第14話:三下再び
「改めまして。フィーカと申します。三下系配信者をやっておりますっ。この度は危ないところを助けていただき、心より感謝を致しますぅぅ……」
改めて土下座しながらフィーカはそう名乗った。金色混じりの赤い後頭部がよく見える。こんなに女子の土下座を見たのは初めてだ……。
「……頭を上げて」
「ははっ。ありがとうございます。コサヤ様……とお呼びしても?」
「……いいよ」
目ざとくキャラ情報で名前を確認しながら謎の会話をしている。コサヤさん動じないな。
「やった! 見ましたかトミオさん! もはや友達ですよこれは!」
「様呼びは友達なのか? はじめまして、俺はトミオ。こちらはカモグンさんとコサヤさん。古いゲーム仲間だ」
「今さり気なく自分も初対面みたいな対応しましたよねっ!? 親愛度リセットされましたか!」
「まあな。それで、何してたんだ?」
話が進まないことこの上ない。うっかりこのノリに巻き込まれかけてしまった。反省だ。
「へへぇ。あたしも無事にレンジャーのクラスになりまして。修行がてら、こちらのクエストを受けたわけです。で、ヒィヒィ言いながら何とかここまで進んだら、先の道で奇襲されまして……」
「……数は?」
「白黒の蜘蛛が六匹ですね。ダメージ受けつつも何とか逃げつつ射撃して数を減らしたのですが、力及ばず……です」
つまり、奇襲に対応しつつ引き撃ちしながらここまで来れたわけか。戦闘するゲームの経験はほぼ無いって話なのに、頑張ったな。
「その後はここで復活のタイミング待ちってことね」
「はいっ。奇襲のことをお伝えすると皆さんお礼を言ってくれました!」
助かるといえば助かるだろうな。このノリでなければ、もっと早く復活してただろうに。
「フィーカさん。レンジャーみたいだけどレベルと武器は? 良ければ僕らと攻略しませんか?」
カモグンさんの常識的対応! どうやら、ファースト・インパクトを抜け出したようだ。その上で普通に応対する方針にしたようだな。
誘いを受けて、フィーカはあからさまに目を輝かせる。赤金のツインテールを揺らしながら、激しく頷く。
「ああああ! ありがとうございます! ありがとうございます! その言葉を待っておりました! 現在レベルは11! 武器はこちら、専用武器の投石機にございます!」
そう言って取り出したのは紐。持ち手と石を置く場所に皮がとりつけられた、シンプルな投石機だった。
「こんな武器あるのか……弓の方が強いんじゃないか?」
「リアルじゃ投石は馬鹿にならないんだが。このゲームだとどうだろうな……」
「……当てるの難しそう」
「なんて微妙な反応! 特にトミオさん! あたしをこんな体にしたのはあなたが原因なのに!!」
「…………お前」
「………………なにしたの」
「人聞きの悪い言い方はやめて! 投石で援護して貰っただけですよ!」
自動的に俺の評判を下げる能力でも持ってるのか。やはりあの時見捨てるべきだったか?
「いやまあ。石って無料で拾えるから便利なんですよ。それに弓よりも当たった時の「ゴン」って音も良くてですねぇ……」
今度はニチャリと笑いながらそんなことを言う。……俺はとんでもない奴を目覚めさせてしまったのかもしれん。
「ま、そんな所です。接近されるとかなり弱いのでよろしくお願いしますっ」
「こんな感じだけど、意外と的確な行動はしてくれますよ」
「おおっ、なんという優しきフォロー。色々誤解されること言ったのに!」
「わかってての発言なのかよ! まあ、レベルも上がってるし人手が多いのは助かるから頼むよ」
「そう言って頂ければ。時にトミオさんのクラスとレベルは?」
「シーフのレベル10だけど?」
「フッ、どうやら下剋上は成ったようですね。あたしの天下です」
「……私はレベル15」
「ははー! このフィーカ。コサヤ様に着いて行きます。どこまでも!」
また土下座した。そういう機構の玩具なのかこの子は……。念の為、相手は選んでやった方がいいと教えておこう。心配になってきた。
「……このネタみたいなトークはいつまで続くんだ?」
「キリがないから、もう行きましょう」
疲れた様子でカモグンさんが呟いたので出発する。この人にも苦手なタイプがあるとはなぁ。
「あ、待ってください! 最後に一つ。皆さん、あたしの配信動画に出てくれませんか? 特にコサヤさん!」
「…………断る」
「動画に顔出しは無理」
「同じくやだ。これ二度目だな」
全員で即答すると、フィーカは再度土下座して俺達に動画撮影と配信の許可をとりにかかってきた。
結局、モザイク満載、音声加工満載、事前チェックありでOKとした。




