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第21話 復渇の日-4

 壁を突き破り、その場で停止している機体から、誰かが降りてきた靴音がする。煙の向こうから人影が近づいてきた。

 だが、その輪郭は戦場には似つかわしくない、フォーマルなタイトドレス。

 現れたのは、帝国防衛省のモナハ代表。彼女は四人を見て、彼らと同じように驚きの表情をしていた。


「レオナ、オリカ!? 二人とも一緒だったの!? 子供たちまでいるなんて……」

「モナハ!?」

「まさかこの航空機で来たのか!?」

「戦時中に帝国で造られたヴィンテージ品よ! 帝国勢の鉄の装甲なら多少の衝撃じゃ簡単に損壊しないわ! それにカスタマイズしたライフルも……」


 塔に突っ込むほどのスピードに乗り、彼女自身も興奮しているのか、航空機の性能を饒舌に説明するモナハ代表。掻い摘むと、十分な装備と衝撃対策をシミュレーションし尽くした上での突撃だったようで、それも彼女自身の判断によるものらしいと理解できた。

 しかし塔内の荒れ果てた光景――そのいくらかは彼女の所為だが――を目にし、はっと冷静になる。


「いえ、そんな場合じゃなかった……

 軍や政府の通信チャンネルを傍受して、ロナルド大佐と連絡が取れたのだけど、カーサー元帥はここに――」


 モナハ代表の問いに、オリカは悲痛に表情を歪ませて俯いた。

 その反応に代表は戸惑いながらも、オリカの視線の先を追う。彼女の足元、落下物から守るように重なる岩塊の下から覗く、探していた人物の、白い手に気付く。


「……オリカ……」


 モナハ代表もまた、表情が驚愕に染まり、目を見開く。


「帝国にコキュートスのスパイが紛れ込んでいて……セッサント大尉は、そいつがなりすました偽物だった……元帥は、それで……」

「帝国が完成させた兵器を利用しようとしたのも、そうしてこの争いを仕向けたのも、全部コキュートスの仕業だったんだ」


 オリカはどうにか言葉を絞り出し、この場所で起きた出来事をモナハに伝えた。レオナ王子もそれに続き、潜んでいた黒幕の存在を明かす。


「じゃあさっきこの塔から放たれた砲撃は、コキュートスが!?」

「そのせいでフィエロレンツ聖海から巨大な何かが現れた。

 あのコキュートスの男は……あれを『アンクサリス』と呼んでいた」

「アンクサリスって……まさか……!」


 モナハ代表に詳細を明かし、レオナ王子は遠くにそびえ立つその影を睨む。

 二人が口にした名に、ジフやオリカも物々しく顔を強張らせている。唯一、本来この世界の者ではないアイだけ、その実態を知らない。


「アンクサリスって……何?」

「……アンクサリスは、かつて《明星の救世主》が、封印する対象物に名付けたコードネーム。

 そして……封印の手段として、星座に縛り付けるために用いられた(あざな)。今では星座そのものの学名としても呼称される」


 レオナ王子の説明を頭で理解した瞬間、アイは愕然とする。

 《救世主》が封印したもの。ほかでもないそれは。


「つまり……アンクサリスって……《影》……!?」


 千年もの間、このビテルギューズ大陸で最も恐るべき存在として語られ続けた存在。

 そんなものが現代の今、ここで、あろうことかアルズの手によって蘇ったというのか。



「あの男が言っていた……"負の感情を生むのには戦争をさせるのが一番効率的"だと……。

 あの大きさの物体が動き出せば、聖海に面しているラインゼル軍機関の戦場にも被害が出る可能性が高い。

 戦場で戦っている者達から、さらに感情を吸収しようとしているのだとしたら……!」

「あれだけの規模の軍隊を……!?」


 レオナ王子は苦虫を噛み潰す。彼の推測の先に起こり得ることを、モナハ代表も気付いたようだ。


「いずれにせよカーサー元帥は……もう……。

 襲撃を命令した彼がこうなった以上、両軍のこの戦いを止めないと……

 せめてあの物体から撤退させなければ、あそこにいる者達は……!」


 どうにか気を強く持ち堪えながら、レオナ王子は次に自分達がすべきことを明確化する。

 しかしその傍らで、ジフが躊躇いがちな表情をしながらも、重々しく発言する。


「……ここで撤退したとして、王国は……結界の力が戻らない限り、このままでは……」


 ジフの懸念に、レオナ王子達も二の句が出てこない。

 あの巨大な物体が動き出せば、結界が弱まっている王国はどこまで防ぎ切れるかわからない。

 帝国軍も、元帥の計画を続行しようとする者がいれば、再度襲撃を行う可能性がある。

 謂うなれば挟み撃ちの状態にあり、帝国軍を制圧するどころか、王国を取り巻く戦況は悪くなる一方だ。


 とにかく今は、黒幕の正体がコキュートスであったこと、その目的が明かされた今、戦場の騎士団を黒い霧が広がる危険地帯から退避させることしかできない。

 刻一刻と悪化する状況に追い詰められる……そんな時、不意にアイの体から赤い光がほのかに発せられた。

 アイの中に宿っている、魔力の状態のガリュマだ。


『むむっ! アイ~! なんだかぽかぽかした強い魔力を感じりゅぞ!』

「ぽかぽかした強い魔力……?」


 場違いに間の抜けた声と表現で、ガリュマが興奮気味に言う。

 こんな時に何を言い出すんだと戸惑うアイだったが、ガリュマは魔力の気配を特定した。


『大精霊の力だりゅ!!』


 ガリュマのその一言で、アイ達の表情が引き締まった。

 ガリュマは大精霊ガリュマダロンに進化することができる、現代の五大精霊の一体だ。そんなガリュマが同じ大精霊の魔力を感じ取ったということは――



 直後、西の方角の昇降口から強い光が差し込んだ。一行はその方へと駆け寄り、昇降口から周囲一帯を見渡した。

 ラインゼル軍機関、そしてクラドザンク山脈、バロディノーギア王国のさらに奥――バロディノーギア王城の裏に続く山。

 その頂から、遠く離れたこの塔跡地からも見えるほどの、一筋の眩い光が立ち昇っていた。


「西の方向……あの場所は、フローラガーデン……!」

「リンとカナ達がいる場所だ!」


 レオナ王子は方角と距離から光の出現地を絞り込み、アイ達も気付く。それがある可能性へと結びついた。


「もしかして……リンたちが……!!」


 リン、カナ、ショウ、そして騎士のヴィッキーは、王国を守る結界の力を取り戻すべく、結界を司る大精霊の治癒を試みてフローラガーデンへと赴いた。

 その場所で大精霊の力を帯びた光が現れたということは、つまり――


 魔導砲の砲撃によって突如フィエロレンツ聖海に出現した、黒い霧を纏った謎の巨大な物体。

 それと相対するようにフローラガーデンから発生した、空を眩く照らす強力な光。

 戦乱渦巻くビテルギューズ大陸の中心で、二つの大いなる力が天に向かってそびえ立っていた。



 ――21 復渇の日

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