指先ひとつの、温度
十二月下旬。まだまだ寒く、吐いた息は真っ白であった。
(おお、寒い寒い)と口元まで埋まってしまうほど、コートを引っ張り、顔を冷たい風から守る。
そんな寒さの中で、私の友人二人は、非常に元気であった。年中半袖短パンを履いている男児のように、寒さを諸ともしていなかった。
あろうことか、二人は私を置いて、「ここのお店のご飯美味しそう!」「あー、アレ見て可愛いー!」だのと、先々に若干早歩きで歩いていく。
最終的には、耐えられずに、走り始めたことには、思わず頭痛を感じた。
前を走る二人の友人を私は、ハラハラとしながら見守っていた。
友人二人は、少し鈍臭い。そのため、目を離したら何があるのか分からない。
感覚的には、育児のようなものである。
「競走しよう!」
「望むところだー!」
高校生だというのに、二人の言う事も、やる事なす事、大抵が幼稚なことである。
実質、小学生。
全く。どこの名探偵の逆なんだ。
止める暇もなく、友人二人の姿はとうになかった。その代わり、坂道を登った先に、二つの影が並んでいて、こちらに手を振っていた。
(めんどくせぇ)
顔にも行動にも出さず。表面上はにこにこと、仕方ないなぁと言う顔をするが、心の中で悪態を着く。
「元気でいいじゃないか」
不意に、隣に居た男が口を開いた。
驚いて、その凛とした横顔を盗み見る。
いつもの、無表情とは打って変わって、面白いものを見たと言わんばかりに笑っていた。
その笑う顔が、なんとも可愛くて、慌てて目を逸らして、「そうかもね」と返す。
しかし、目の奥には彼の笑う顔ばかりが消えずに入り浸っていた。
そうして、心の底から声にならない声を口の中で叫ぶのだ。
_____好きだなぁ
少し冷たいところも、何だかんだで面倒見がいいところも。
私を見ることはない、その目も。
全部全部、痛くて、苦しくて、愛おしくて、好きで好きで、狂ってしまいそうで。
真っ白な息を吐く。
そうしてまた、誤魔化すように、私は笑うのだ。
痛みも苦しみも、何も知らない無知な子供のように。
胸の痛みから目を背けて、なんでもない顔で彼の隣に立つのだ。
好きだよ。
返事はない。言うつもりはない。言えるはずもない。
そのくせ、気づいて欲しいと願う自分がいて、それがなんとも厚かましくて。
気持ちが悪いなぁ、と自分でも思うのだ。
けれど、今は。
今は、彼の隣に立っているのだから、無害で無邪気で、友人たちの面倒を見る子供で居なくてはならない。
悟られたくない。彼の隣に無条件に立てている今を失いたくない。壊したくない。
私は存外、臆病なのだ。そんな私に、冷静な部分が嘲笑する。
間抜けだと、嫌な奴だと言うのだ。
自分で自分に後ろ指を指しながら、今日も彼の隣で笑う。
____それでいい。それがいい。
結局のところ、私には勇気も度胸もない。
所詮、その程度のーー好きなのだ。
不意に、彼が私の手を取った。
その手の冷たさにびっくりして、彼を見ると、薄らと笑いながら
「早く行こう」
そう、私の手を引いた。
なんでもないその仕草に、また胸が痛くなるのと同時に、体がまるで、真夏の中のように暑くなった。
「うん、そうだね」
辛うじて、そう返しながら、軽く私よりも一回りも大きなその手を握った。
大した意味も、なんでもない行動だったとしても、私にとっては、確かな特別なのだ。
彼は、どこか満足気に笑いながら、指と指を絡ませる繋ぎ方をしたのであった。