表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

指先ひとつの、温度

十二月下旬。まだまだ寒く、吐いた息は真っ白であった。

(おお、寒い寒い)と口元まで埋まってしまうほど、コートを引っ張り、顔を冷たい風から守る。

そんな寒さの中で、私の友人二人は、非常に元気であった。年中半袖短パンを履いている男児のように、寒さを諸ともしていなかった。

あろうことか、二人は私を置いて、「ここのお店のご飯美味しそう!」「あー、アレ見て可愛いー!」だのと、先々に若干早歩きで歩いていく。

最終的には、耐えられずに、走り始めたことには、思わず頭痛を感じた。


前を走る二人の友人を私は、ハラハラとしながら見守っていた。

友人二人は、少し鈍臭い。そのため、目を離したら何があるのか分からない。

感覚的には、育児のようなものである。


「競走しよう!」


「望むところだー!」


高校生だというのに、二人の言う事も、やる事なす事、大抵が幼稚なことである。

実質、小学生。

全く。どこの名探偵の逆なんだ。


止める暇もなく、友人二人の姿はとうになかった。その代わり、坂道を登った先に、二つの影が並んでいて、こちらに手を振っていた。


(めんどくせぇ)


顔にも行動にも出さず。表面上はにこにこと、仕方ないなぁと言う顔をするが、心の中で悪態を着く。


「元気でいいじゃないか」


不意に、隣に居た男が口を開いた。

驚いて、その凛とした横顔を盗み見る。

いつもの、無表情とは打って変わって、面白いものを見たと言わんばかりに笑っていた。

その笑う顔が、なんとも可愛くて、慌てて目を逸らして、「そうかもね」と返す。

しかし、目の奥には彼の笑う顔ばかりが消えずに入り浸っていた。


そうして、心の底から声にならない声を口の中で叫ぶのだ。


_____好きだなぁ


少し冷たいところも、何だかんだで面倒見がいいところも。

私を見ることはない、その目も。

全部全部、痛くて、苦しくて、愛おしくて、好きで好きで、狂ってしまいそうで。


真っ白な息を吐く。


そうしてまた、誤魔化すように、私は笑うのだ。

痛みも苦しみも、何も知らない無知な子供のように。

胸の痛みから目を背けて、なんでもない顔で彼の隣に立つのだ。


好きだよ。


返事はない。言うつもりはない。言えるはずもない。

そのくせ、気づいて欲しいと願う自分がいて、それがなんとも厚かましくて。

気持ちが悪いなぁ、と自分でも思うのだ。


けれど、今は。


今は、彼の隣に立っているのだから、無害で無邪気で、友人たちの面倒を見る子供で居なくてはならない。


悟られたくない。彼の隣に無条件に立てている今を失いたくない。壊したくない。

私は存外、臆病なのだ。そんな私に、冷静な部分が嘲笑する。

間抜けだと、嫌な奴だと言うのだ。

自分で自分に後ろ指を指しながら、今日も彼の隣で笑う。


____それでいい。それがいい。


結局のところ、私には勇気も度胸もない。

所詮、その程度のーー好きなのだ。



不意に、彼が私の手を取った。


その手の冷たさにびっくりして、彼を見ると、薄らと笑いながら


「早く行こう」


そう、私の手を引いた。

なんでもないその仕草に、また胸が痛くなるのと同時に、体がまるで、真夏の中のように暑くなった。


「うん、そうだね」


辛うじて、そう返しながら、軽く私よりも一回りも大きなその手を握った。

大した意味も、なんでもない行動だったとしても、私にとっては、確かな特別なのだ。


彼は、どこか満足気に笑いながら、指と指を絡ませる繋ぎ方をしたのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