第24話:森に響く音2
きのこたけのこ大将軍。
長きに渡る、きのこ族とたけのこ族の戦いを終わりに導いた英雄。
森に現れるのはその気高い魂を宿した分身である。
地上に顕現した際は闘争本能をむき出しにして、森を荒らす人間に襲いかかることが多い。
以上、木こりをしながら読んだフレーバーテキストである。
「なるほど。長年の戦いに終止符を打った英雄ってことですね。その割に最後の一行が物騒すぎませんか!」
「ストレスが溜まるとこっちに顕現してる設定なんじゃないか?」
向こうにも事情があるんだろうな。
俺達の疑問をよそに、きのこたけのこ大将軍は悠然とこちらに向かって歩いてくる。
見た目はなんというか、わけがわからない。
和風の鎧からたけのこが頭部代わりに飛び出して、手足がきのこ。そんな感じだ。
背丈は140センチくらいだろうか。小柄だが横幅が広い。右手にあたる長いきのこに、どうやってか体よりも大きな太刀を持っている。
「最初はびっくりしたよ。和風なんだかトンチキなんだか、よくわからんモンスターが出てきてさ」
「トミオさんを驚かせるとはなかなかですね。で、強さはどんなもので?」
「基本接近戦のみ。それほど怖くない」
「なるほど! では、我ら必勝の戦術で参りましょうか。まずは、すごい石拾い!」
スキルを宣言するなり、優雅な動作で地面に向かって石拾いを行った。まるでバレエダンサーのような所作だ。無駄に凝ってる。素早く終えた右手には水色の綺麗な石が獲得されていた。
「わぁ、きれい」
「当たりか? 効果は?」
「いえ、ただの色付きの石ですね。普通のです」
「なんて思わせぶりなスキルなんだ……」
やっぱり運営側でネタ装備として用意してるんじゃないのか? 投石機。
そんな俺の疑念をよそに、きのこたけのこ大将軍は確実に接近していた。
「じゃあ、援護を頼むよ」
「おまかせを!」
フィーカは赤い紐で出来た投石機を回し始めた。しっかり武器も更新してるな。やりおる。
距離が近いので、一瞬で接近できた。大将軍は存在するのかわからない目で確認し、両手のきのこで太刀を大上段で構え……。
「チェストォォォ!」
ものすごい良い叫び声と共に振り下ろした。
「ファストアタック! スティルアタック!」
こいつと戦うのはもう三回目。見え見えの大ぶりを避けて連続攻撃を叩き込む。
「チェアァ!」
「ピタッとフック!」
鋭い声と共に来た横薙ぎの一撃を回避しつつ、右手前の木に向かってスキルを発動。
素早く斜め上に舞い上がり、途中で解除して着地。
直後、きのこたけのこ大将軍の頭部に石つぶてが直撃した。
威力が上がってるのか、凄い音がした。
「あ、まず……」
いい一撃だったけどタイミングが良くない。ヘイトがフィーカの方に向いた。
「フィーカ! そっちに行くぞ!」
「へ? でもこの距離」
「チェストォォォ!」
地面を蹴り割る勢いで大将軍が高速大ジャンプを敢行した。
フィーカめがけての直行便となったトンチキモンスターが刀を再び大上段に構える。
「ピタッとフック!」
「ひょええぇ!」
大将軍よりも早いフックがフィーカを確保。そのままこちらに引き寄せる。今度は直前でフックを解除。
「ぶえっ。あ、ありがとうございます」
不格好ながらも着地しつつお礼を言われた。ちゃんと使えるじゃないか。強制ラッキースケベ発生スキルになるかとちょっと心配したんだぞ。
「大将軍は一撃に全てをかけるタイプらしい。叫びながら攻撃とか今みたいなジャンプ移動をする」
「り、理解です。あの、チャージを使いたいので囮をお願いしても?」
「わかってる。タイミングは任せた!」
再び大将軍に接近。
「チェストォォォ!」
「ほんとにこのパターンなの、びっくりしたよな」
