武闘派体育祭 7
駈ける、駈ける。ひたすらに駈ける。目の前に広がる200m、それを十五周分。
こいつを可能にするにゃぁ、それなりの体力を温存しながら走らなきゃぁ途中で力尽きる。
要するに全力を出しちゃあいけねぇ、いわば半力ではしらなきゃならねぇ。
だがそれでも、ここを走る誰よりも、あたしは速い!
「なんだこの速さは!?ここにきて大友虎美、下位をさらに突き放します!」
後ろから追い上げてくるのは、あれは1年2組の若い衆だろうか。
なかなか見込みはあるが、この調子だとあたしには届かないだろう。
このトラックの一周分など、あたしにとっては準備運動にすらならねぇ!
桜井鉄子...これくらいのハンデならくれてやらぁ!
「さぁ、大友虎美は誰にバトンを渡すのか...いや、これは、なんだと!?スタートラインにだれもいない!?どういうつもりだ大友虎美!?」
あたしはそのままそのスタートラインを突き抜ける。バトンを渡す相手などいない。この先は誰の助けもいらねぇ!
…
「姐さん!ありゃあ...!?」
「......!」
大友虎美が15周目に割って入ってから5分。虎美は誰かにバトンを渡すことは無くそのまま残りの周回を駆けていく。彼女に何があったか大方の予想はつくが、まさかこのような手に打って出るとは思わなかった。
しかし、虎美にとってはそれはハンデですらないらしい。まるでペースが衰える様子はない。むしろ上がっていっている位だ。みるみると2位を突き放していっている。そしてこのまま残りの周回を走り切る心算だ。
「ありゃあまずいですよ!わしらでは太刀打ちできませんぜ!」
「...こうなったら、わしが出るしかあらへんな......」
「姐さん......」
もうすでに虎美は22周目に入っている。対するうちの組は2位ながら、周回遅れで未だ18周目だ。このままであれば、大友虎美に完全敗北してしまう。
そう思ったときには既に待機所を飛び出し、トラックに入っていた。
「あとは任せないや...こっから先はわしがやるで」
そう言ってスタートラインで用意していた若い衆と入れ替わる。今トラックを駈ける若い衆からバトンを受け取った時が、ここ一番の勝負だ。
「おおっとここで1年2組、桜井鉄子の登場だーーーーーっ!」
「随分と遅いお出ましだなァ、大将さんよ」
バトンを持った若い衆がやってくる前に、大友虎美が私の横を通り過ぎた。まるで疾風の如く駈けて行ったが、その言葉ははっきりと聞こえた。そして、遂に私の手のひらにバトンが受け渡される。
「おおきに!」
バトンを持った瞬間、私の足は駆け出していた。あとはただひたすらに駈けるのみ。
「おおっと!ものすごいスピードだ!あの1位の、大友虎美に迫っていくーーーーっ!」
体力を残すことも考えない、なりふり構わない全速力。これで最後まで持つか、これで大友虎美に勝てるかは、もはや博打だ。
「桜井鉄子の爆走ーーー!大友虎美を追い抜いたーーーっ!」
「なっ...このクソガキぃ!」
顔は見れないが、悔しそうな顔をしているのだろう。だがこちらは周回遅れ、未だ負けたままだ。脚はまだ緩められない。
「なんと!?桜井鉄子もバトンを渡すことは無く、そのまま2周目、いや20周目に突入だーーーっ!どんどんと大友虎美との差を回復していくーーーっ!」
足元から蹴り飛ばされる砂塵、砂埃が宙に大きく舞い上がる。だかそんなものを気にする余地はない。
そして遂に辿り着いた25周目、大友虎美もまた25周目の中盤に立ち、奇しくも私と同じ位置に並んでいた。
「ここまで来たで大友はん...!命はまだ残っとるさかいな...!」
「舐め腐りやがって...いいじゃねぇか、あたしもフルスロットルでやってやらぁ!」
その言葉と同時に大友虎美の走りも加速する。あれは今までとは違う、後先を考えない本気の全速力。ならば私も、全速力を超えた疾さ...命がけの走りを見せてやらなければならない!
「これは熱い激闘だーーーーっ!両者一歩も譲らない!」
追い越したかと思えば追い越され、前に出たかと思えばすぐに相手の背中に戻る。そんな応酬を繰り返しながら、ただひたすらにトラックを駈ける。
27周目、そろそろ私の体力も限界にきている。脚がふらついてくる。だがそれは虎美も同じようだ。奴のペースもまたここにきて衰えてきている。
「生意気なやつだぜこの野郎、とんだ根性もんじゃねぇか...」
「大友はんこそ...、なんちゅうことを考えよるんや...一人で走り抜けるなんて...」
その時横にいた虎美の顔は勝負心に火がついたような、子供のような笑みを浮かべていた。私も今、このような顔になっているかもしれない。
30周目、遂にやってきたラストスパート。もう脚は限界に来ている。だがそれでも駈けていく。脚を口らせていくように、命を投げ捨てるようにただ駈けていく。
「わしの死に様、よう見んさいやァ!」
最後の最後の全速力。虎美もその域まで達そうとするが、どうやら15周分の疲労がそれを許してはくれないようだ。
これで勝っても、ただ勝ったとは言えない。この勝負において、私と虎美は対等な立場ではなかった。だがしかし、この勝負は貰わなければならない!
「「どぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
前に伸ばした私の手が、ゴールテープに触れる。そのままそのテープを握り、身体を引き寄せるようにしてそのテープを切った。
「ゴォォォォォォルッッッッッ!!この第三種目、遂に桜井鉄子が大友虎美に勝ち星を得たーーーっ!」




