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一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO  作者: みなかみしょう


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35/59

第35話:話し合い

 突如公開されたゴシック体で書かれたイベント開催の告知文。

 それを受けた俺達はすぐさまカモグンさんのハウスへ集合した。まさか、開幕早々にゴシックPによるイベントとは。運営側もわかっているじゃないか。もう少し勿体ぶると思ってた。見た瞬間血圧が目に見えて上がったぜ。


 俺達はすぐさま情報共有し、集合時間を決定。

 今はすっかり心を落ち着けて教室の机を前に椅子に座り、のんびり黒板を眺めている。

 嘘ではない。本当だ。俺は木製の学校机に向かっている。


「あの、トミオさん。なんであたし達は学校の教室にいるんでしょう?」

 

 隣に座るフィーカが聞いてきた。大人しく着席してから違和感に気づいたらしい。

 

「? カモグンさんがクラフトで家を増築したからだが?」

「いえ、でもここ日本の学校の教室が完全再現されてますよ? 黒板なんかチョークで書けるし!」


 その通り、目ざとくチョークを見つけた瑠璃さんが「すごいー、本当に書けますよこれー」などと言いながら黒板に落書きしている。いや、これは描いているな。葛飾北斎の富嶽三十六景の凱風快晴……、物凄く上手だ。本職の人なんだろうか。

 ちなみに一番後ろの窓際の席ではオリフさんが外を眺めている。


「窓の外のファンタジーな光景が凄まじい違和感なんですが!」

「そっちは見慣れた景色だろう? 気にするほどでもない」


 机の中を見てみるとまだ空っぽだ。そこまで作り込んではいないみたいだ。そのうち教科書なんかが入ってくるんだろうな。


「建築系のシステムがあるゲームで学校の教室を再現するのはカモグンさんの趣味だ」

「しゅ……趣味なら仕方ないですね。いやでもなんで?」


 本当にわからないという顔をするフィーカ。そうだろう。ならば、説明せねばなるまい。


「カモグンさんは一時期、2000年代の……あー、アドベンチャーゲームにはまってたことがあってな? 主に学園モノのやつ」

「ふむふむ……。聞いたことあります、一種の黄金時代ですね」


  詳しいな。意外とやりおる。

 

「脳を焼かれたってやつだな。それでフルダイブで何とか自分もその世界の住人になりたい。強いて言えば年上先輩お姉さんキャラと仲良くなりたい。その衝動がカモグンさんを動かすんだ」

「わけがわかりません」


 そうか。この子にはまだわからないか。このレベルの話は。

 

「そもそもカモグンさんは社会人ですよね? もう高校生の先輩お姉さんは実現不可能なのでは?」

「そうじゃない。俺は今、精神的なものの話をしている」


 いくつになっても先輩は先輩。それは、社会人になってからも変わらない。インターネット老師も言っていた。当時は俺もわからなかった。今のフィーカと同じく未熟だったからだ。だが、今はわかる。心の問題なのだ。こういうのは。

 

「一時期は色々模索してたけど、最近は大人しくなったんだよ。教室風の建物も、作らなきゃ落ち着かないから作る習性みたいなもんだし」

「凄い習性ですね……」

「ちなみに、意外と需要があるから高く売れるぞ」

「さすがはカモグンさん。今後もリスペクトです!」


 よし、フィーカにもわかるレベルの話ができたぞ。実際、結構人気なんだよな。学校風建築。制服とか用意してNPCに着せて連れ込むプレイヤーもいるみたいだし。……俺も詳しくないけど、そういう界隈もあるってことだ。

 

「あれ? 学園ラブコメのフルダイブゲームは存在しますよね。そちらを遊んでは?」

「全く関係ないゲームでやるのがいいらしいぞ。高尚すぎて俺にはわからんが」

「なるほど……」


 そう。例えもっと効率的な手段があるとしても、そちらに耽溺しない。趣味とはそういうものなのだ。多分。


「……なんでカモグンさんがトミオさんと一緒にいるのか、わかった気がします」

「それ、自分に対しても言えることだってわかってるか?」


 まるで俺が変みたいなことを言うのはやめていただきたい。


「よーし、皆来てるな。席につけー。うお、瑠璃さん凄いの描いたな……」


 ちょうど話が一段落した所で、教師のような物言いをしながらカモグンさんが入ってきた。服装が以前と代わり、動きやすそうなジャケット姿だ。ポケットやベルト周りに色々ついているのはアルケミストの装備だろう。


「せんせ~、まだコサヤさんが来ていませ~ん」


 慌てて席についた瑠璃さんが手を上げて発言した。隣のオリフさんが裾についたチョークの粉を払っている。面倒見がいい。


「うむ。コサヤさんはそろそろ来るはずだ。オリフさん、窓空けてくれ」

「はいはい。お、来てるね」


 オリフさんが億劫そうに立ち上がり窓を開けた直後だった。

 

 銀色の流星が、窓から飛び込んできた。それがコサヤさんだと判断するまで一瞬かかる、そんな唐突な登場だ。

 勢いそのまま壁を突き破るかと思ったが、コサヤさんは見事に床の上に着地。ああ、日本刀を床に刺してブレーキにしたのか。後でカモグンさんに怒られないかな?


