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一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO  作者: みなかみしょう


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36/59

第36話:レベル上げ1

 レベルを上げなければいけない。イベントに備えて。ステータスが高くて損はない。能力不足でゴシックPの返り討ちになるのはごめんだ。

 積極的に経験値稼ぎを志したのはいいけど、問題はその方法だ。

 昨今のVRMMOでは、ひたすらモンスターを狩り続けるレベル上げはあまり主流ではない。

 大昔のMMOのように「一つの狩り場に何時間も籠もって、数ヶ月でようやくレベル一個上がる」みたいなのは非常に辛いと皆が気づいたからだ。特にフルダイブだとそれが加速する。ゲームで精神的な報酬が少なすぎると心が衰弱するのでとてもきついのだ。


 フルダイブMMOでは多くの場合、クエストやランダムダンジョンとの重ね技でレベルアップしやすくしている。もちろん、ゲームによっては昔ながらの狩り主体のものもあるが、そちらも大体救済手段が用意されている。

 コサヤさんのような人は例外だ。あの人は効率が悪いはずのモンスター狩りと恒常クエストをひたすら繰り返して高速レベルアップした。本当に街にろくに入らず戦い続けているはずである。修羅か。


 軽く調べたところBWOはメインクエストで貰える経験値がかなり多い。少なくとも、サービス開始直後の現在ではそうなっている。何となくメインクエストを進めるだけでレベル35くらいまで上がりそうだ。

 実際、フィーカが俺よりもレベルが上なのもその辺が関係している。あいつは動画配信をするために小まめにメインクエストを進行している。俺やカモグンさんはやりたい要素優先でふらふらしてるから、レベルアップがやや遅めなのだ。


 しかし、それも昨日までの話。本気モードになった俺は一味違う。メインクエストなどあっという間に終わらせてくれるわ!


「ふむぅ。すみませんねぇ。実は緊急で別件が入っていてね。お仕事を頼めないんだよ」

「……なん……だと」


 そのメインクエストが、止まった。

 俺の前にいるのはモリス・ルクスの役人のおっさん。めんどくさがりで渡り人であるプレイヤーに仕事を投げまくるうちに出世していき、ついでに責任感まで芽生えてくるという美味しい役割のNPCだ。

 クエストの進行に合わせて、この人と一緒に王城に呼び出されるはずなんだが、その直前で止まった……。


「イベント仕様ってことか……」

「悪いけど、しばらくしたらまた声をかけてくれ。じゃあね」


 気の良い顔つきのおじさんは、手を振りながら駆け足で去っていく。坂を登って王城の方へ。既に呼び出しは受けてる設定なのだろうか。


「どうしよう……」


 モリス・ルクスの通りで一人途方に暮れる。ここまでは順調に進めてたのに。まさか、容赦なく急ブレーキとは。……いや、多分これ、今回のイベントの結果がメインクエストまで影響があるってことじゃないか? だから重要NPCの挙動が変わってる?


 そんな推測は立つけど何の足しにもならない。プランAは破棄だ。なので、プランBに速やかに移行しなければ。


 ◯◯◯


「あら、トミオ君じゃない。どうかしたの?」


 メインクエストが止まって十分後、俺はルクス新報の建物を訪れていた。

 前に新聞記事集めの連続クエストを依頼したカリンさんがちゃんと室内にいた。今日は元気そうだ。のんびりお茶しながらケーキまで食べている。


「いやぁ、ちょっと街のほうが騒がしくて、何があったのかなって」

「へぇ、さすがは渡り人。世の中の変化に敏感ね」


 よし、当たりだ。イベントにあたってNPCには何かしらの変化が起きている。さっきのおっさんと同じように、カリンさんにもそれがあると踏んだのだ。

 薦められた椅子に座り、紅茶が用意される。カリンさんは新聞記者。きっと、有用な情報をもたらしてくれるはず。なんなら、メインクエスト進行の代わりになるものを。ゴシックPならそのくらい用意してるはず。


「で、何が起きてるのかしら?」

「俺もそれが知りたくて来たんですよっ」


 思わず紅茶を吹きかけた。意味ありげな反応して、何も知らんのかこの人。


「あはは。ごめんね。うちもそんな大きな所じゃないからさ。王城の方で何かやってるらしいってことくらいしか知らないのよねぇ。……で、実際どうなの?」


 むしろカリンさんにとっては俺が情報源なのね。真剣な顔で聞かれても殆ど何も知らんのだが。


「なんか、ちょっとやばい噂があるんですよね。でかいモンスターを研究してた錬金術師がいたとかどうとか」

「なんだか曖昧ねぇ……」


 そりゃそうだ。イベントトレーラーの情報しか出しようがない。

 これは、この人から割のいいクエストを貰うのは無理だな。退散するか?

