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第19話 歴史の当事者-2

 王城の離宮の男子部屋。夜も深く、アイはベッドの上で、カーテンから透き通る月明かりを漫然と眺めていた。両隣のベッドのショウとジフ、アイの枕元で丸まったガリュマはすでに寝息を立てている。


 サナが帰った日、その後一行はアイが提案した森の洋館を訪れた。出迎えてくれた屋敷の主人の老人に、運び屋『コンプレアンスエージェンシー』の名刺を渡し、王都に来た目的、かつてヨータがここに訪れたことを話した。老人は運び屋の名刺を、どこか感慨深く見つめていた。


「ああ……あの運び屋の男の子かい。綺麗な子だったし、まだ若いのに自分で会社を建てて、それに歴史の調べ物にも熱心で立派だったからねぇ。

 本の貸し借りで一時連絡を取り合っていたから、覚えているよ」

「あの、その時にヨータが借りていった本って、まだ残ってますか?」

「もちろんだとも。少し待っていておくれ」


 そうして老人から手渡された本を見て、アイはファイルの手記と照らし合わせる。タイトルは一致していた。


「……チェリシアローズの本……」

「《女神》の伝記のようなものだね。彼女が残した随筆を後世の人々が精査したんだろう」


 アイは正直、ヨータが調べていたのが《女神チェリシアローズ》の本であったことが、少し意外だった。


「読み終わったら、きちんと返しに来るんだよ。最近の子は本当に熱心だねぇ」


 アイ達が教団とも協力関係であることを話し、信用してくれた老人は快く本を貸し出してくれた。



 早速軽く本を捲って、みんなで中身を見てみる。生前の《女神》が治癒を専門分野としていた神官になるまでの過程で、効力を上げる術式や星零石、薬草について、大陸の各地を訪れた際に書かれた記録をまとめたものだった。訪問地での彼女の姿や、研究物の写真、あるいはスケッチが添えられている。


「本当に、よくある“いかに偉大だったか”みたいな本というより、彼女が実際に研究した物品そのものの記録みたいですね」

「王城の機密資料館にもあれだけ膨大な文献があるのに、まだまだこういった本が世に存在するとは……」


 知の眷属のショウや、長年王城勤めのヴィッキーも、初めて見る内容にそれぞれ新鮮な驚きを得ている。確かにこの内容なら、何か新しい手がかりに繋がるかもしれない。

 だが、みんなが本の内容に釘付けになる最中、アイは別のことを考えていた。ヨータがこの本に辿り着いた理由。これはアイの想像に過ぎないが――


 ――《女神》とその末裔のカナの故郷は、ヨータの故郷でもある。信仰都市アークレイア。

 ヨータは自分の故郷、アークレイアを、崩壊した後もずっと想い続けていたんじゃないか……と。



 本の記述は、現代ではあまり見られない文字や言語、難解な神語といった専門性の高い部分が多く、アイ達が普通に読んだだけでは正確に読み取れそうにない。一度王城に持ち帰り、リオウに経緯を説明した。

 やはりと言うべきか、リオウは以前にもヨータがこの本を調べたことを知っていた。むしろ、当時もヨータから精査を頼まれたらしい。その時の記録も遡り、改めて分析してみるとリオウは言い、アイは彼に本を託した。