回避して三連撃を加える。そして少し距離をとって、向こうの攻撃を待つ。この繰り返しで、きのこたけのこ大将軍は撃破できる。英雄の割にあんまり強くない。地の利が俺にあるのも大きいとは思うが。
「いきます! チャージィィィ!」
落ち着いて戦闘を進めていると、フィーカが物凄い勢いで投石機を回し始めた。周囲に蛍のような光が散り石に集まるエフェクトまで発生している。
あれがユニークスキル『チャージ・ストーン・ショット』か。
「ぬぅぅ……このスキルは回転するほど威力が上がるのです! だから良い感じの所で打ちますので頑張って! 頑張れ頑張れ!」
「応援されてるのに挑発された気分になるのは何でだ……」
名前とは裏腹に面白いスキルだ。大ダメージを狙えるやつじゃないか。案外、使っていくと配信向けの派手な技になるかもな。
そんな感想を抱きつつ、何度か大将軍を切るとパターンが切り替わった。
「ヌゥゥ! チェチェストォォ!」
「ピタッとフック!」
大上段からの斬り下ろし、さらに追撃の斬り上げの二連続攻撃だ。しかも、二撃目はちょっと誘導が入る。
初見の時は食らって死にかけた危険行動。これは全力で回避させてもらう。
樹上に向かっての移動をキャンセル。着地して、接敵。この攻撃パターンは発動後の隙が大きく、硬直が長い。
「フィーカ! 今だ!」
「ストーン・ショットォォォ!」
俺の合図で、投石機から一条の光が放たれた。
まるでビームと化した投石がきのこたけのこ大将軍の胴に直撃。腹に大穴を空けると同時、魔力的な光が爆発するかのようなエフェクトが発生。
「ヌォオォォ!」
エフェクトの中、大将軍は痙攣するかのようにガクガクと揺れた。
やがて、演出が終わると地面に力なく崩れ落ちる、きのこたけのこ大将軍。
「みごとなり……」
そう言い残すと、ゆっくりと全身を灰のように変えてその場から消え去った。
なにこの演出。いつもと違う。
「やりました! 大勝利ですよ!」
「もしかして凄いスキルなのか、チャージショット」
「ま、MP半分ぶち込みましたからね! 当然です!」
強力なスキルは当然のように燃費も悪いらしい。これで連射できるたら困るが。
【アイテム:きのこたけのこの里山を獲得】
【アイテム:折れた刀を獲得】
【アイテム:きのこを獲得】
【アイテム:たけのこを獲得】
しっかりドロップ品も入ったな。しかし一番レアっぽい里山、何に使うんだろう。
「いやー、助かりました。ピタッとフック、物凄い便利ですね。感謝感激!」
「二人がかりで楽ができたよ。それで、相談ってなんなんだ?」
ようやく本題に戻れた。狩り場を指定した俺が悪かった気もするけど、それは口にしないでおこう。
「実はあたし、こちらに来てから色々な方に知り合いましてね」
「知ってるよ。SNSも見てる」
「おお、ありがとうございます。……って、土下座するところでした。ちがくてですね。その知り合った方から、ユーザーイベントに誘われたんですよ!」
「ユーザーイベント?」
「はい! プレイヤー有志の方で勝手にやるイベントです!」
「それは知ってるけど。何をやるんだ?」
俺もそこそこVRゲーを渡り歩いてきたからそのくらいは知っている。問題は内容だ。PvP祭りみたいのだったら全力で拒否したい。面倒なんだよ、そういうので生まれる人間関係が。
そんな心中を知らないフィーカは自信満々の顔をして質問に答える。
「第一回、ダンジョン商店街です! ぜひ一緒に参加しましょう!」
『きのこたけのこの里山』
長きに渡る争いが終わったことを示す平和の象徴。
これを持つことで無用な争いを避けることができる。
クラフト素材にも使用可能となっているが、現在は用途不明。