 席を立とうか考えた時、ふと思いつくことがあった。


「そうだ、カリンさん。この街には大型モンスター対策ってないんですか? 攻城兵器みたいなの」


 次のイベントに関する情報はなくても、この街の情報は知っているはず。駄目で元々、なんか有用なことを知らないか聞いてみよう。


「…………うーん。あったかなぁ……」


 額に指をあてて悩むカリンさん。これは駄目かな?


「あ、あったわ! 昔使ったっていう決戦兵器。今は壊れちゃってるけど、王城に保管してるはず!」

「詳しく教えて下さい」


 瓢箪から駒。言ってみるもんだな。このままどんどん情報を出して貰いますよ、カリンさん。

 多分、フィーカがいたら「邪悪な笑顔ですねぇ。トミオさんにお似合いです」と言われそうな顔をしながら、俺は更に話し込んだ。


 ◯◯◯


 王城には錬金術で作られた決戦兵器が保管されている。過去のモンスターとの戦闘で消耗し、修復する予算もなく今は保管状態。いつか来るその時のために眠っている。

 情報を掴んだ俺は早速現地に向かった。


「なんだこれは、祭りでもあるのか?」


 俺は王城の中庭で思わずそんなベタな台詞を吐いていた。

 モリス・ルクスの王城は酷く歪な形をしている。過去の戦いで破損した部分を無理矢理修復したためだ。白く壮麗な塔の横に灰色の四角い建物が映えていたりする。もちろん、灰色の方が後年増築された部分だ。

 城壁に囲われた中庭は広く、前に来た時はそんなに人はいなかった。

 今は逆だ、まさに人混み。それも、プレイヤーだらけ。

 

「すみません。あのー、これ何が起きてるんですか?」


 中庭の奥の方、王城から出てきたプレイヤーに思い切って声をかけてみた。


「イベント用のクエストが受けられるんだよ。『復活! 暁の決戦兵器!』だったかな。アイテム集めてゲージを貯めるやつね」

「なるほど。ありがとうございます」

「いえいえ。では、これで」


 ファイターっぽい男性プレイヤーは爽やかな笑顔を残して去っていった。楽しそうだな。

 俺もこの輪に加わるべきだろうか? ちょっと悩むな。これだけ参加者がいるなら完成するだろう、決戦兵器。クエストで入る経験値を調べて決めるか。プライベートモードに入れる環境があればすぐ検索できて楽なんだけど。


 その場でブラウザを開くなど、色々できるプライベートモード。これを実行するにはギルドハウスが必要だ。現在、カモグンさんが色々と動いているけど未達成。情報収集するには一度ログアウトするしかない。


 一度落ちて検索してみようかな、と思った所で視界の端に手紙のマークが点灯した。思考に反応して、すぐにメッセージが表示される。


『フィーカさんから音声チャットのリクエストが届いています』


 文字じゃなくて音声とは、急ぎの用件か?

 迷惑になるといけないので、中庭から離れて、王城の倉庫の影に座る。周りに人がいないのを確認して音声チャットを開始。


『あ、繋がった! トミオさん! トミオさん! 良い話がありますよ! きっとあたしを見直すどころかひれ伏す重大情報ですよ!』


 一瞬、切ろうかと思った。普段よりテンションが高い。


「お、この感じは「いつもよりテンションが高くてうざいな。切ろうかな」と思ったやつですねぇ……」

「心を読まないでくれ。繊細な若者のプライバシーだぞ。それで、何があった」

「ダンジョンですよ! ダンジョン! イベントでテストしてるっていう自動生成ダンジョンを見つけたんです! なんか凄そうですよ!」


 本当になんか凄そうな話だったので、俺はすぐに現地に向かうことにした。


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