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一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO  作者: みなかみしょう


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33/59

第33話:祭りの後

「いやー、見事な活躍でしたなぁ。さすがはコサヤ様! あたくし見惚れてしまいました!」

「……ボスを斬るの、楽しかった」

「すごい勢いで削れてましたね。相当レベル上がってます?」

「……まだ40」

「たかっ」

「ついたらいきなりボスが沸いてて驚いたわ」

「二体同時とか想定外すぎたんで助かりましたわ」


 カモグンさんとコサヤさん、俺にとって馴染みの二人も加えて合計六人。ボス討伐後、フィーカの案内でイベント会場の喫茶店外で雑談が始まった。ちなみに地べたに座っての集まりである。


「いやー、主催がボス討伐参加者に特製ドリンク配布! 剛毅な話ですなー」


 一人立ち上がったフィーカが虹色の飲み物を美味そうに飲む。なんか、全員に違う色の飲み物を渡されたんですが。実験台にされてないですかこれ? 店主も「面白いことあったら教えてね」とか言ってたし。


 周りはとても賑やかだ。フィーカの言った通りドリンク配布のお知らせで、ボス討伐参加者が店に殺到した。俺達は出遅れてテーブルを確保できなかった、というわけだ。


「なんか、ひと仕事したって感じがするね」

「僕らは本当にひと仕事しててログインしたんだけどね……」

「……もっと早く来たかった」


 残業組が恨みがましい目で見てくる。俺が学生なのは罪じゃないはずですが。


「イベント自体はまだ続きますから、これからごゆっくりですよ!」

「そうだな。クラフトに使えそうなものでも探すか」

「あーそれなら、素材扱ってるのが端の方にありましたよ」

「本当ですか? 木材系を探してるんですが」

「廃の人がやってるから珍しいのがありました」

「ほほう」


 早くもカモグンさんとオリフさんが打ち解け始めていた。やはり、相性が良さそうだ。


「植物の種なら、一個拾ってますね~」

「……詳しく教えてほしい。全然出ない」

「あー、あれはどこでしたか。ちょっとマップを出しますね~」


 コサヤさんと瑠璃さんも何やら話し込み始めている。多分、園芸とか農業系についてだな。


「やはりあたしの見立て通り、皆さん仲良くなれそうですね。実は是非ともこの機会にお知り合いになって頂ければと思っていたのです」

「お前さんを受け入れられる度量もあるしな」

「ひどいっ、まるであたしが奇行に走ってるみたいに!」

「行動はともかく言動がな……」


 冷静に考えると言動以外は真っ当なんだよな。指摘しにくい。いや、別に面と向かって貶したいわけじゃないからいいのか。


「なんだ、ニヤニヤして」

「今、ちょっとだけ、あたしのことを褒めようとしませんでしたか? そんな気配がしました」

「さて、お茶も飲み終わったし少し店にいくかな。急な戦闘で途中だったし」


 ちなみにお茶はうっすらコーラ味だった。何を混ぜたんだろう。


「完全スルー! いえ、あたしはこれくらいではくじけんぞぉ! それはそうと、トミオさん、是非とも一緒に行って頂きたいお店がありまして! いえ、奢らせようとかそんなことはありませんのでっ。掘り出し物があるんです!」

「まだ何も言っていないんだが……。掘り出し物か」

「はいっ。すぐそこですし、現地でお披露目してもらいましょう! 取り置きしてもらってます!」


 わざわざ取り置きして貰ったのか。先程も考えたように、フィーカは言動以外は真っ当だ。本当に掘り出し物かもしれない。


「じゃあ、行こう。案内頼める?」

「もちろんです! では、一時解散ということ! 皆さんありがとうございました!」


 フィーカに案内されたのは、イベント会場の端にある「ひみつの店」だった。


「ここか……」

「ここです。実は最初、いかがわしいお店かと思ってチェックしたんですが、普通の商店でして」

「そんな物売ってたら通報の上BANされるだろ……。R15だぞ、このゲーム」

「仰るとおり。で、中にはちょっと珍しいものが並んでいたんですよ。たのもー」


 ひみつの店はテーブルだけでなく屋根やら壁まで布で作られた店舗型だ。フィーカは暖簾状になっている入口を気楽な足取りでくぐっていく。


「いらっしゃい。お、来たね三下娘。そっちの人用のやつ、とっておいてあるよ」


 中にいたのは小柄な羊型獣人のプレイヤーだった。丸メガネが似合う女性。クラスはアルケミストのようだ。


「はいこれ。2000でいいよ」


 店主がテーブルに置いたのは防具だった。


[ 先触れのシーフクロース(防+13 AGI+1)]


