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武闘派体育祭 3

姐さん?そんな顔して、気分が優れないのですか?」


 先の戦い、あの3年2組の戦い方を見ると、顔を強張らせずにはいられない。あの統率された動きをどう打ち破るか。

 それに、副会長のいる2年5組も侮れない。全学年全組で2位とはいえ、まだまだ油断もできない。

 そんなことを思って黙っていたので、山中に心配をかけてしまったようだ。


「...すまんな、わしは大丈夫や」


「姐さん...」


「わしは自分らを信じとるし、今までにやってきたことは無駄にはならへん」


 しかし、優勝を逃せば私はここを去らねばならない。兄貴を男にすると言う約束も果たせないままに。

 それだけがここにきて、どうしても頭に過る。肚だけは決めていたつもりだが、矢張まだ渡世の修行半ばだ。


「...姐さん!姐さんはもっと胸張って、笑って、そのまま突っ走って良いですよ!私たちもついていきますから!」


「...フフッ。せやな“ショウちゃん”」


 山中ショウの言葉が胸に染み入る。私の為に気張ってくれている。これに応えねば“侠“ではないな。

 私は改めて、兜の緒を締める。二回戦こそ、大友虎美を超える。3年2組に勝ってやる。


「ーーっ、姐さん!今、ショウちゃんって、ショウちゃんって呼んでくれましたね!やったーっ、ついに、ついにです!これからも呼んでくださいねーーっ!」


「ああ、やかましい!われんことどう呼ぼうがわしの勝手やろうが!」



 第二種目は騎馬戦だ。騎馬を崩すか、騎手の鉢巻を獲りつくせば勝利、その逆なら敗北だ。

 脱落した順板にポイントは割り振られ、最後に残ったクラスには高いポイントを得る。

 学年混合、3組1ブロック、1対1対1で戦い、トーナメント方式で勝ち上がる種目だ。

 体育祭では第三種目のリレーと並ぶ目玉の種目。私たちもこの種目のために特訓してきたのだ。


「桜井の姐さん!俺らすぐにでも動けますから、いつでも号令をかけてくだせぇ!」


 私たち2組は第一回戦からの出場だ。すでに土俵に上がり、準備は整えている。

 私の下に島田、水上、岩見の三人衆がむさくるしく塊になる。その上で私はしっかりと足を固定し、臨戦態勢に入っている。


「よくやっているみたいだね、鉄子」


 どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 声のしてきた地上の方を見ると、広能の兄貴がいた。


「兄貴、こんなところでどないしたんだすか?」


「そりゃあ、ここにいるってことは出場するんだよ」


「ほうですか...って、兄貴がですか!?」


 驚いた。確かに相手には兄貴のいる3年1組もいる。だが騎馬戦は玉入れやリレーと違って、組の全員が出場する種目でもない。

 兄貴のことだから、てっきり観客席で観戦を決め込むだろうと思っていたが、まさか出場するとは思っていなかった。


「形山も一緒に出るよ。センセーに脅されてね」


「兄貴...大丈夫でっか...?下手したら怪我するかもしれまへんのやで...?」


「心配しなくて結構だよ、特訓してきてるからね。鉄子のおかげで体力もついている」


 兄貴は右手親指を立てて笑みを浮かべて、自分の組のチームへと向かっていった。ここ一番の自身に溢れた輝かしい笑顔だった。今の兄貴なら十分に戦えそうな、そんな様相だ。いつの間にか、兄貴も立派な“侠”になったもんだ。我ながら誇らしい。


「われら、一線目から強敵のおでましのようやぞ。気合い入れていけや!」


「押忍!」


 三人の気合いが辺りに猛々しく響く。その声で一年の観客席は湧き上がっていく。


「いよいよ第二種目、騎馬戦。その第一回戦が始まります!2年3組、3年1組、そしてあの桜井鉄子のいる「1年2組」の戦いとなります!おおーっと、3年1組!この組にはあの賭博部潰しの英雄 広能昌輝もいるぞぉ!思わぬ伏兵だ!なんと一回戦、始まる前からから混沌とした様相を醸し出しています!」


