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一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO  作者: みなかみしょう


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第22話:追憶2

 イベント戦闘発生ポイントは、北の城壁を出てすぐの森の中。それも浅い所だった。MAPウインドウを開くとイベント発生地点が表示されるんだけれど、驚いた。ジェニファー婆さん達、本当に『モリス・ルクス』に逃げ込む直前にモンスターに捕捉されちゃったんだな……。

 

「……あった」


 森の中にある道をそれてしばらく歩くと、すぐにそれが見つかった。

 申し訳程度の墓石を建てられた小さな墓。場所柄すぐに緑に覆われそうだが、綺麗でわかりやすい状態でそこにあった。おそらく、最近ジェニファー婆さんが来たからだろう。


「さて、墓は見つけたけど。どうすりゃ出てくるんだ? 近づいたら自動出現か、それともお祈りでもするのか?」


 墓の周辺は木のないちょっとした広場になっている。いかにも戦闘できますという作りだ。周囲の木々は高く、枝を広げているのもあって薄暗い。時刻的には夜なんで真っ暗でもいいんだけれど、BWOにしては暗いという程度だ。


 ライトジェムストーンを一つ消費して、光源を作る。頭上二メートルくらいのところで光の玉が浮かび上がり、周囲を照らしてくれた。これで視界の問題はないだろう。


「……………」


 鎖鎌を装備した状態で墓石に近づく。離れて見る分には反応はなかったが。


◆【caution!】◆

【☆☆危険モンスター:ゴーストシーフ(鎖鎌) 推奨レベル22 出現!】

◆【encounter!】◆


 来やがった! 推奨レベルはまあ、許容範囲だ。やってみますか!


 目の前に若い男性、ややうっすらしている。レザーアーマーに鎖鎌。刃が青っぽい特別制。


 一応、交渉の余地がないかやってみるか。


「あー、ジェニファーさんから言われてきたんですが」

「……カセナイ」

「え?」

「ミンナノトコロニハ……イカセナイ!」


 片言の日本語で、鎖鎌を構えて睨んできましたよ! あ、鎖分銅持った!


「問答無用かよ!」

「ヤラセナイ!」


 明らかに相手人間だってのに! いや、妄執に捕らわれてて区別がつかないとかそんな設定か? それで、ジェニファー婆さんだけはギリギリ判別できる。……ありそうだな。

 一瞬、婆さんを連れてきて盾にする作戦が思い浮かんだけど自重した。多分、なにかフラグが折れる気がする。


「ココデトメル!」

「うわっ、あぶねぇ!」


 飛んできた鎖分銅をギリギリで回避。自分で使う分にはいいけど、逆は嫌すぎる。避けながら接近戦に持ち込まなきゃならんか!

 素早くインベントリから聖水を取り出して使用。上鎖鎌に一瞬だけエフェクトが輝き、対アンデット属性が付与された。ゲーム的にはベタに聖属性だ。


「感動的なこころざしだけど、成仏してもらう!」


 また飛んできた鎖分銅を回避。そのまま接近して、こちらも鎖分銅を投擲。

 軽い金属音と共に飛んだ鎖分銅が命中! 当たった上に拘束した!


「ファストアタック! スティルアタック!」

 

 すかさずスキルの連打で攻撃を入れる。

 

[盗賊の証を獲得]

 

 やった、スティル成功! いいっぽいアイテムだぞ!

 更に追撃……と思ったら拘束が解けた!


「クタバレ!」

「うわおっ!」


 向こうもファストアタックしてきやがった! そりゃシーフなんだから持っていますよね。何とか避けれたわ。


 そして距離をとったらまた飛んでくる鎖分銅、当然回避。……これ、攻撃パターン決まってるか?