「……間に合った。セーフ」

「ダイナミックな登校ですね~」

「び、びっくりした。襲撃イベントかと思いましたよ!」


 淡々と語って席につくコサヤさん。拍手をして喜ぶ瑠璃さん。何故か机の下に隠れているフィーカ。それぞれ、個性の出た反応だ。俺を含めた男性陣は全然気にしていない。


「よし、全員揃ったな。これより、対ゴシックPイベント対策会議を開始する!」


 教卓の前に立ったカモグンさんが堂々と宣言する。

 先日発表されたオープン記念イベント『邪悪なる大錬金術士~大怪獣キメラゴドン襲来!~』。

 ふざけた名前の上にゴシック体のイベントだ。絶対に攻略してやる。それも徹底的にだ。


「ところでカモグンさん。なんでフィーカ達がいるんでしょうか?」

「打ち合わせするって話をしたら、面白そうだから参加したいってさ」

「因縁の相手との対決! これは最前列で見るしかないじゃないですか!」


 机に手をおいて豪語するフィーカ。絶対撮れ高のことを考えてる顔だ。


「……瑠璃さん達はなんで?」

「面白そうだから~」

「せっかくだからね」


 こちらの二人は乗りかかった船とばかりに来た感じか。手助けは素直に有り難い。


「我々としては協力者を断る理由はない。では、話を始めるぞ。トミオ」

「え? はい」


 反射的に立ち上がってしまった。学校の教室というフィールドのパワーは凄い。


「今回のイベントについて、思う所を話してくれ。ゴシックP対策の専門家だろう」

「我ながら嫌な専門家ですね……」


 答えつつ、イベントトレーラーに思いを馳せる。たしか、かつては英雄だった錬金術師が暴走する感じの話だったな。それで、襲いかかってくるのは巨大キメラ『キメラゴドン』……。ネーミングセンスほんとに悪いな。


「錬金術師と巨大キメラ。この二つがボスになりますね。……多分、二手に分けてくるでしょう」

「なんか、あの迷子イベントみたいですね」


 フィーカの発言は正しい。頷きながら続ける。


「複数の選択肢を突きつけてくるのはゴシックPの常道です。前回のは小手調べ。今回は本番とばかりにやってくるでしょう」

「……もっと悪辣なことをしてくるかも?」


 コサヤさんの発言。それも可能性としてはなくもない。


「ええ、ですが注目すべきなのはオープンしたてのイベントだってことです。それほど複雑な仕込みはしてこないはずです。プレイヤー側にそれほど選択肢がないですからね。その点は信用できます」


 ゴシックPは上手にバランスを見切ってイベントを仕掛けてくる。上手くいかなかったのは『ゲヘナ・オンライン』の最終イベントくらいだ。


「じゃあ、わたし達もイベントの時には二手に分かれるんですか~?」

「それはしなくていいよ」


 瑠璃さんの発言をオリフさんが即座に否定した。


「それはどうして?」

「シナリオ次第だけど、廃プレイヤーがどんどん先に進むから」

「あ、なるほど~」


 あっという間に納得した。慣れたやり取りだ。この二人はいつもこんな感じなんだろう。


「何度か身に覚えがある話だな」

「ですね。ゴシックPのよくやる手です。廃プレイヤーを一箇所に集めつつ、全然違う場所で別の重要イベントを発生させる」

「……あるある」

「え、MMOってこれが普通の世界なんですか……?」


 フィーカがちょっと引いている。これはちょっと特殊な状況だから安心して欲しい。

 そして、俺とカモグンさんとコサヤさんはこのやり口には慣れている。


「俺の思う所は以上です」


 そう言って着席するとカモグンさんは満足げに頷いた。


「僕が気になるのは『モリス・ルクス』にある備蓄ゲージだな。あれ、確実にイベントに関係するだろう」

「……超巨大キメラの防衛に関係してるやつ」


 イベントトレーラーにある通り、今回は『モリス・ルクス』のピンチだ。恒常クエストと一緒に存在している備蓄ゲージも使われるに違いない。


「はい! 質問があります、先生!」

「どうぞ、フィーカさん」

「結局、あたし達は何をすればいいんですか!」

「色々、だな……」

「曖昧!」


 勢いよく立ち上がったフィーカがそのまま崩れ落ちた。席についてても忙しい奴だ。


「まー、色々だね」

「ですね~」

「……がんばらないと」

「ちょ、ちょっと。なんで皆さんわかってるんですか? もしかしてあたしだけですか? あ、トミオさんも無反応! 仲間!?」

「レベル上げに資材集めクエストをできる限りやる。超大型キメラ対策はどうします?」

「あああ、あたしだけっ! 早くも足手まといですか! もう、切腹するしか。チェストォォォ!」

「いや、しなくていいよ。MMOのイベント初めてなら仕方ないし」


 一人盛り上がるフィーカを止めた。あと、チェストは切腹の時、口にする言葉ではないと思う。


「トミオが言ったのはイベントの時いつもやることだからね。気にすることないよ。超大型モンスター対策だけ特殊だけど」

「……どうするの?」

「僕に考えがある。期待しててくれ」

「……わかった」


 カモグンさんがにやりを笑って言った。この人の考えは信用できる。任せよう。


「あと気になるのは、イベントモードになったNPCですね~」

「あとダンジョンもあるんだっけ?」


 瑠璃さん達はしっかり話についてきてるな。逆にフィーカは横で机に突っ伏している。仕方ないだろ、初心者なんだから……。


「イベント絡みで実装された要素もあるみたいだからな。適時情報共有して動こう。レベル上げについて良い場所があったら教えて欲しい」

「できれば全員今のコサヤさんくらいまで上げたいですね」

「ちなみにコサヤ様はどのようにしてレベル上げを?」

「……討伐依頼を受けて、冒険しまくった。街にはほぼ入ってない」

「…………」


 極端すぎるプレイスタイルに絶句するフィーカ。暇さえあれば戦ってる戦闘民族だからな、コサヤさんは。

 

「イベント当日までにわかってくるものもあるはずだ。とにかく動くとしよう。朝の会、終わり!」


 カモグンさんの言葉で、イベント対策会議は終わりを告げた。朝の会だったのか、これ……。

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