 意味ありげなシーフ用の体防具。性能も今よりいい。なにより安いな。


「なんでこんなに安いんです?」

「ウチはね。そっちの嬢ちゃんのファンなのさ。それでまあ、特別割引だよ」

「…………素直にすごいな」


 本当に普通のファンが存在するとは。インターネット珍獣みたいな扱いかと思ってた。


「く、口では褒められたけどその目はまた余計なこと考えてますね! いやまあ、実はちゃんと理由がありまして」

「理由?」

「トミオさんの防具、ライトアーマーですよね? 現在のところ、シーフってしばらく店売り防具が微妙らしいんですよ。それで、手っ取り早く装備更新できるならーと思いまして」


 物凄く真っ当な理由だ。しかも親切。


「ありがとう。フィーカ。感謝するよ……なんだその顔は」

「ト、トミオさんに素直に褒めるなんて機能があったとは。あ、あと今あたし達、すごく普通な会話してましたね。初じゃないですか?」

「そこが初なのは異常事態なんだが」


 そもそも俺は普通に話せば普通に返せるはずなんだが。

 いや、落ち着け。このアイテムは有用だ。フィーカの性格的にも変な裏はないだろう。


「あの、本当に2000でいいんですか?」

「平気だよ。ファン割引以外にも理由があってね。とっとと先にレベル上げちゃった知り合いからの貰いもんなんだ。使う人のところにいってほしいんだよ」

「じゃあ、遠慮なく」


 料金を払うと、あまりにもあっさりと「先触れのシーフクロース」は俺のインベントリに入った。


「まいどありー。良ければ他にもみていってよ。色々あとあるからさ」

「そうですね……あれ、この布は?」


 棚に並んでいた細長い布が目についた。生地ってわけでもなさそうだ。


「これはリボンだよ。装備すると、ちゃんと形になる。なんと、AP装備なのさ」

「見た目変更用ってことですか。なるほど。こういうアクセサリもあるんだな」

「こんな簡単に噂のAP装備が置かれてるなんて驚きですよね!?」

「なんか自然と全身フルコーデみたいのイメージしちゃうからなぁ」

「意外と小物は簡単に作れちゃうんだよ。そろそろマーケットに並び始めるんじゃないかなぁ」


 言いながら店主は色違いのリボンを出してくれた。この人が自分で作ったのか。かなりのクラフト勢だな。

 リボンは安い。一個500ギニー。多分、素材入手も制作難易度も高くないんだろう。


「フィーカにお礼として、一個どうかな? 色は……白とかが無難か?」


 なんか、濃い地味な色が多くて難しい。赤はあるけど、フィーカの髪色と同じだし微妙な気がする。


「ほ、ほほーう。やりますなぁ、トミオさん。我々の業界において、女性に白いリボンを送るというのは慕情を示すと……」

「そうか、やっぱやめとくわ」

「ノォォ! フェイクニュース! フェイクニュースですよ! インターネットに溢れる誤情報に惑わされてはいけません!」

「むしろ誤情報流す側だったろ、今……」

「ふへへ。軽いジョークですよ。赤と金の髪に、白いリボン。紅白に金が揃ってめでたい感じになること請け合いです!」

「……リアル三下トークがおがめるなんて、ありがたやありがたや」


 変なことを言う配信者とそれを拝む店主。俺はとんでもない所に来ちまったようだ。


「じゃ、とりあえず白いリボンください」

「はい。まいどー。配信楽しみにしてるからねー」


 リボンをそのままフィーカに渡す。インベントリに入るので即座に一度消えて、すぐに彼女の見た目に反映された。

 赤色主体に金のインナーカラー。それをツインテールにまとめる部分がこれまでの目立たない紐から、白く大きなリボンに変わった。


「アイテム状態と装備状態で結構変わるんだな」

「それがAP装備の面白いところよ。これから職人さんが色々つくるよー」