 円状の戦場の中で、その三点に組み上げられた騎馬が立つ。

 騎手は今にも鉢巻をつかみかかりそうない勢いで姿勢を構えていた。

 兄貴もどうやら騎手らしい。たしかに兄貴に騎馬は役不足だ。兄貴はすんなりと受け入れるだろうし、やはり騎馬戦の花形たる騎手こそ相応しい。そして器の大きさを表すような堂々とした笑みを浮かべている。これは油断できない相手だ。


「さあ、第一回戦、開始となります!」


 三体の騎馬が一斉に中央へ向かって動き出す。その中では私のチームが一番早いだろう。鍛え上げられた脚力と三人のコンビネーションによって素早く、そして安定した突進力を作り上げてきた。

 兄貴のチームはどうやら慎重な足取りで歩を刻むようだ。さあ、どう出るかと凝視すると...、心なしか騎馬が若干震えていた。


「兄貴...?」



 プルプルと、グラグラと、プルプルと、グラグラと。

 突然右に行ったり、左に行ったり、前後に動いたり。

 

「おっと危ないぞ3年1組!?これはどうしたことか!?今にも崩れてしまいそうだ!?もう騎馬の体力も限界なのか!?」


 カメラが兄貴のチームに寄り、校庭に設置された電光掲示板にその様子が露わになる。

 騎馬の一人に兄貴に友だちの形山がいた。苦悶の表情を浮かべていた。


「ああぁ~~~~っと~~~~っ!?これは失格だ~~~っ!」


 やがて兄貴の騎馬は崩壊し、第二種目第一回戦、最初のリタイアとなる。

 くっ、なんちゅうことや兄貴。兄貴の分まで勝ち上がって見せますさかい、よう見といてください!

 思わず突進を止めてしまったが、再度騎馬を発進させる。そして今度の標的は2年3組だ。第一種目ではあの二年ブロック2位。運動自慢の多い強豪の組だ。その様相は騎馬から騎手まで、まるで筋肉だるま。出場しているのは全員ラグビー部らしく、鍛え上げられた肉体をしている。

 しかし、彼らも兄貴の拍子抜けとした脱落に呆気にとられていたようだ。その隙をつくように私は突撃する。

 3組は私たちの突進力に意表を突かれたような顔をしたが、すぐに態勢を立て直し、迎え撃とうとする。


「おおっと!?1年2組は2年3組に突進をかますつもりだ!このままぶつかるかぁ~~!?」


 このまま突進してぶつかっても、共倒れになってしまっては意味がない。目指すものは相手の騎手の頭に巻かれた鉢巻だ。

 遂に近づいた、その騎馬一歩手前。その突進の勢いのまま、私の騎馬は相手の後ろに回り込むように動く。その動きに振り落とされそうになるが、体幹をしっかりと真下に支える。騎馬の三人衆も、騎馬を組み続けている。この動きをモノにするために、何日も特訓に費やした。


「回り込んだ回り込んだ!このままその鉢巻を獲れば1年2組の勝利だ!」


 相手の機種の後頭部。風になびくその鉢巻を勢いそのままに引っ張った。

 するりと抜けた鉢巻を手に、私はその手を掲げる。


「決まった決まった決まった~~~~~!勝者は1年2組、桜井鉄子~~~~~!」


 観客席から歓声が上がり、紙吹雪が飛んでくる。

 やはり目玉の種目だけあって盛り上がり方もさっきまでとは違うようだ。

 電光掲示板には3チームの得点が表示されている。

 3年1組は+30pt、2年3組は+60pt、そして1年2組ha+90ptだ。

 上々な出だしだ。ここで負けてはいられない。


「やりましたねぇ姐さん!やってやりましたよ!」


「油断するんやないぞわれら、わしらの目的は優勝や」


 続く第2ブロック、出場するのは1年1組、生徒会会長及び副会長の在籍する2年5組、そして大友虎美が率いる3年2組だ。


「さあやってまいりました第二ブロック!おーっとなんと!?ここでは我らが生徒会会長 山守義辰会長のお出ましだーーーっ!」


 神木鳴学園の生徒会会長と言えば、いわば学園のスターともいうべき存在だ。そのスターの登場には全校生徒は勿論、観戦に来た他校の生徒、地元の子供たち、親から親戚までもが歓声を上げる。今日一番の熱気を以て、山守会長をは迎えられた。