* * *




 ぼんやりと広がっていく、緋色の景色。

 夕暮れの空と、同じ色に染まった海、二つを繋ぐ落陽の光。黄金色に照らされる草原が、小さくそよぐ。

 ――あの日の、エスペル教団南支部の裏庭。


 その場所でアイはゆっくりとまぶたを開く。草原に座り込んだ体勢で、体の右隣に人肌を感じ、誰かに寄りかかっていることに気付く。

 いまだまどろみを帯びた頭を上げてそちらの方へ振り向くと、アイの真紅の目が大きく見開き、その人物を映した。


「目が覚めたか」


 彼もまた、眠りから覚めたアイを見つめていた。

 愛おしそうに細めた金色の左目とオレンジ色の右目。夕陽と同じ色に輝く髪。左耳に揺れる三日月型のイヤリングが、日差しを受けて眩く光る。

 今はもう、アイの傍にはいないはずの人物。



「……ヨータ……」


 カナから彼の夢の話を聞いて、夢で良いから自分も会いたいと、無意識に望んでいたのだろうか。しかし、触れ合っている互いの肩からは、確かに体温を感じる。


「悪ぃな、お前の所に来るのが遅くなって」


 カナとアイの夢の順番を、ヨータ本人が自覚しているかのような発言。アイがカナの話を聞いて会いたいと思ったのだから、当然だろうけど。

 今のアイには、夢であろうとそれでもよかった。


「ずいぶん弱った顔してんなぁ。考えることが多すぎてさすがに疲れてんのか」

「……カナもジフも、みんな自分で考えて前に進んでて、

 レオナ王子やリンだって色んな人に白い目で見られても、王国や大精霊を守るために諦めずに頑張ってる……

 なのに、俺だけ歴史のこととか戦争のこととかうじうじ考えて、何も決まらなくて……

 大星座の俺が、みんなを守らないといけないのに……」


 アイは座ったまま膝を立てて、自分の心に潜り込むようにうずくまる。そして奥底にある本心を外界から守るように腕の中に顔を埋めた。


「でも……アステルやレオナ王子の話を知ったら……世界を相手にするのが……怖いんだ……」



 ヨータはアイをそのままにさせて、草原がそよぐ音に馴染んだ穏やかな声で言う。


「……そうだな。俺達大星座だって一人じゃ何もできやしねぇってのによ」


 そんな風に答えられるのは、同じ大星座であるヨータくらいだろう。だからなのか、ヨータの声音からも、アイによく似た仄暗い陰りを感じた。


「でもその話を聞いたのは、カナやジフ達だって同じなんだろ。

 だからあいつらなりに、大星座や神頼みじゃなく今自分ができることを考えたんじゃねぇのか」


 それでもヨータは顔を上げたまま、アイの方を見る。


「お前はどんな時でも、誰よりも先頭を走ってないと気が済まねぇのか? そうじゃねぇだろ?

 カナ達はお前を置いていくんじゃなくて、お前の隣まで追いつこうとしてんだよ」


 ヨータは問いかけながらも、強いるのではなくアイが自分で顔を上げるのを待つ。


「だから今は、自分の隣を見た時に横にいてくれる奴を守れりゃいんだよ。

 もしそいつらを失って、お前のことなんか見てない世界だけ残ったってしょうがねぇだろ。

 俺にはそれができなかった……でも今のお前にならできる」


 彼がかける言葉に、最後の一言に、どれほどの意味が込められているのか……彼が何を失ってきたのか、アイだって知っている。


「それに、お前自身がやりたいと思うことがあるんじゃねぇのか」


再びのヨータの問いに、アイがゆっくりと顔を上げた。



「俺は……レオナ王子を倒せば世界が変わるなんて、そんなのやっぱりおかしいし……

 カナのことも応援したいし、ジフにももっと自分のこと大事にしてほしくて……

 あーダメだ、やりたいことが多すぎる!」


 しおらしく落ち込んでいたのに、願望を言葉にするにつれ、アイの気持ちがはやり出す。そしていつものように落ち着きのない声を上げ、頭を抱えた。忙しい様子のアイを見ていたヨータが、噴き出して笑う。


「ちょっと見ねぇうちにずいぶんシケちまったなと思ったけどよ、やっぱりお前は全然変わってねぇな!」


 アイの頭に豪快に手を乗せて、ぐしゃぐしゃに掻き回す。そして唸っているアイに構わず、掴んだままの頭を自分と向き合わせた。


「やりたいことはちゃんとあるじゃねぇか」



 にっと笑うヨータの顔を、アイはぽかんと見つめた。


「え……でも……」

「お前自身の肝心なこと、言えてなかったんじゃねぇのか?」


 ヨータに指摘され、散々悩んでいたのに言われてみれば、とアイはようやく気付く。呆れ混じりに、しかし愛おしそうに苦笑して、ヨータが言う。


「後悔した頃には時間も人も戻らねぇんだ。

 やりたいことがあんなら、やりたいと思ったその時にやりゃいいんだよ」


 今までと変わらない、強引ながらもはっきりと言い切るヨータの言葉。そして夕焼けに照らされた、太陽のような強気な笑み。それを瞳に映していると、アイの中の分厚い暗雲が晴れ、頭と胸の奥がクリアになっていくのを感じた。


