くもりのち、ずっと晴れだった
倦怠期描写あり
好きなのに、好きじゃないみたい。
彼のことが今でも好きなのに、好きじゃないみたいで、こんな矛盾を抱えてしまう私に嫌悪した。
触れられたら、嬉しいし、安心する。声を聞けば、微かに心が揺れる。
だけど、何時からか、彼のその瞳に私が映っていないような気がして。
一緒にいるのに、独りみたいで、寂しかった。
けれど、その寂しさを彼以外と埋める気力も、度胸もなくて、今日もまたズルズルと引き摺っていた。
これを、人は恋と呼ぶのだろうか?
そんな問いかけを自分にかけても、わかるはずもなく。
別れた方がお互いのためだと理解しておきながら、別れを切り出す勇気も持てずに。
私は今日も、彼の隣を占領してしまっていた。
―――――
くずくずと、涙が目から溢れ出し、嫌な考えばかりが脳裏を過ぎる。
彼が、他に、好きな人が出来てしまっていたら、どうしよう?
もしかして、このまま別れちゃうかも。
嫌な事ばかりを考えて、悲しくなって、それを否定できない自分にかけて嫌気と共に悔しさを感じて。
彼から誕生日プレゼントで貰った、兎のぬいぐるみに顔を埋めた。
寂しい、ではない。
悲しい、でもない。
好きで、有り続けたかった。
これは、俗に言う倦怠期というやつなのだろうか?はたまた、ただ彼に飽きられてしまっただけなのでは?
折角涙が止まっというのに、また溢れて止まらなくなった。
会いたくて、会いたくなくて。
声が聞きたくて、聞きたくなくて。
気が付いたら、彼に電話を掛けていた。
慌てて、切ろうと画面を見れば、丁度彼に電話が繋がってしまい、慌てて耳を当てた。
____『もしもし』
久し振りに聞いたような気がする彼の声は、酷く気だるげだった。
ぎゅっと、胸が締め付けられた。
せめて、泣いていたことは悟られないように、明るい声を出すように心掛けた。
「あ、もしもし?ごめんね、突然」
なんでもないように、ただ、何となく電話をしたというていで、特に何も話題がないのに電話をし続けようとした時、彼が不意に尋ねた。
____『泣いてたの』
どくり、と心臓が大きく脈打った。
「そんな訳ないじゃん、何言ってーー」
____『分からないとでも思ったの?』
私の声を遮ってまで、彼は酷く不機嫌そうに続けた。
____『待ってろ』
そう言って、普通の人なら電話を着ると言うのに、彼は電話を切ることなく、そのまま、支度を始めてしまったようで。
「いやいや!?今真っ暗だよ!危ないよ」
____『可愛い彼女が泣いてんのに、会いに行かない男とか居ると思ってんの?』
可愛い、なんて不意に言われたものだから、顔に熱が集まってきた。
____『照れてるだろ、あー可愛い、早く会いたい』
さっきの言葉、前言撤回しよう。
倦怠期なんか、来ていないかもしれない。
彼の言葉を聞く度に、私の中で根付いていた不安が、いとも容易くなくなっていく。
自分で言うのもあれだが、随分とちょろい女である。
ガチャ、と電話越しに扉を開ける音がした。
電話越しの彼の足音が、早くなっていく。
微かに聞こえる車のエンジン音。
ああ、本当に来てくれるんだ。
この何気ない日常音だけで、私の心は、満たされて、いっぱいになった。
―――――
ピンポーン、と深夜にも関わらず、チャイムの音がした。
私は、慌てて、玄関に行き、何の疑いもなく玄関の扉を開けた。
やはり、そこには眠たげな彼が立っていた。
何か言おうと、口を開いたとき、突然額に痛みが走った。訳も分からず、少し後方に下がり、額を両手で抑える。
彼は、先程とは打って変わって、やや不機嫌そうな顔になっていた。
「警戒心がない。俺じゃなかったらどうするつもりだったんだ」
呆れたような声でそう言われるものだから、少しメンタルブレイクしていた私に深く突き刺さり、泣きたくもないのに涙が出そうになった。
彼は、そんな私の様子に気がついたのか、はぁ、と少し溜息を着くと、そっと玄関の扉を閉め、戸締りをしっかり確認した後、私の方を向いた。
そして、両手を私の方に広げた。
私は、どうすればいいのか、いや、わかっているのだが、触れてもいいのかと疑問に思ってしまい、動けずにいると、急かすような短い声で「ん」と言われるものだから、ままよ!と彼の胸にダイブした。
彼の確かな温もりを全身に感じて、思わず涙が滲んでしまった。気がついてほしくなくて、ぐりぐり、と顔を彼に押し付けると、彼が微かに笑ったような気がした。
「不安になったんだろ?」
確信めいたその言葉に、どきりと心臓が跳ねた。
「悪かった…まぁ、所謂倦怠期ってやつだと思うが…」
そう言うと、彼は一度言葉を止め、私の顎を掴んで無理矢理目線を合わせると、彼はきゅう、と目を細め
「別れるつもりはない」
そう言い切ったのである。
「今は好きだと思えなくても、それは一時期の感情だろ?」
「なら、俺は別れるつもりはない。」
「お前も、「好きじゃないかも」「別れた方がいいかも」だの、くだらないこと思うなよ」
怒涛の告白に、頭がパンクしてしまいそうだった。心臓が、激しく脈打っている。顔に熱が集まって、やけに暑かった。
「それとも、俺に「他に好きな人ができた」なんて思ったりしたか?」
何と言っていないのに、彼は「したんだな」と確信したような声で断言し、不気味なほど綺麗な笑顔で笑った。
「俺がどんだけお前のことが好きなのか、教えてやるよ」
その刹那、私の唇に彼の熱が移った。