第3話:始まりの地
門の向こうに出たら、泉の前だった。申し訳程度に整えられたそこには、腰くらいの高さの台座がある。
「……?」
何かと思って触ってみたら、ウインドウがポップした。
<復活地点に登録>
<倉庫へアクセス>
<マーケット>
<転送サービス(工事中)>
どうやら、便利サービスへアクセスするためのものらしい。とりあえず、復活地点の登録を確認してみる。「既に登録済みです」と出た。
「結構賑やかだな……」
周囲を見回すと、俺と同じ立場の人間が沢山いる。『ビヨンド・ワールド・オンライン』、略してBWOはサービス開始したばかり。最初の村は当然賑やかになる。
人が多くて落ち着かないので、とりあえず少し移動。建物の影に座り込む。
現在地はフロントタウン。最初の村らしい。
門越しに見た時は牧歌的だと思ったが、いざ来てみると、なんか雑多だ。
ファンタジー世界らしい家が建ち並んでいるけど、資材置き場も多い。さっきの泉の周りも雑に石で囲われている。
色々と確認してみるか。
そう考えて、ウインドウを次々に中空に呼び出していく。VRはこういう時便利だ。考えただけ自動で動く。
まずは、自分のステータスを確認。
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トミオ
レベル:1
クラス:新米探索者
HP:15
MP: 0
STR(筋力):5
AGI(速さ): 5
VIT(体力): 5
DEX(器用):5
MNA(魔力): 5
LUC(幸運):5
装備:
右手:ダガー(攻+2)
左手:なし
体:探索者の服(防+3)
頭:なし
アクセ1:なし
アクセ2:なし
クラススキル:なし
汎用スキル:なし
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ステが平たいな。BWOはステータスを振り分けられないタイプのゲームだと聞いている。プレイ内容に合わせてステータスが伸びていくそうだ。事前情報で読んだ。
極端なプレイスタイルを選択できないけど、全く使えないキャラが生まれにくい。そんな方向性だろう。MMOで使えないキャラになると辛いからな。
クラススキルは今後なにかしらの職業につけば取得可能とのこと。
汎用スキルはクラフトや料理などのスキルのことらしい。場合によっては睡眠とか食事とか、色々取得できるとか。
ただ歩いているだけでステータスが伸びたりスキルを取得できる。それを楽しんで欲しい、みたいなことがネットの記事に書いてあったな。
こういうのはやっていく内に理解していこう。俺はスタートダッシュからガリガリ進める廃プレイヤーじゃないしな。
まずはゲームを楽しむ。義務感や作業感が出てくると辛い。ゴシックPの用意するイベントでもあれば話は変わるけど。
「うわ、用語辞典も気合入ってるな……」
世界観を確認するため、その辺の設定を見てみたら大量の情報が出てきてびっくりした。
<物語>
神と邪神の戦いが終わった時、一つの世界が終わりかけていた。
せっかく勝ち取った平和もこのままでは危うい。
神々は残された力で、新天地「スザンウロス」への扉を開いた。
別世界への扉の向こうにあったのは、まだ何もわからない新天地。
貴方達はこの新天地に派遣された「探索者」なのだ。
ざっくり言うと、こんな感じらしい。
つまり、ここは名前の通りの最前線というわけだ。
プレイヤーの行動によって新しい町が見つかったり、地形が変わるとか。そんなことがあるらしい。これも発表時の記事にあった。
ウインドウの中にある『全体MAP』を呼び出すと、フロントタウンと周辺だけが表示されている。
俺達プレイヤーの行動でこの世界が広がっていくというわけか。なるほどね。ちょっと楽しみじゃないの。
確認が済んだので、立ち上がって周囲を眺める。それから、軽くスクワットしたり腕を振ったりもする。
どうやら、今のところ視力も運動能力も普通と変わらないことがわかった。
ゲームによってはいきなり三メートルくらいジャンプできたりして、びっくりすることがある。この辺の確認は地味に大事なのだ。
『ゲヘナ・オンライン』サービス終了から五年。色々なゲームを渡り歩き、それなりに経験は積んだ。昔より、VRゲームの腕は上がっているはずだ。
今回もまた、楽しめるといいな。ついでにゴシック体へのトラウマも払拭したい。
「さて、まずは簡単なクエストでも受けてみましょうかね」
ウインドウの中には村で受けられるクエストのリストまであった。とりあえず、探索者ギルドという場所で、採取依頼を受けるのが良いらしい。わざわざ『最初の一歩』と銘打たれている。
こういう親切な誘導を受けるのも、MMOを始めたって気がするな。
そんな感慨を抱きながら、俺はタウンマップで確認した探索者ギルドに向かうのだった。