「……うん……そうだよな……俺、わかった気がする…!」


 アイの瞳にも、夕陽のかけらのような強い光が灯る。ヨータは安心したように目を細めた。


「誰かが傷つけば形だけ丸く収まるなんて、悔しいよな。

 お前もほっときゃいいのに、バカ正直に助けようとして。

 そんなことしたって無駄だって世界に呆れられても……お前の気持ちは絶対に無駄じゃないって、みんなちゃんとわかってる」


 そう語るヨータ自身も、まるでアイの感情が伝染したかのように、ひどく切なそうに、そして愛おしそうな目をしている。


「カナが戦いたいと思うのも、立ち向かうお前の力になりたいからで、

 ジフが無闇に突っ込む前に止めようとするのも、傷つかなくていいことまでお前に傷ついて欲しくないからで、

 頑張ったお前が傷つくのは……俺も嫌だよ」


 教え諭し、吐露するヨータの表情が、痛ましく歪んだ。



「あの時お前が俺を助けようとしてくれたのも、無駄なんかじゃない。

 だからもう……お前がお前自身を責めなくていいんだ」


 静かに伸ばしたヨータの腕が、アイを包み込み、抱きしめる。


「本当は俺も……もっと傍でお前を守りたかった……絶対にお前達の所に戻ってくるから……」


 ヨータの肩にアイの頭を埋めていて、アイにはその表情は見えない。だがヨータの声は微かに震えていて、胸を詰まらせるように少しだけ上擦っている。抱きしめる腕に力が籠り、胸の内を呑み込む喉の音が聞こえた。まだ少し揺れる声で、ヨータは強気に言ってみせる。


「お前もそれまでくたばんじゃねぇぞ」

「……うん……」


 触れ合う場所からヨータの温度が流れ込むように、アイの胸の奥も熱くなる。アイからも腕を回して抱き返した。


「俺もやってみるよ、ちゃんとみんなと話せるうちに……!」


 アイの中に足りなかった答えを埋めるように、その温度ごとヨータを受け止める。

 今触れているものが、ここにある全てが、アイの願望が生み出した都合の良い夢でもいい。迷いは晴れたから。ただ、今ばかりはこの温もりから離れるのが惜しくて、ヨータの胸に身を委ねる。親の腕の中で安心に満たされた幼児のように。


 あの日、記憶に焼きついた空の朱さ、日差しの熱、肌を掠める風、草原の匂い。

 そして、ヨータがいてくれたこと。

 アイが求め続ける限り、沈むことも明けることもないーー永遠の夕焼けが、アイの心の奥底に残り続けていた。




* * *




 早朝。アイは眠りから覚めた。

 やっぱり夢だったな、と思うと同時に、いつもより頭と体がすっきりしている気がした。そのまま朝の空気に触れたくなって、まだ寝ているジフ達を起こさないように静かに男子部屋を出る。


 アイが向かったのは、離宮と王城を繋ぐ回廊の橋。入り口から踏み出すと、屋内と外の明暗差で一瞬目が眩んだ。視界が戻ると、橋の中央にはすでに人影があることに気付く。

 そこにいるのは、カナだった。橋の手すり越しに浅葱色の空を眺めている。


「カナ、こんな時間にどうしたんだよ」

「あれ、アイ? いつもより早く目が覚めたから、外の空気を吸いたくなって」

「まあ俺もそんな所だよ」


 呼びかけられたカナがこちらに振り向く。普段の宿ではそれぞれ男女別の部屋で着替えてから朝食で顔を合わせるので、今はお互い寝巻きのままなのが珍しく、なんだか不思議な気分だ。