 試しに鎖分銅回避後に、こちらのを投げてみる。……あ、避けた。ち、少しは学習するタイプか。


「やりにくいが、なんとかする!」


 鎖分銅からの拘束は強力だ。当たるわけにはいかない。そして、できればこちらは当てていきたい。装甲薄いシーフだからダメージが怖いんだよな。


 何とか拘束できないものかと、鎖分銅の投げ合いをすること数回。


 シーフゴーストと俺の投げた鎖分銅が互いに接触した。

 というか狙ってやった。これで絡まってチェーンデスマッチ状態になれば儲けものだ。多少の被弾覚悟で殴り合いに突入してやる。そんな精神からの行動である。


 上手いことぶつかりあった二つの鎖分銅は互いに絡み合うかと思ったら……。

 一瞬、電撃魔法的なエフェクトを出して、それぞれの手に戻っていった。

 

「そういう方向性かい! こっちのが面倒だぞ!」


 どうする。やはり被弾覚悟の接近戦か? 近距離で鎖分銅を投げてきたら避けきれる自信はない。超反応とか言っても限界はある。

 他に手段もないし、互いの近接スキルの打ち合いに賭けるしか。いや……。


「……やってみるか」


 一つ、思いついた。懲りずに投げてきた鎖分銅を回避して、一気に接近。向こうは鎌を持って備えた。接近戦の構え。一応、分銅投げにもクールタイムがあるので、それまでに近づかれると判断したか。


「……クタバレ!」

「ファストアタック!」


 シーフゴーストがファストアタックをしてきたのを見て、即座に俺も合わせる。

 鎖鎌による二連撃が互いに交錯し……。

 火花のようなエフェクトが散って互いに攻撃がキャンセルされた。いや、若干ダメージが入っている。


「……クッ」

「まだだよ!」


 のけぞったシーフゴーストに通常攻撃を叩き込む。久しぶりのちゃんとしたダメージだ。


「ヤラセナイ!」

「ファストアタック! そしておまけぇ!」


 再び相殺。そして追撃でダメージを入れた。


 上手くいった。推測……いや、妄想通りだな。推理と言うほどのデータはなかった。

 俺は鎖分銅が弾かれたエフェクトを見て一つ仮説を立てた。


 BWOにおいて、同じスキルは相殺して弾かれるのではないか?


 もしかしたらこの戦闘だけの特殊処理かもしれないが、そんな想像が脳裏によぎったのである。


 あるいはもっと条件は複雑なのかもしれない。

 シーフゴーストの推奨レベルは二十二。こちらとほとんど変わらない。シナリオボスとはいえ、元人間だからそれほどステータスも変わらないんだろう。


 つまり、近いステータスで同等威力のスキルをぶつけると相打ち判定になる。


 少なくとも、この戦闘では有効な説だ。


 もちろん簡単なことじゃない。相手の動きを読んで即座に反応しなきゃいけない。

 しかし、できないわけじゃない。


 以前、インターネット老師に昔の格闘ゲーム大会の動画を見せてもらったことがある。

 HPギリギリからダメージ無効のブロッキングを完璧なタイミングで入力。背水の陣からの逆転劇。実に心が震える動画だった。

 俺のやっていることに、あれほどの難易度も緊張感もない。レバー入力の格闘ゲームでなく、脳から直接身体を動かせるVRゲームなら十分可能な動きなのだ。


「クソ!」

「ファストアタック!」


 後は地道な削り合い。シーフゴーストのAIはMPがある限りファストアタックをするみたいだ。健気なまでに連打してくる。そのすべてを俺は相殺した上で追撃する。


 これはパターン入ったか? 勝ったかな?


 と思った所で向こうが距離をとった。


「あれ? 終わりです?」

「……シックザン」


 短く呟くと同時、シーフゴーストがその場から消えた。いや、超高速でこっちに突っ込んできてる!


「のおおおお!」


 鎖分銅を投擲。一瞬だけ止まった! 回避! いや、ちょっと当たった! シックザン……疾駆斬か。斬とか言うくせに、全身に当たり判定あるじゃねぇの!


「追い詰められてパターン変えてきたな……」


 HP回復ポーションを飲みながら相手を見る。再び鎖鎌を横に構えてこちらを睨みつけてるな。止まってる時に斬ればいいんだろうけど、向こうの方が早い。被弾すると結構痛い。かすっただけで二十くらいダメージ食らった。直撃したらHP半減だ。