 対する3年2組だったが、大友虎美の姿は見えない。どこにいるかと思えば、組の待機場所に鎮座していた。後方から指揮を執るようだが、敵のチームにはあの山守会長がいる。手下に任せるのはリスクに思えるが...。


「さあ、待ちに待った第二ブロック、スタートであります!」


 試合開始を伝えるカウントダウンが終わると、3チームは一斉に中央へ走り出した。どの組もその特訓の成果を表すかのような安定感を見せていた。

 3年2組の騎馬に至っては、まるでそれが一つの身体、一頭の馬のように緻密な動きを均整の取れた脚運びで、そしてどの組よりも素早く土俵の中央に向かっている。

 他の組も負けじと中央へ急ぐが、それは騎馬のバランスを崩しかねないというリスクも孕む。3年2組の平でありながらここまでの実力を引き出せるのは、大友虎美の教育の成果だろう。


「おどれら焦りさんなや!ここは3年2組の後ろに回り込んだれ!」


 2年5組の騎手 山守会長の号令によってその騎馬は3年2組の騎馬の背後に回り込もうとする。


「テメェら右突っ込め!倉光、テメェはそのまま山守のタマとりあげろ!」


 すると、鎮座していた大友虎美からも号令が飛ぶ。3年2組の騎馬の右側には、その背後に回り込もうとする山守会長の騎馬がいた。

 右側へ突っ込む、それはつまり山守会長の騎馬に激突しろということだ。激突すればどちらかの騎馬は崩れる、運が悪ければ怪我も負いかねない。

 しかし3年2組の騎馬はそれも構わず、大友虎美の号令のまま2年5組の騎馬に突撃する。倉光と呼ばれた騎手は山守会長の鉢巻を獲ろうともがいていた。


「おおっとこれは!強引だ強引、強引な突撃だぁ!これは戦略なのでありましょうか!?」


 3年2組と2年5組の騎馬が入り乱れる。しかし2年5組の騎馬もさすがに怪我は負いたくないようで、3年2組に後ずさりするように押されていく。


「おんどれらふざけちょるんかぁ!?こがなことしてタダで済む思うなよぉ!」



「おう上等だ上等だ!おいら3年2組はいつでも待ち構えているからよぉ!」


 2チームの騎手がわめき合う中、遂に倉光の手に山守会長の鉢巻がかかる。倉光はそれを乱暴に引っ張るようにして鉢巻を奪い取る事に成功した。

 2年5組は後ずさりしたことによるバランスの崩れ、そして騎手の鉢巻がとられたことによって力が抜けていくように、その騎馬が崩壊し撃沈した。


「なんとーーーっ!いきなり我らが会長が撃沈したーーーーっ」


 歓声の湧き上がっていた会場は静寂に包まれた。神木鳴のスター、山守会長の初戦敗退という事実に、そして大友虎美の強引な戦法に誰もが息をのんでいた。

 2年5組ともみくちゃとなっていた3年2組の騎馬はいつの間にやら体制を立て直していた。まるでさっきまで何事もなかったように、その場に構えていた。

 土俵に残った1年1組の組員たちはその騎馬に恐れをなしていた。足の震えが腰に、そして騎手の頭のてっぺんにまで登り、いまにも崩れそうな様子だ。

 その1年1組に圧をかけるように3年2組の騎馬はジリジリと迫っていく。


「おうそこの若いの、怪我したくなかったらいますぐ白旗上げろ」


 その3年2組の騎馬の後ろから大友虎美も圧をかけてくる。これが今まで無敗を誇ってきた大友虎美のやり方だ。

 3年2組と1年1組、その間の距離が縮まるほど、1年生の震えは大きくなる。やがて3年2組の騎馬が至近距離まで迫ると、1年1組の騎馬は自壊し、リタイアとなった。


「決まった決まった決まったーっ!勝者は3年2組ーーーーっ!」


 実況が会場を盛り上げようとするような声で勝者に歓声を送るが、会場は未だに静寂に包まれたままだった...。

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