 カナは再び遠くの空を見つめる。


「晩餐会の夜、リンが言ってた。ここから見える夜の王都の景色が好きなんだって。

 わたし達も一緒に見たんだけど、街の建物や樹が星みたいに金色に光って、本当に綺麗だった」

「えっ、そんなことがあったのか?」

「そういえばあの時アイはいなかったんだっけ。

 トイレに行ったきりお城でガリュマと迷子になってたんでしょ~?」


 カナに呆れられ、アイは拗ねるように口をすぼめる。からかうようにしたり顔をするカナだったが、次第に柔らかい笑みに変わっていく。


「今度はアイも一緒に見れたらいいね、夜景」

「……うん」


 アイも機嫌を直し、カナの方を見る。彼女と目が合って、どちらからともなく微笑み合った。



「……わたし、ちょっと焦ってたみたい」


 不意にカナがぽつりと呟く。


「わたし達には、ヨータの運び屋があるもんね。

 アイが運び屋を大切にしてくれてるって知って……自分が戦えることより大事なこと、忘れかけてたんだって気付いたの」

「……カナ……」


 思わぬ吐露に、アイは驚く。アイがジフに今後のことを相談し、カナのタイミングを窺っていた間にも、カナ自身だってその後も考え続けていたのだ。


「それでもやっぱり、《救世主》やコキュートスのことを探っていくなら、自分の身くらい守れた方が良いんだろうけど……

 それよりももっと、アイと運び屋の仕事で旅をして、いろんな景色を見たいって思うから」

「うん、わかった」


 今ここで全てを決められるわけでもなく、これから見聞きすることで考えが変わることもあるだろう。それでも、互いに運び屋を大切にしたいと思っている気持ちを確かめられただけで、今の二人には十分だった。

 何より今のカナの気持ちが、図らずともアイの行動がきっかけであったことに、アイの胸に暖かいものが込み上げる。

 もしかしたら、夢にヨータが現れたのは、今日この場所でカナと話すことを予兆していたのだろうか。なんてことをアイは少し考えたが――いや、そんなものがなくとも、自分達の意志でここに辿り着いたのだ。



 ベールのような柔い風の中、アイとカナは遠くの景色に想いを馳せる。朝陽に照らされた王都は、夜景とはまた違った淡い黄金色を帯びて、樹々が輝く。

 リンやレオナ王子、騎士団の人々が守ろうとしているもの。国同士の……大陸の情勢が混迷を辿れば、この景色は失われてしまうだろう。

 いつかアイも一緒に、金色の夜景を見られるように――そう願いながら、二人は登りゆく暁光を見つめていた。




* * *




 バロディノーギア王城、騎士団寄宿舎。

 高官専用区画の共同シャワー室で、シャワーの水音が響いている。


「お前、シャワーくらい城の自室のを使えよ。そっちの方が何倍も高級だろ」

「こっちの方が近かったんだし、気を遣わなくて使いやすいんだよ」


 フーゴとレオナ王子が、仕切り越しに隣り合ってシャワーを浴びていた。

 高官専用とは言え自国の第一王子が使っているとなると他の者達が気を遣うのだが、というフーゴの気苦労を知ってか知らずか、そんなことはお構いなしにレオナ王子が言う。


「それよりフーゴ、お前ヴィッキーをディナーに誘ったらしいな」

「あぁ!? 何でお前が知ってるんだよ」

「俺がお前のことで知らないことがあるとでも思ったか?