 きっと大変なことになるな。この手の装備品は一大市場を作る。ゲームの中でこそ、見た目に対するこだわりをもつ人は多い。


「ふぅぅ。思いがけずプレゼントを貰ってしまいました! ありがとうございます!」

「お得なアイテムを教えてくれたお礼だよ」


 買い物を終えてひみつの店を出るなり、飛び跳ねそうなテンションでフィーカが頭を下げてきた。ちゃんと土下座以外もできるんじゃないか。


「いやー、やっぱり楽しいですね、MMOのこういうところって。さて、気合を入れてパトロールという名の徘徊を始めますか」

「そうだな。頑張ってくれ。俺はそろそろ帰るよ」


 フィーカの表情が凍りついた。


「ななな、ナンデ! 今のはこのまま一緒に最後までいて、終了の花火を眺めて良い感じに終わる流れでは!」

「花火があるのか?」

「ありませんけど!」


 ないのか。残念だ。あれば最後までいたのに。


「いや、コサヤさんのレベル、40って言ってたろ。ちょっと離されすぎたと思ってさ。今後のことも考えて、少し真面目にレベル上げでもしとこうかと」

「むむむ……。それは確かに。レベル差があるとパーティーを組みにくくなると廃プレイヤーの方に聞きました」


 そういうことだ。それに、もう大体会場内回ったしな。このままカモグンさん達と雑談タイムで時間を潰すのも悪くないけど、せっかくレベル上げの気分になったんだ。勢いも大事だ。インターネット老師も言っていた「鉄は熱いうちに打て」と。


「ゲームを楽しむのは当たり前だけど、ゴシックPとの戦いに備えて、鍛えておいて損はない」

「その人が絡むと急にストイックになりますね、トミオさん」

「因縁だからな」


 何かしらやり返してやらんと気がすまないのだ。奴には。問題はそれを確認できないことだけど。


「わかりました。では、今日は一度お別れですね! またお会いしましょう!」

「ああ、今日は楽しかったよ。じゃあな」


 こうして、爽やかな笑顔で俺はユーザーイベント、「ダンジョン商店街」を後にした。


 二時間後、収穫を見せびらかしたくなったカモグンさんに呼び戻されて、フィーカに「さっきのは何だったんだ!」と謎のキレ方をされたのはまた別の話だ。

 まあ、レベルも上がったし、良いイベントだったよ。


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 トミオ

 レベル:25

 クラス:シーフ(16)

 HP:124

 MP: 89


 STR(筋力):28

 AGI(速さ): 35 +10

 VIT(体力): 10

 DEX(器用):29 +9

 MNA(魔力):18

 LUC(幸運):22+4

 

 装備:

右手:【追憶』の鎖鎌+3(攻+18 ※鎖分銅に拘束機能あり【シーフ専用】)

左手:バックラー(防+5)※装備しながら二刀流可能

体:先触れのシーフクロース(防+13 AGI+1)

頭:バンダナ(防+2)

アクセ1:盗賊の証(DEX+1)

アクセ2:あかがねの腕輪(防+2)

AP装備:なし


 クラススキル:ファストアタック、スティルアタック

 ユニークスキル:鎖鎌マスタリー、ピタッとフック

 汎用スキル:駆け足(1)、伐採(1)


 所持アイテム:

 上鎖鎌(攻+12 ※鎖分銅に拘束機能あり【シーフ専用】)

 聖水 5個

 HP回復ポーション(低)20個

 MP回復ポーション(低)10個

 アウェイクン・シンボル 1個

 メディカルポーション(毒) 3個

 メディカルポーション(麻痺) 3個

 ライトジェムストーン  3個

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