第15話:専用武器と探索
「そうだトミオさん。良ければこちらを受け取って頂けると嬉しいのですが……」
森の中を歩きだすなり、フィーカが恐る恐るアイテム受け渡しのウインドウを出してきた。
「鎖鎌。あ、シーフ専用装備なのか。なんでフィーカが持ってるんだ?」
「いやー、実はレンジャーになった後、見栄えの良さそうな装備をお店で物色しましてね。それで、これだ! と思って買ったらシーフ専用装備だったというわけです」
「売ればよかったんじゃないか?」
「そのうちシーフをやるかもなーと思いまして。フロントタウンでのお礼もしていませんし、是非受け取って頂ければ!」
俺と会ったのは偶然だから、本当にたまたまシーフ専用装備を持っていたのか。
「貰っておけば? ショートソードよりは強いだろ?」
「……どんな動きをするか見たい」
仲間達も前向きなので受け取ることにした。お礼は素直に受け取る。インターネット老師の教えだ。
「ありがたく受け取るよ」
「いえいえ、お気になさらず。今回は正当な対価ですから! 次からはコサヤ様とのチェキでお願いします!」
「それは俺を通さず本人と交渉してくれ」
ちなみに直後に「……なんかやだ」と断られて悶絶していた。
・鎖鎌(攻+6 ※鎖分銅に拘束機能あり【シーフ専用】)
さっそく装備してみると、鉄製の鎌が手の中に出現する。
「へぇ、先端部分に鎖分銅がついてるんだな。こっちも実際存在したんだよ」
「大体のゲームは柄尻から伸びてますもんね」
鎖鎌の先端部分についた鎖分銅。手に持ってみるとジャラジャラと鎖が伸びていった。
「おー! 鎖が生えてきましたね!」
「……魔法の武器みたい」
「ゲーム的な処理だな。射程はどれくらいある?」
カモグンさんが暗に「投げろ」と言ってきたので、鎖分銅を出した状態で振り回し、木の間に向かって投げた。
大体、五メートル位先まで鎖が伸びて止まった。
「拘束機能もあるみたいなんで、中距離戦も対応できるかもですね、これ」
「パーティー戦だと役立つかもしれんな。フィーカさんは良いもの持ってきてくれたかも」
「へへへ、お褒めに預かり光栄です。お気に召したようで何より」
「……次の戦闘で試してみよう」
バスタードソードを軽く振りながら言うコサヤさん。これはとても楽しんでいる時の動きだ。軽い足取りで先頭を進んでいる。
「では、もう少し先の奇襲ポイントに行きましょう! ふはは! 蜘蛛めが、力を増したあたしに勝てると思うでないぞ!」
「お前の力じゃないけどな……」
小さく呟くと目をキラキラさせてこちらを見た。くそ、聞こえてたか。ついツッコミ入れちまう。
上から来るぞ、ということで警戒しながら進むと六匹のモノクロ・スパイダーが飛びかかってきた。知っていればどうということはない。殺意の低い奇襲だ。そうでなきゃ、フィーカが逃げられない。
「よし、出てきたな!」
カモグンさんが武器を構える。小さめのメイスと、ラウンドシールド。アルケミストは鈍器や斧も装備できるのが良いらしい。スキルは錬金術で武具や仲間を強化するものもあるそうな。
「ヒャッハー! 先生方お願いします! あたしは援護に集中しますんで!」
「……カモグンの近くにいて」
「じゃ、試してみますか!」
さっそく鎖分銅を手近な一匹目掛けて飛ばす。
シャラララと小気味よい音をたてて飛んだ鎖分銅は、モノクロ・スパイダーに近づくと勝手にくるくると回転して雁字搦めにした。
【拘束中】
青白いエフェクトと共に文字が出てくる。残り時間のゲージが現れ、徐々に減っていく。この様子だと、十秒以上止まるな。
「なかなか面白い挙動をするな」
「……もらった」
素早くコサヤさんがパワースラッシュを混ぜ込んだ攻撃で始末。そのまま次に向かっていく。
「トミオも前に出ろ。拘束しながら叩けるか試してくれ」
「了解」
残りは四匹。とりあえず飛びかかってきたのを軽くかわし、そのまま一撃。鎌部分もショートソードよりは強い。蜘蛛は生意気にも距離を取ろうとしたので拘束。そのまま鎌で殴る。
「きゅっ」
短い断末魔をあげて消えていく。これは、拘束中は相手が物理攻撃できないやつかもしれん。結構強いかも。
そんなことを考えていたら、顔の横を高速で石が通過していった。
「よし、命中! どーですかこの投石! 見事なものでしょう!」
「動いてる相手に良く当たるな。すごいすごい」
目の前の一匹を倒しつつカモグンさんが、フィーカに雑な称賛を送っていた。
投石はコサヤさんの前にいるやつに当たったようだ。大分HPを削ったようで、すぐにトドメを刺された。
蜘蛛による奇襲イベントはあっさりと蹴散らすことができた。四人もいれば楽勝だ。
「で、あそこがボス戦なわけね」
「では、やってしまいましょう! このままクエストクリアだぜぃ!」
「……待って」
順調に森の中を進むと、あからさまに広くなっている場所でボスと子供がいた。
とりあえず、そのまま進まず遠くから様子見である。NPCも細かく設定されていないのか、こちらに気づく様子はない。
「子供と人間……ネット情報だとこちらの世界のアルケミストだったな」
「ふむふむ。誘拐犯というわけですね。それで、なんであたしはコサヤ様に止められてるんでしょうか?」
「……このままだと完全クリアできない」
「どういうことです?」
「このクエストを作成した奴に覚えがあってな」
手短に、このシナリオとゴシックPの関係を説明する。
「わかりました。それでこのままクリアは駄目なんですね! しかし因縁の運営ですか。撮れ高ありますなぁ」
「昔の話だからそんなに受けないと思うぞ」
「いえいえ、そうでもありません。こういった歴史的な経緯など、せっかくだから解説させて頂きますとも!」
フィーカはすぐに理解してくれた。口数が多い以外は本当に優秀だ。
「トミオ、どうする?」
「一度戻りましょう。あれだけ言ってた金色の蝶がいないのが気になります。あいつが蝶の仕掛け人なら、周りに飛んでないのは不自然だ」
ひと目見てピンと来た。これは道中に何か仕掛けがある。
マップを開き、これまで蝶を見かけた場所のメモを確認する。
「多めに見かけたところから当たってみるか? 脇道があるかもしれん」
「ですね」
「……行こう」
「判断が早い……。もちろん喜んで着いていっちゃいます! 面白いもの出てくるかなー」
そんなわけで、俺達は一度引き返すことにした。すまん、アニーマ族の子供よ。少し待っててくれ。




