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一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO  作者: みなかみしょう


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第1話:ゴシック体の思い出



 ゴシック体を見るたびに思い出す。


 あの、屈辱の日を。


 VRMMORPG『ゲヘナ・オンライン』。フルダイブ型VRゲームが普及しきったゲーム業界で好評を博していた作品だ。

 タイトル通り地獄を思わせる荒涼とした世界を舞台にしたダークファンタジー。そこで繰り広げられる冒険と戦い。地味ながら味わいのあるシステムと噛み合っている良作だった。


 俺はそのゲームのサービス終了近くにログインした。当時は中ニ。学校のテストで高得点をとって、ようやく買ってもらえたVRギアに無料で付属していたのが理由だった。


 既に『ゲヘナ・オンライン』は老舗ともいえるタイトルで、プレイヤーもゲームもほぼ『出来上がって』いた。むしろ、ちょっと過疎っていた。


 そんな人の少ないVRMMOで待っていたのは、幸運にも良い出会いだった。地獄の悪魔みたいなアバターを使うプレイヤー達は新人を歓迎してくれて、色々と教えてくれた。

 時に冒険し、時に共闘し、時に殺し合う。

 『ゲヘナ』での日々はとても楽しかった。ゲームにハマっていたと言ってもいい。


 そして、終わりの日がやってきた。


 俺が初めてログインしてから半年でサービス終了の告知。さらにその半年後、最終イベントでゲームが閉じられることになった。


 サービス終了については納得していた。始めた時点で過疎っていたし、既に古いタイトルだった。更に開発会社が買収されたりという不穏な空気もあったという。


 問題はサービス終了に伴って開催された最終イベントだ。


 『ゲヘナ・オンライン』の運営が用意するイベントは評判がよかった。

 いつもプレイヤーの攻略できるギリギリを用意してくれる。失敗することがあっても、納得のいく失敗になることが多い。そんな評価だ。


 最終イベントは神界からやってきた天使たちとの決戦。

 いつも赤黒かった空が真っ青に染め上げられ、神々しく登場した神の軍勢と俺達は対峙した。


 最後だからと復帰組も多く、プレイヤー達は意気込んで最終決戦に望んだ。


 そこで、情けをかけられた。


 天使軍の主力との決戦。どうにか少数が敵の本陣への殴り込みに成功。俺も運良くそこに加われた。


 大暴れする俺達の前、最後に現れたのは十二枚の翼を持つ巨大な天使。


 プレイヤー全員で全力で挑んだ。


 そして、届かなかった。


 一枚ずつ黒く染まっていく天使の羽。それがイベント進行の証だった。

 一枚、また一枚と俺達の攻撃は届いていく。


 十一枚の翼が黒く染まり、あと一枚。それももう少しというところ。


 そこで、俺達のリソースが尽きた。


「誰か! 攻撃できないのか!」

「無理です! 回復アイテムも尽きた!」

「自爆でもなんでもいい! 使えるスキル残ってないか!」

「自爆できる奴は先にいっちまったよ!」


 その瞬間、戦場に立っていたのは十人もいなかった。攻撃も回復も品切れ。時間と共に、天使の羽根は白く戻っていく。バフもなしの通常攻撃で削るのは望み薄。


「これで最後ですし、一か八か殴りかかりましょう!」

「……そうだな。うっかりクリティカルするかもしれん」

「だね。やぶれかぶれだ」

「ああクソッ。最後の最後までギリギリとはな!」

「…………いいバランスだ」


 選択の余地はなく、すぐに方針が決まった。

 最後の力で全員で攻撃にかかった。殆ど特攻といってもいい通常攻撃。

 あの場の全員が、イベント失敗、敗北すると思っていた。

 でも、それでいい。全力を出して負けたのなら。それが『ゲヘナ・オンライン』だったと納得できる。


 言葉にしないけど、全員がそう思っていたはずだ。


 しかし、その思いは裏切られた。


【十二翼の織天使 明けの明星は倒された】


「は?」


 その発言を誰がしたのかは覚えていない。もしかしたら、俺だったかもしれない。

 散発的な攻撃の中、突然天使の羽根が全て真っ黒に染まった。

 現実を認識するよりも早く、状況は進んでいく。


【神の軍勢は 煉獄に落ち ゲヘナは続いていく……】


 呆然とするプレイヤーの眼前で、馬鹿みたいに巨大なテロップが現れ、流れていく。

 巨大なゴシック体で。


【悪魔たちの日々は続く この地獄の中の地獄で……】


 『ゲヘナ・オンライン』には名物スタッフがいて、その人が担当するイベントの時には説明などの文字が全てゴシック体になるのが定番となっていた。

 最初は設定ミスだったらしいが、なんだかんだで『ゴシックP』と呼ばれ、愛されていた。


「嘘だろ……」


 いつもギリギリのバランスで、プレイヤーが負ける時は容赦なかったゴシックPが……。


「日和りやがった……」


 イベントに勝った喜びはない。

 あるのは屈辱だった。

 温情をかけられたのだ。

 ただ、綺麗にゲームを閉めるためだけに。


【ゲヘナ・オンラインは本日現時点をもってサービスを終了致します……】


 ゴシック体のアナウンスは続く。

 俺は、俺達は、それを茫洋と眺めることしか出来ない。


【これまでの多大なるご愛顧に感謝すると共に、最後にプレイヤー側の勝利でゲームを締めくくることが出来たことは、スタッフ一同……】


「勝ってねぇよ……」


 思わず口をついて出る呟き。周りの仲間達も、納得はしていない。憮然とした顔でテロップを眺めている。


【きっとまた、皆様にお会いできることと思います。それでは、よい地獄を!】


 赤黒い空に踊る極太のゴシック体。

 それに向かって、俺は全力で叫ぶ。


「絶対に倒してやる! 次があったらな!」


 直後、俺は『ゲヘナ・オンライン』から強制ログアウトされた。


 あの時の屈辱は、今でも覚えている。おかげでゴシック体を見るだけで血圧が上がるほどだ。日常生活に支障をきたす。


 そして、五年後。驚いたことに機会がやってきた。


 新作ゲーム『ビヨンド・ワールド・オンライン』。

 ここ数年で大きくなったVRゲームメーカーの期待の新作。ライトな雰囲気のファンタジーRPG、それとは裏腹に戦闘やクラフト系など深いやりこみ要素が売りだという触れ込みだ。


 問題は公式にアップされたスタッフからのメッセージだった。

 ゲームに対する意気込みを述べた、短いメッセージ集。その最後の一つ。


 「非常に力を入れています。お楽しみに」


 そこに使われているフォントはゴシック体だった。

 ページ内で、そこだけが。


 奴は帰ってきた。

 だから、俺達も帰ることにした。

 あの場所へ。


楽しんでいただけたら、フォローや☆を入れて頂けると嬉しいです。

続きを書く上で、とても励みになります。

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