第27話:ダンジョン商店街
「さて、意気揚々と会場入りしたものの、実はあたくし、警備と記録係の仕事がありまして……」
ユーザーイベント『ダンジョン商店街』。洞窟内の廃墟と化した町に広げられた市場めいた光景を前にして、フィーカが申し訳なさそうにそんなことを言い出した。
「別に構わないぞ。元々一人で周るつもりだったし」
「寂しいでしょうが、ここで一度離脱ということに……どういうことですか! 名残惜しくないんですか!」
「そもそも一緒に見て回ろうって話でもなかったろうが」
自分から言い出しておいてなぜキレる。俺にどんな反応を求めているんだ。
「くっ、たしかにそうですが。もう少し残念そうな顔をしても良いのでは?」
「こういうのは一人で回って後で買ったものを皆で見せ合うのが面白いんじゃないか? 多分、カモグンさん達がいても全員バラバラに動いたぞ」
「……なるほど。理解です! くくく、トミオさんがびっくりするような商品を見つけてみせますよ。あとで吠え面かいてもしりませんよ」
「びっくりするような商品を見つけてくれるなら吠え面どころか礼を言うが……」
むしろ是非お願いしたい。既に廃プレイヤーと知り合いみたいだから、可能性はあると思う。
「あたしの目利きに恐れおののくがいい! あばよ!」
そう言い残して、赤毛の配信者は走り去っていった。賑やかなのはいいが、あのテンションを続けて疲れないのだろうか。
「さて……」
ようやく落ち着いてイベントに参加できそうだ。フィーカと話すのは脱線が多い以外は悪くないんだがな……。さっき口にしたように、こういうのは一人で回るのがいい。あとで合流予定のカモグンさんとコサヤさんに面白いものを見せてやりたい。
第一印象通り、店の周りは賑やかだ。出ている露店の中には装飾も結構凝ったやつがある。お、あっちの方はテーブルと椅子まで出してカフェなんかやってるな。
歩きながら一軒一軒店を覗いていく。雰囲気でいうと同人即売会に近いかな。VRで以前、行ったことがある。高一の時の話で、うっかりR18コーナーに入って弾き出されかけたもんだ。
ちょっと懐かしい雰囲気に浸りつつ、並んでる商品を見る。
材木だとか薬草だとか見慣れた採取品が多いな。ここの特産という感じで赤光石も見かける。そんな風に雑多な品を扱う人もいれば、しっかりテーマを決めて店を構える人もいる。
最初に目を留めたのは、果物屋だった。リンゴにブドウにバナナ、レモンなど多種多様な品々が並んでいる。リンゴなら森で採ったことがあるし、ブドウも街で見かけた記憶がある。しかし、他のは初めて見た。
「これ、フィールドで採取できるんですか?」
「できるよー。ルクス山岳地帯を超えた先にちょっとだけ砂浜があってね。珍しい植物が生えてるんだ。まー、やっばい奴に襲われて逃げ帰ったんだけどね」
そう答えたのは野性味あふれる猫系獣人の店主だった。さては、かなり先まで進んでいる廃プレイヤーとみた。もう山岳地帯を越えてるのかぁ。
「へー、そんなおっかない所が。あ、バナナください」
「はいよ。100ギニーね」
「そんなに安くていいんですか?」
「いいのいいの。イベントだからねー」
取引ウインドウを出して代金を支払いつつ、笑顔でバナナを渡された。それも一房。一本もいで食べてみると、うっすら味がした。食感はかなり本物に近い。
「味薄いけど、ジュースにすればバナナフレーバーってことにできそうですね」
「いいね! 今度やってみるよ! あ、いらっしゃいませー」
楽しい雑談を終えて次の店に。残ったバナナはインベントリに入れた。後でカモグンさん達にあげよう。
店は他にも色々ある。フィーカの話だと二十くらいってことだったけど、明らかにそれより多い。運営側で飛び込み参加でも受け付けてるのかな?
「これは、装飾品と、インゴット?」
「鍛冶屋だよ。それはクラフト用のインゴット。まだ見慣れないから珍しいでしょ?」
区画の端の方で、テーブル上に綺麗に金属の棒を並べている店があった。奥のスペースを見るとアイロンを逆さまにしたような金属製の台がある。鍛冶に使う金床だ。横にある薪ストーブの頑丈そうなやつは炉だろうか?
