武闘派体育祭 5
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「さあ、第二種目騎馬戦もいよいよ決勝戦まで来ました!体育祭も佳境に入ります!」
最終戦は2クラス1対1のタイマン勝負だ。
鉄子のチームは彼女を騎手に、第一回戦でも見たメンツで出場してきた。
対する虎美のチームも、彼女を騎手として出場してくる。しかし、騎馬を務める人間はこれまで出場していない人間だ。
鉄子と虎美は互いを睨み合っている。言葉は不要というかのような緊張感が会場を支配していた。
「もうここまで来たからには、言葉は不要でありましょう!後はカウントダウンが0をカウントするのを神妙に待つだけであります!」
そのカウントダウンは刻一刻と0へと近づいていく。そしてそのカウントが0になったとき、実況の号令と共にその勝負は火蓋を切られた。
初速で速かったのは虎美の騎馬だ。その騎馬はまるで本物の馬だ。ぱからっぱからと駈けるようにして鉄子の騎馬に突っ込んでいく。対する鉄子も安定した動きだが、初戦で見られたような勢いが無かった。何か、どことなく違和感の感じる動き方。
そういえば鉄子チームは初戦から決勝戦まで人選が変わっていない。鉄子チームはこの連戦で体力を消耗しているのだ。対する虎美はこの決勝戦まで土俵に出ることは無かった。騎馬も今までと同じような安定感だが、その顔触れは違う。体力の温存された馬を使っているのだ。
神木鳴に現れた超新星・桜井鉄子と体育祭の王者・大友虎美。僕は両者は対等な力を持っていると見たが、経験値の差では大友虎美がリードし、この決勝戦で差を見せられた。
「おどれら!ここが勝負どころや!気張っていけやぁ!」
「押忍!」
鉄子の号令でその騎馬は疲れを振り切るように加速し、虎美の騎馬に突っ込んでいく。しかし虎美は鉄子の騎馬を右に躱した。初戦の鉄子チームならばここで急旋回できただろうが、騎馬を蝕む疲労は初戦のような小回りの良さは発揮させなかった。
虎美はその隙を付くかのように鉄子の騎馬に接近し、その鉢巻をかすめ取ろうと手を伸ばす。鉄子は騎馬の上でその手を躱していくが、騎馬もその動きに引っ張られてしまっている。
鉄子も虎美の攻撃をただよけるだけではなかった。虎美の隙を伺い、虎視眈々とその鉢巻を狙う。だが虎美の方が動きは軽やかだった。
その状態がどれほど続いただろうか。ふと電光掲示板を見るとそんなに時間は経っていなかった。鉄子チームの疲労の消耗と、それでも尚拮抗する勝負は、時間の流れを惑わすかのような魔力を放出していた。
「両者一歩も譲りません!両者一歩も譲りません!勝負の行方は増々分からなくなってきた!」
鉄子と虎美の騎馬が接近したかと思えばすぐに離れ、互いにその出方を伺う。どちらかが駆け出せば、一方も駆け出し、鉢巻の取り合いが始まる。その繰り返しが続いていく。
消耗戦の様相だ。このままでは鉄子チームの方が危ないだろう。そのウィークポイントをいち早く読み取ったのは虎美だった。
虎美は騎馬に号令をかけ虎美の騎馬に突貫していく。この試合で一番の突進を温存していた。対する鉄子は...一歩も動かない。
「おおっと!?これはどうしたことか1年2組!?立ち止まったぞぉ!?」
鉄子はこのような時何を思うか。そう、カウンターを狙うだろう。相手のここ一番の攻撃の隙を付く。鉄子はカウンターを狙っているのだろう。
虎美はこのまま突っ込む様相だ。さっきの試合と同じように、相手の負傷も自分の騎馬の負傷も厭わない容赦のない攻撃を。
しかしその予想は覆された。その跳躍に、前代未聞のジャンプに会場も、鉄子も驚愕し、絶句した。その跳躍の着地点は鉄子の騎馬の上。着地の衝撃でぐらつく騎馬の上で鉄子の鉢巻をかすめ取り、再び跳躍、その先は虎美の騎馬がいた。虎美の騎馬は着地の衝撃にもぐらつかず、その安定を誇らしげに直立していた。
ぐらつく鉄子の騎馬は疲労が限界に達し崩壊、土俵に残ったのは大友虎美だった。そして鉄子は二度の敗北を喫した。
驚愕の戦法、前代未聞の戦法、しかしこれは反則ではない。‟前代未聞”であるだけだった。
起き上がった鉄子の顔には悔しがる様子はない。潔さを感じさせる笑みを浮かべながら、騎馬と共にその土俵を後にするのみだった。
「...驚きました!なんという戦法でしょう!相手の騎馬にジャンプして渡り次ぐ、こんな戦法が許されていいのでありましょうか!?」
会場には実況が虚しく響くのみだった。
…
「ヘッ、このままいきゃぁ、鉄子のガキは敗北だ。勝負は決まったようなもんだぜ」
我ながら浮かれている。余裕綽々な様子だったから、負けるかもと思ってしまったこともあったが、どうやら杞憂だったようだ。
「姐御!木村が足が動かねぇと喚いております」
「足ぃ?んなもん気合いで動かせ気合いで!」
こんな時に足がどうしたってんだ。次の種目はクラス全員が出場するリレーなんだぜ。アタシの組にまだそんな軟弱者がいたのかと怒りを通り越して呆れたもんだ。
「姉さん、無茶言わねぇでくれよ。動けねぇもんは動けねぇんだ」
「テメェふざんけんじゃねぇぞこの野郎。次はリレーなんだぜ?テメェも出場するんだぜ?テメェの穴はどうすんだよ?」
勝利という栄光。それさえあれば人は限界を超えられる。それを信じてアタシは突き進んできたのだ。
「...この際だから言わせてもらいますがね...。俺たちは姐さんの言う勝利なんか興味ねぇんですよ」
その言葉はアタシにとって不意のものだった。今まで躾けてきた犬が突然牙をむいてきたようだった。
「テメェ誰にんな口きいてんだこの野郎」
「俺たちゃあんたがヤクザの娘だから言いなりになってきたがよ、もうあんたにゃ付いていけねぇ。悪いが俺らはここで降りさせてもらうからな!」
不意の言葉に怒りが湧き上がってくる。ああだめだ、こいつらをぶちのめしたい。性を抑えられない。おい待てよ、なんでこんな半端もんに人が集まってんだ?てめぇらここで勝負を投げ出す気なのか。てめぇらそんなんだから一番に立てねぇんだぞ?
気づいたら、半数がクラスの待機場を出て、どこかにフけていた。不意の出来事にいつも出るはずの手や足は下に落ちたままだった。今まで近くにあったものが遠のくような、今まで遠くにあったものが近くに寄ってくるような、そんな予感がした。
フン、出ていったのこのクラスの膿のようなやつらだ。出ていったところで、何の問題はねぇさ。
そんな言葉はまやかしであると分かっていたが、言い聞かせずにはいられなかった。そうじゃねぇと、アタシのカリスマが否定されているようで、あのクソ博徒のカリスマが肯定されているようで、腹が煮えくり返りそうになるからだった。
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