「避けて殴る。上手くHP管理できるかな?」


 被弾上等。回復タイミングを間違えなきゃ勝てる。事故れば終わり。

 そう決めて鎖鎌を構えた瞬間だった。


★【おめでとうございます】★

☆【ユニークスキル「鎖鎌マスタリー」が発現しました】☆

☆【ユニークスキル「ピタっとフック」が発現しました】☆


 想像もしていないタイミングで、いきなりメッセージが飛び出した。


「なんだぁ!」

「……シックザン!」

「うわぁ、ちょっと待てって!」


 全力回避。二回目だし距離もあったから被弾しなかった。あ、また溜めに入りましたか。石でも投げてやろうか……。


 そんな思いと共に、手早く情報ウインドウを開く。


「鎖鎌マスタリー」

:鎖鎌の扱いにおいて様々な補正を得る。


「ピタっとフック」消費MP3

:鎖分銅がフック付きチェーンに変化。移動の他、アイテム、キャラクターの引き寄せに利用可能。射程は鎖鎌の習熟に比例する。



 これが噂の「プレイスタイルに応じたユニークスキル発生システム」か。使用武器関係で出ることが多いっていう話だったな。たしかにそんな感じの生え方だったが。


「シックザン!」

「もうちょっと待ってて! もしかしてボスだからMP無限なの!?」


 回避しつつ落ち着いて思考する。冷静になるのが難しいけど考えるんだ俺。


 「鎖鎌マスタリー」これは簡単。鎖鎌を使えば補正が入る。当面、鎖鎌使いとして生きていく運命が決定づけられたわけだ。


 そして問題の「ピタっとフック」だ。

 まず、名前がダサい。ここだけゴシック体になってないか十回くらい確認した。違った。

 名前は気に入らないが、性能はかなり有用に見える。攻撃力がない代わりに応用の幅が広い。こういうのは移動手段その他に大活躍するものだ。


 検証する時間はないので実戦で試すか!


「……シックザン!」

「さすがに予備動作は見切ったよ!」


 完全回避。ただ、超高速で数メートル向こうまで駆け抜けてしまうので、追撃は不能。

 さっきまではな。


「ピタっとフック!」


 声と共に鎖分銅が消え、先端部分からカギ付きのチェーンが飛び出す。速度が想像より早い。

 行き先はシーフゴーストのやや上方。森の木々の一つ。


 シャラララという涼やかな音と共に飛び出したフックはがっちりと木の幹に食いつく。そして、ウインチのような力強さで俺を引っ張った。

 つまり、かなりの速度でシーフゴースト目掛けて飛び出すことになる。


「ファストアタック!」


「……グ!」


 すれ違いざまに二連撃が入った。立体的な高速移動手段。思った通り、これは強い! 射程も十メートル以上あった。レベルアップでまだ伸びるんじゃないか?


「クラエ!」

「それは見切った!」


 苦し紛れに投げてきた鎖分銅。こちらも合わせて相殺。そのまま接近。


「マダ……!」

「ファストアタック!」


 疾駆斬のクールタイムが終わってなかったんだろう。ファストアタック相殺からの追撃で一撃。


「ピタっとフック!」


 間近で疾駆斬をされてはたまらない、森の木を目掛けて移動。試しに途中で解除と思ったらその通りになった。距離調整までできる、やはり有用だ。


「ピタっとフック。名前はともかく気に入ったぜ……」

「シックザン!」

「ピタっとフック!」


 ここが森の中というフィールドも味方した。フックをかける対象はいくらでもある。


「ファストアタック!」

「グゥ!」


 すれ違いざまにスキル攻撃を入れると、シーフゴーストが大きくのけぞった。

 今までにない反応。また新しいパターンか? そろそろ終わりだと思うんだが。


「…………」

「…………?」


 動きが止まった? MP切れか? いや、違う。


 シーフゴーストの目線は俺を見ていなかった。

 その視線は、戦場にいつの間にか現れた人物に注がれていた。


「ジェニファー婆さん!」


 弱々しい明かりを灯したランタンを手にしたジェニファー婆さんがそこにいた。こんな暗い中、モンスターのいる森の中を歩いてきたのか? いや、こういうのはRPGじゃよくあることだ。気にしちゃいけないんだ。


「……ア……ア……」


 武器をおろし、ゆっくりとジェニファー婆さんと向かい合うシーフゴースト。そこに敵意は感じられない。


 NPCはこの世界で生きている人間だ。幽霊になってしまった自分の伴侶。その最後を見届けに来ることは不思議でもないし、おかしくもない。むしろ、ちゃんとイベントが用意されていたことに感心する。


