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武闘派体育祭 2

 第一種目は玉入れだ。ルールを知らない者はいないだろう。玉を入れられるだけ入れればいい。

 ここの体育祭では全種目を通して、獲得したポイントによって勝敗を決する。この玉入れでは、入れた玉の数がそのままポイントとして換算されるので、ここでどれだけポイントを得たかで今後の展望も決まってくる。


「二年ブロック、現在5組と3組が接戦です!その嵩は見る限り同数!白熱しています!」


 ここでは、学年毎に一年ブロック、二年ブロック、三年ブロックに分かれ、その中で種目を行う。一回戦は二年ブロックの対決から始まり、その次は鉄子たちの一年ブロックでの対決が始まる。

 司会席から轟く実況が、勝負を白熱させる。二年生の中では、山守生徒会会長、そして服部副会長が所属する5組と筋肉自慢が集う3組が特出して猛威を奮っているようだ。

 その組の中でも、副会長の手腕は凄まじい。実況には、均一な動きと角度で玉を投げ入れている姿から、人間ピッチャーマシンと形容された。その通り、まるで機械のように、一向に疲れる様子もなく、あの容貌ながら、その底知れないフィジカルを伺える。そしてその周囲の人間は落ちている玉をかき集めて、副会長に次々と渡している。役割分担のはっきりした、チームワークの光る組だ。

 対する3組は、まるでバスケットボールだ。複数の玉を腕の中に集め、籠にダンクするよう入れている。一気に得点を稼ぐ算段だろう。玉を貯めるまでの時間も短く、5組と負けず劣らずのペースだ。

 

「終了―――!各組とも激戦でありましたッー!さあ、運命のポイントの集計に入らせていただきます!」


 集計係が籠の中から一つずつ玉を取り出し、数えられる。数えられる度に得点版の数字が増えていく。冗長にも感じるが、ジリジリとした緊張感も走っている。


「只今集計が終わりました!さぁ、各組の得点は...」


 二年生たちが固唾をのみ、神妙な顔でその発表を待ち構える。手を組み、頭の上で祈るような恰好をする者もいた。


「1組 80pt!2組50pt!3組 200pt!4組100pt!そして5組は220pt!最高得点は5組の220ptであります!見事な戦いでありました!」


 2年5組、生徒会会長と副会長のクラスが二年ブロックの頂点に立った。鉄子や虎美がこの体育祭を優位に進めるには、2年5組を超えるポイントを叩き出さねばならない。


「特に、3組と5組の戦いは接戦となりました!ここで、5組の功労者であります、我らが生徒会副会長 服部武乃選手にインタビューしましょう!」


 試合終了後のインタビュータイムを経て、次は鉄子たち一年ブロックの対決が始まる。この時間は僅かな休憩時間、調整時間と言えるが、本当にそれは僅かな時間でしかない。この競技の準備は、それほど時間のかかるものでもないからだ。

 服部副会長と、それに続く山守会長のインタビューが終わるとすぐに一年ブロックの試合開始直前に移行した。

 校庭に立てられた6つの籠の周辺に一年生各組の生徒たちが集まる。ある人は籠を見つめ、ある人は周囲に落ちている玉の位置を確認している。玉を投げる、玉を拾う絶好の位置に立とうとウロウロする人もいれば、鉄子を敵視するように睨む人もいた。


「さあ、いよいよ開始となります一年ブロックの試合!一年ブロックにはこの大会で優勝をもぎ取らんとするニューカマー 桜井鉄子が います!期待の超新星、若き侠客はこの第二回戦でどれほどのポイントを獲得することができるのでありましょうか!?」


 僕はこの体育祭、どちらとも応援せず、ただ二人の成り行きを見届けるのみに徹するだけだ。それだけの役目なのに、嫌に顔が強張り、瞬きさえも許されないような緊張感に襲われる。そうだ、僕はただ見届けるのみなのだ。


「このあとのカウントで試合が始まります。この第一ブロック、どのような様相を見せるのでありましょうか!?」


 実況が止むのと同時にカウントダウンの音が響く。もう、籠の周囲を周る人間もおらず、一年生質が見つめるのは籠か、或いは玉だけだった。


「ピッ」


「ピッ」


「ピッ」


「ピーーーーーッ!!!!!!」


「試合開始であります!おーーっと、いち早く動き出したのは1組だーーーッ!」


 1組のスタイルは、一言でいえば猪突猛進としていた。クラスの人間一人一人が、玉を拾っては投げ、拾っては投げる。中には数玉貯めてから投げ入れる人間もいる。良く言えば王道、悪く言えば馬鹿正直な戦い方といえる。しかし運動自慢が多いのか、入れるペースはどの組よりも群を抜いている。


「おっと期待の2組は!?そういう戦法で来たかぁーーー!」


 鉄子たちの戦法は先の二年ブロックで見られたようなものと似ていた。運動自慢を投げる係、それ以外の者を拾う係に分け、玉入れの効率化を図る戦法。運動能力だけではなくチームワークも試される。

 2組のペースは次第に1組を追い抜いていく。1組は周囲に落ちている玉を無暗に入れていたからか、玉を探すのに時間をとられてペースが落ちて言っていた。対する2組は計画的に玉を集め、投げていったことでペースは安定していた。一年ブロックでの最高得点は鉄子率いる2組で決まりだろう。

 しかし、二年ブロックの5組 あの副会長のレベルに達しているかと言えば、それほどじゃない。2年5組の出した220ptにはまだ追いつけない。あの服部副会長のような正確な投擲ができる者が少なく、度々入れミスが起こっているからだ。


「どうした2組!?かの運動自慢の三人衆がバテ初めて来たかァー!?」


 ここにきて、ミスが目立ってくるようになってきた。特にあの島田、水上、岩見とかいう三人衆。先日の怪我の具合もあったのだろうか、疲れている様子だ。

 玉を拾う係も佳境に立たされている。もはや落ちている玉数は少ない。十分な量を集めるのも困難になってきているが...


