲得]
プチプチと抜いてみるとそんなメッセージと共にインベントリに収まった。これは楽だな。
まあ、いきなり難しいことを要求するわけもないか。
そんなことを考えながら、森近くの茂みにわけいって薬草集めをしていく。もちろん、モンスターには注意を払う。
薬草集めはすぐに終わった。森の周りにご同輩はいるけれど、そんなに多くない。獲物の取り合いにならないのは有り難い。
最初のクエストは大体終わりだな。
ひと仕事した気分で周りを見回すと、森の奥が目に入った。
広葉樹の並ぶ見晴らしの良い場所だ。
あまり、危険には見えない。
ゲームとしてはフィールドが違うから、モンスターが変わるだろう。とはいえ、最初の村に隣接しているわけだから、劇的にレベルの高い敵が出ることはない……はずだ。
「ちょっとだけ様子見しますか。まだデスペナもないし」
レベルが上がって特定クラスにつくまではデスペナルティはない。そんな後ろ盾もあって、俺は森の中に足を踏み入れた。ものは試しというやつだ。
その瞬間だった。
◆【caution!】◆
【☆危険モンスター:ブラックババーニィ 推奨レベル5 出現!】
◆【encounter!】◆
視界に真っ赤な文字が現れ、警告音が響いた。
「ギギィ!」
「うお、あぶねっ!」
いきなり黒い影が飛びかかってきた。慌てて避ける。
森の木々の間、狭い広場に着地したのは黒いババーニィだった。体も一回り大きく、目つきも悪い。
「なるほど、レベル5ね……」
フィールド上に用意された、ちょっと強めのモンスターってことか。レベル5ってことはこれも初心者向けのチュートリアルだ。「こういうのが出ますよ」と教えてくれているんだろう。それほど殺意を感じない。
「ギィ!」
「鳴き声が可愛くねぇなぁ」
見た目は白いのとそう変わらないけど、鳴き声がクリーチャー系だ。好戦的なのをわかりやすくしてるんだろうか。
「ギッ!」
「おっと!」
攻撃方法は通常のババーニィと変わらず体当たり。ちょっと素早いのと、アクティブに襲いかかってくるのが違うくらいか? 白いのは殴られるの待ってたしな。
「ギッ!」
「よっと!」
三度目ともなれば、動きも見慣れる。レベル差はちょっとあるけど、反応できない速さじゃない。攻撃直後に殴ってみたら、ダガーの攻撃でダメージも入った。
「ギッ!」
「…………!」
警戒しつつ回避と攻撃を重ねる。HPが少なくなって、挙動が変わるパターンもあるから油断はできないな……。
そんなことを考えつつ、殴ること十数回。
「ビギィッ!」
ブラック・ババーニィは微妙に汚い断末魔と共に、フィールドに倒れ伏して消えていった。
[上等うさぎにくを獲得]
[黒い毛皮を獲得]
「思ったより単調だったな……」
無事に倒してインベントリにちょっと変わったアイテムが入った。楽に倒せるのは良いことだ。ついでにレベルも上がったし。
「森は後回しにしておくか」
ちょっとした冒険を楽しんだ気分だ。あとは毛皮を集めれば最初のクエストは終わり。そっちを優先してしまおう。
そう考えて、森近くでババーニィを狩る。[白い毛皮]はすぐに集まった。
クエストを完了すれば経験値とアイテムが入る。それで店ものぞいてみよう。
いざ、フロントタウンに戻ろうとしたところだった。
「そこの兄さん。ちょっと話いいすか?」
いきなり、男女二人組のプレイヤーに声をかけられた。
「いいけれど、何か用?」
「オレ、PvPの機能試してるんすよ。やってきません? ついでに賭けも」
気軽な口調で、そんな言葉を投げかけられた。