 同時にこれはイベント終了のトリガーが引かれたことも意味するのだろう。

 もう、ジェニファー婆さんの旦那さんは、戦わなくてもいいのだ。


「ジェニ……ファー……」

「優しいあなた。こんなお婆ちゃんになってしまった私でもちゃんとわかるのね……」


 婆さんの手が、シーフゴーストの頬をそっと撫でる。その瞬間だけ、輪郭の曖昧だったゴーストの顔がはっきりと見えた。

 優しそうな穏やかな顔をした青年。彼はジェニファー婆さんにそっと微笑んだ。

 

 その様子は、とても和やかだった。


「あなたのおかげで皆大丈夫。ありがとう。……もう、休んでいいのよ」

「……ソウカ、ヨカッタ」


 互いに視線を交わした後、シーフゴーストとジェニファー婆さんが俺の方を見た。


「いいんだな?」

「お願い。この人はよくやってくれたわ」


 聖水を使用。もう敵意のないシーフゴーストに鎖鎌を向ける。

 そのまま振り下ろされた刃を、ジェニファー婆さんの伴侶は静かに受け入れた。


「……アリガトウ」


 短い言葉を残して、シーフゴーストは夜の森の空気へ溶け込むように消え去った。


【クエスト「追憶の残響」をクリアしました】


 【3500EXPを獲得】

 【2000ギニーを獲得】

 【『追憶』の鎖鎌(攻+15) 獲得】

 【新聞記事のネタ『追憶の残響』を獲得」】


「お? マジか」


 武器まで貰えるとはサービスがいい。

 まさかのクエスト専用アイテムに一瞬小躍りしかけたけど何とか抑えた。まだ、目の前にジェニファー婆さんがいるしな。


「ありがとう。渡り人の人。これで、私の心残りもなくなったわ……」

「お役に立てたようで何よりです。えーと、家まで送りますね。ここ危ないですし」

「そうね。宜しくお願いします」


 どうやって無事にここまで来たの? という疑問は飲み込みつつ、俺はジェニファー婆さんを送ってこのクエストを終えた。


◯◯◯

 

  

「ありがとう。トミオ君。ジェニファーお婆ちゃんは私によくしてくれている人でね。何とか力になりたかったの」

「何とかなって良かったですよ。それで、記事にするんですか?」


 クエスト完了後、俺はその足で『ルクス新報』の事務所に向かった。

 想像通り、残業しているカリンがいたのでそのまま報告だ。記事アイテムを渡せば追加報酬でもあるかな? と期待したんだけれど、そんなことはなかった。残念。

 『追憶の残響』の記事アイテムはすでにカリンに渡したわけだけれど、


「ううん。これは記事にしない。個人的なお願いでもあったから。報道しない自由があってもいいわよね?」


 口元を軽く笑みの形にして、新聞記者は言った。


「俺もそれがいいと思います」


 NPCとはいえ、ジェニファー婆さんの個人的なことが暴かれる記事は世に出ない方がいいだろう。


「じゃあ、俺の仕事はこれで終わりってことで」

「あ、待って!」


 席を立とうとすると、カリンが慌てて俺を呼び止める。連続クエストは終わった。爽やかな気持ちで退出したいのだが。


「あのね。今回とても助かったの。だから、トミオ君が良ければ、また力になって貰えないかなって思うんだけれど。もちろん、報酬は弾むわよ!」


 微妙に上目遣いで、それまでの強気な態度とは打って変わって控えめに出てきた。ここに来て可愛さを出してくるとは、よくできたNPCだこと。


「それにつきましては、前向きに善処しつつ検討を重ねたいと思います」

「微妙な返事をするのね、トミオ君……」


 玉虫色の返答にもちゃんと反応を返された。うん、これでいい。しばらく連続クエストはしなくていいかな。


「また、様子を見に来ますよ」

「期待してるわ。お疲れ様。ありがとう」

 

 こうして、色々と得るものがあったNPC発の連続クエストは幕を閉じた。

 大変だったけれど、割と楽しめたので良しとしよう。


★【連続クエスト 『新米記者カリンのお手伝い』 を達成しました】★

【3000EXPを獲得】


 無事にレベルアップだ。やったね。

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