「さあ戦いは末期状態!1組も2組も疲弊し、玉数も少なくなって参りました!...おおーーっと2組!?これはどういことだーーーッ!」


 鉄子たちがとった戦法に実況席も観客席も沸き立ち、ここ一番の盛り上がりを見せる。こんなやり方をするのは僕も見たことがない。すなわちここにいる観客たちも見たことはないはずだ。


「なんと肩車を使うという手があったか!?これは驚くべき秘策です!まさに前代未聞!型にとらわれない新たな戦法だァーーー!」


 鉄子をはじめとする2組の運動自慢たちは拾う係の人間を肩車して、籠の近くに寄っていった。肩車される人間の目の前には籠、距離は1メートル程度か。当敵が得意ではない人間と言えど、そんな距離を外す人間はそういない。玉を拾うことができなくなるという欠点を抱えているが、この勝負末期の状態では総問題にならないだろう。考えられた戦法だ。

 鉄子が肩車していたのは、山中とかいう子だ。この時を待っていたと言わんばかりに随分張り切っているように見える。他にも肩車されているの人間には、あの西条とかいうやつもいた。体育祭には乗り気でもなく、他のクラスメイトと違って鉄子を敬っているような人間でもない。しかしそんな彼も、数十個の玉をわきに抱え、どんどんと玉を入れていく。貪欲に勝ちを求めるように。


「終了ーーーーー!なんと驚くべき戦法が見られましたこの試合!さあ、結果は如何程にーーー!」


 1組の得点は120pt、対する2組は293ptの得点を獲得した。一年ブロック最高得点だけではなく、2年5組の220ptすら追い抜き、暫定一位だ。

 戦いを終えた2組の選手たちの顔はしてやったりとした顔、暫定一位に喜ぶ顔、または運動した後のさっぱりとした顔で溢れていたが、しかし鉄子だけは未だ神妙な面持ちだった。

 そう、次は三年ブロック、僕の出番であり、あの大友虎美の出番でもある。体育祭不敗の虎美はどれだけの得点を叩き出すのだろうか。


「さあ、続いて三回戦、三年ブロック!ここには体育祭無敗の女、絶対王者の神農道、大友虎美が控えています!彼女の眼中にあるのは、若き侠客 桜井鉄子。体育祭前にはこう語っていました、『奴が全力で優勝を獲りに来るなら、全力で迎え撃つ』と。この第一種目、如何なる様相を見せるのか!?」


 僕たち三年生らはクラス毎に分かれて、立てられた籠の周囲に立つ。考えることは特になかった。僕や形山、僕のクラスでは勝利に頓着するような人は少ない。精々楽しんで、普段の運動不足を解消できればいいくらいだ。

 カウントダウンが鳴り始める。やはり、優勝を狙っていないとしても、楽しめればいいやと思っていても、このカウントダウンを聞くと緊張してくるものがある。


「三年ブロック!試合開始でありまーーーす!!」


 僕たち1組はせっせと玉を拾い集め、籠に投げていった。勿論、投げた玉よりも入った玉は少ない。副会長や鉄子みたいには上手くいかないものだ。


「おおーっと!?なんだこれはどういうことでしょうか3年2組!?」


 開始早々、実況が2組、虎美のクラスに注目し始める。その実況に釣られ、僕を含めた他の三年生たちも虎美たちの戦法を目撃した。


「まるで円陣を組むように、籠を取り囲んでいます!?そして一人ひとりが均一な動きで玉を投げ入れています!カラクリ仕掛けを見ているかのようだ!」


 ついこの間見た2組の特訓模様。あれはまるで、軍隊の訓練のように、均一、統一、統率された動きであり、徹底的に人間を苛め抜く様子だった。その成果がこの種目で如実に現れている。

 一人は玉を拾い、一人が玉を入れる。そのペアが複数、籠を取り囲んでいる。玉拾いは一つ一つ玉入れに渡し、玉入れは正確かつ確実に籠に投げ入れる。

 二年ブロックの服部副会長は人間ピッチャーマシンと形容された。となれば、2組の模様はそのクラスの半数が人間ピッチャーマシンであり、無感情に無機質に、しかし確実に籠に玉を入れていく。芸術ともいえる有様だ。


「テメェら!交代だ!」


 少し経った時、虎美が2組に号令を出した。その号令と共に、今度は玉を拾っていた人間がピッチャーマシンとなり、玉を入れていた人間はその補給係となる。玉入れの負担を軽減し、スタミナの減少を抑える工夫だろう。しかし驚くべきはその統率された動きだ。交代の時すら一切の乱れがない。

 もはや、僕たちは圧倒され、唖然としていた。これが虎美の力である。体育祭で無敗を誇った女の力だ。


「試合終了であります!何と、2組は用意された玉を入れ尽くし、フルスコア300ptを記録しましたーー!またもや前代未聞の出来事が起こりましたーー!?今私たちは歴史的な瞬間を目撃しています!」


 第一種目の結果発表、暫定一位は3年2組、虎美の手にある。次いで二位は1年2組 桜井鉄子、三位となったのは2年5組 生徒会課長と副会長のクラスだ。その下にいる四位と五位も侮れない運動自慢の揃ったクラスが名を連ねている。鉄子、虎美両者にとって油断のできない大会になるだろう。

 鉄子は相変わらずの面持ちだ。彼女は何を考えているだろうか。大友虎美という強大な敵を前に、何を思うのだろうか。


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