 俺はずっと前からお前達が上手くいくのを応援してるんだぞ」


 フーゴの弱みを握ったからか、レオナ王子はやけに上機嫌だ。仕切りで見えなくとも今の王子がしたり顔をしているのがありありとわかる。


「二人で飯食うくらい今まで何度もあっただろ」

「でも今回は完全にプライベートだろ。

 お前にしては強気に出たんだから、このチャンスに好意は素直に表しとけよ。

 でもこれで上手く進んだなら、ケレスがお前の義父になることにも向き合わないといけないな」

「そんな現実的なことを今考えさせるな……」


 フーゴにとってまずは食事の誘いに成功した余韻に浸っていたいのだ。レオナ王子の野次馬ぶりに、フーゴは溜め息をつく。


「ちょっと前までうじうじしてた癖に、立ち直った途端に随分調子良いな。

 やっぱりよその高官が集まる晩餐会で女性を誘って抜け出す奴は余裕が違うな」

「お前もそれを知ってたのか!?」


 今度はレオナ王子がフーゴの意趣返しを喰らった。第一王子とその臣下とは思えぬ気の抜けた会話に、これから始まる一日の騎士団勤務の気苦労ごと洗い流す。

 レオナ王子はシャワーを止め、明瞭になった視界に、壁に取り付けられた鏡が現れる。

 その鏡には、右肩に翠緑色の大星座の輝石を宿した自身が映っていた。



 生まれた時から己の体の一部として宿っていた輝石。

 輝石を縁取る金属の装飾のような紋様は、月桂冠に包まれた緑葉と大輪の花――バロディノーギア王国の国章と瓜二つの造形をしている。

 大星座と己の国、その二つが一つになり、恐らく一生消えることなく体に刻まれている。レオナ王子自身の運命そのものを意味しているかのようだった。

 二十三年もの間、鏡を見るたび嫌でも目に入るというのに、いまだ輝石は輝かない。


 鏡に映っている、無造作に濡れて垂れ下がる深緑の長い髪。無防備に水が滴る頼りない顔。今の自分の表情を見たら、またフーゴに小言を言われるだろうか。

 後ろめたく思うわけではないが、レオナ王子は左手で右肩の輝石を押えた。

 ――その時。



「…………っ!?」


 不意に輝石が魔力の熱を発し、押さえている左手に直に伝わる。そうして一瞬でレオナ王子の体内に流れ込むように、直後に彼の脳裏に景色が映し出される。


 その場所は――樹木が鬱蒼と生い茂る広大な森。コンピューターグラフィックスの骨組みによく似た、物体の青い輪郭線のみで構成された、立体的な風景。恐らくは、その場所の地脈を魔力で感じ取っているが為のビジョン。

……この木々を、どこかで見た気がする。


 ――『我々も異常現象による植物の異変が見られた時、自然元素に長けた王国の技術で分析してくださり、原因と思われる物質を特定できた』


 不意に、国際会議での北の小国の高官の発言を思い出す。あの時高官が取り出した植物の資料。――そうだ。以前小国から件の植物を預かり、分析にかけた。その時、異常が見られた場所として撮影された森の写真。

 この景色は、その森によく似ている気がする。


 ビジョンは獣が駆け抜けるが如く、高速で森の中の風景が移ろいでいく。どこへ向かっているのかもわからぬまま……しかし、青色で描かれていた輪郭線が、サーモグラフィの反応を示すかのように徐々に赤くなっていく。

 同時に周囲の植物に宿る魔力が、危険信号じみた明滅を始める。目に入るあらゆる植物が、赤、赤、赤――森が燃やされるような赤に侵食されていく。


 やがて獣道を抜け、木々の向こうから射す光の中に飛び込み――そのままホワイトアウトした。



「うっ、」


 突如見えた得体の知れない景色。めまぐるしく流れる情報を受け止めきれず、急に現実に戻されたレオナ王子は立ち眩みを起こし、体が仕切りの壁にぶつかる。仕切り越しに隣でその音を聞いたフーゴが異変を感じ取る。


「どうした?」

「い、いや、床が濡れてるから足が滑って」

「……こんな所でお前が怪我でもしたら、俺の責任になるんだからな」


 フーゴは深く追求しなかったが、レオナ王子が何かを誤魔化したことに気付いている。本当に大事になってしまう前に自室で休ませようと、フーゴもシャワーを締めた。


「終わったならさっさと出るぞ。お前のその大層な髪を乾かすのは小一時間かかる」

「ああ……わかった」


 隣でフーゴが個室から出ていく音を聞き、レオナ王子も前髪の水を振り払う。

 もう一度だけ鏡を一瞥し、そこに映った己と右肩の輝石を苦々しく見つめた。

 大星座の力は、まだ覚醒していないはずなのに。今の得体の知れない景色は、確かに輝石から流れ込んできた。 

 一体自分にどうしろというのだ。行き場のない感情を呑み込み、レオナ王子は踵を返した。

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