「鍛冶の店ってことですか?」
「そうそう。スキルとってからずっとこれやってね。ユニークスキルも『鍛冶の腕』なんてのがついちまった」
大柄な男性アバターのその店主は見た目に反して人好きのする笑顔をしながら教えてくれた。
「それは相当やってますね」
ユニークスキルはプレイスタイルに応じて自動生成される。多くの場合、戦闘スキルだろう。そのため、クラフト専用ユニークはかなり珍しい。実はカモグンさんが『技工の指』というクラフト用のユニークスキルを発現させていたりするけれど。
「武具のクラフトはインゴットを使うんですね?」
「ああ。金属や鉱石に素材と合わせてインゴットを作る。変わった効果が乗ることもあるらしい」
「それは奥深そうですね……」
なんならそのシステムだけでちょっとしたゲーム並になりそうだ。素材は保管しておいて損はないな。たしか、各街にある倉庫屋にまとめて預けておけたんだったかな。個人用と共有できるようになってるらしい。俺は割と所持量に余裕があるから、まだ使ってないんだよな。
「そうなんだよ。奥深すぎて色々試すおかげであんまりクエストを進められなくてさ。困ったもんだよ」
「あー、ありがちですよね。鍛冶かぁ。俺も少しはクラフトやろうと思ってるんだよなぁ」
「使ってるのが専用武器だと店売りが微妙、なんて話もあるから鍛冶スキルは案外重要になるかもしれないぞ」
「そんな噂が……。俺、鎖鎌がメインウェポンなんですよね」
真剣に考えるべきかもしれん。なんか沼の入口に立ってる気もするが。
「いいよねぇ。鎖鎌。拘束機能の浪漫!」
「もしかして、作れますか?」
「いや、俺が出来るのは剣と槍だけ。鎖鎌は作ったことないな」
鍛冶スキル、結構細かく分かれてるのよと苦笑しながら言われた。面倒な仕様にしやがって。いや、MMOとしては寿命を伸ばすために必要な措置なのか?
「なるほどなぁ……」
「そんな難しい顔をしなさんな。ここのインゴットはサンプルでね。武器の強化だけやってるんだ。それなら鎖鎌もできるぜ」
「いいんですか?」
「ただし、+3の強化までだ。それ以上はまだできない。料金は3000ギニーだな。一応、NPCの半額だぜ」
「お願いします」
すぐさま『追憶』の鎖鎌を手渡した。もちろん、料金も添えて。
「お、クエスト産の特殊武器だな。いいね。先に進むばかりが攻略じゃないってね」
「道を歩いてたらNPCに声をかけられたんですよ」
「イベント自動生成MMOの醍醐味だねぇ。ちょっと待ってな」
店主はそう言うと大きいハンマーを出して、金床の上で鎖鎌をカンカンし始めた。
「よしできた。ステータス上は攻撃力が上がるだけだけど、俺はマスクデータがあると睨んでる」
「今後に期待ですね」
受け取った『追憶』の鎖鎌はたしかに+3という表記がついていた。自分の武器を強化するために取るかな、鍛冶スキル。
「この腕輪は売り物ですか?」
並べられていた赤色のシンプルな腕輪を手にとって聞く。アクセサリ枠空いてるから、なんか欲しかったんだよな。
「ああ、赤光石と組み合わせたんだ。「あかがねの腕輪」と名付けた。防御力がちょっとだけ上がる。マスクデータは……期待できないな」
「普通の防具として使わせてもらいます」
「はいよ。500、いや、300ギニーでいいや。そのうち何かクラフトを依頼してくれ」
お安くしていただいた上に、フレンド申請まで受けてしまった。名前はホルーグさんというらしい。
「仲間にも宣伝しておきます。剣と槍の使い手はいませんが」
「もっと種類を増やすかなぁ……。ん?」
「なんか、急に騒がしくなりましたね」
急に周りの雰囲気が変わった。これまでの喧騒から、ちょっと緊張感があるというか、人の流れも変わってる?
「あー、またか。多分、モンスターが湧き出したんだ。一説によると、ダンジョン内にプレイヤーが多い時にそういう挙動があるっていうんだが」
「それでですか。こういう時、店はどうするんです?」
「そのままさ。警備とその辺のプレイヤーを信じる。今日の俺達は商人だからな」
謎の覚悟と共にホルーグさんは胸を張って答えた。イベントに参加し、店を開き続ける意地のようなものだろう。この手のお祭りでそんな心理が生まれるのはわからないでもない。
「じゃ、せっかくなんで、俺も沸いた奴を見てきます」
「応、気を付けてな!」
爽やかに挨拶を交わして、強化された鎖鎌を手に騒ぎのする方に向かうことにした。




