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第17話 バロディノーギア王国-5

 バロディノーギア王城、憩いの間。王と妃が就寝前にお茶を嗜むドローイング・ルーム。その日は王の下臣であるケレス騎士団長も同席していた。


「近頃はレオノアードもリンリアーナも忙しくしているようだな。

 随分と城の中が賑やかになった」


 ガウンに着替えた国王がチェアに腰を落ち着け、白のティーカップをソーイングに置く。


「この度の国際会議……レオノアードを矢面に立たせるのはまだ早かったかと思ったが……

 どうにか踏ん張りを見せたようだ」

「殿下達も初めての経験を受け止めて、次のことを考えるのに四苦八苦しているようですが、

 今はフーゴが上手く現場を回してくれているようです」

「彼のご両親にも、改めて世話になっている感謝を贈らねばならんな」


 息子――レオナ王子の会議の結果を案じつつも、ケレス騎士団長の経過報告に少し安堵する国王。今の彼の顔は、一国の王と言えど子供や若者達の独り立ちを見守ることしかできぬ、複雑な親の顔であった。


「最近の殿下や姫の、一喜一憂しているかと思えば奮起すると一気に動き出す様子を見ていると、

 若い頃の陛下の姿を鮮明に思い出しますよ。

 我々もあの頃を思えばここまでどうにかやってきたのですから、

 殿下達も長い目で見守っていれば、きっと大丈夫でしょう」

「言ってくれるな、ケレス」


 軽口混じりにねぎらう騎士団長に、国王の表情も和らぎ苦笑する。



 一方、テーブルを挟んで王の向かいに座る王妃は、いまだ浮かない顔をしている。


「リンリアーナとそう変わらない子供達まで、異常現象を止めるために大陸中を奔走しているのを見ていると……

 リンリアーナも同じように、自分の足で城の外に……国の外に旅立って行く日も、そう遠くはないのでしょう」


 どこか遠い目をして呟く王妃に、ケレス騎士団長が顔を向ける。


「やはりご心配ですか? 王妃」

「ええ……現に大精霊フローランナに会おうと、一人で外に出ることが増えました。

 あの子自身に、もっと外の世界を知りたいという意志があるのでしょう」

「リンリアーナ姫殿下は、我々騎士も顔負けなくらいしっかりしておられますからね」


 騎士団の護衛を掻い潜って抜け出すことを覚えたリンを、逞しく思うべきか、由々く思うべきか。王妃も騎士団も、日頃から頭を悩ませている。


「ですが王妃のお気持ちもお察しいたしますよ。姫殿下もまだ十分幼い。

 私から見たヴィクトリアですら、子供の頃のままですから」

「……そうですね。みんなあんなに小さかったのに……

 時が経つのは、こんなにあっという間なのですね」


 娘の成長を見守るのは、息子の時とはまた違った苦労や想いが尽きない。同じく娘を持つケレス騎士団長と共感し合い、王妃は寂しさとも言える感情を吐露した。


「リンリアーナは、生まれる前からあの大樹によく会っていましたから。

 あの子がまだ私のお腹の中にいた頃、無事に生まれてくるよう私が度々大樹のもとへ行き、フローランナに感謝とお祈りをしていました。 生まれてきてからも、一緒に大樹へお散歩していましたし。

 その時の感覚が……リンリアーナにとって無意識に〝フローランナに会った〟という記憶として残っているのかもしれません」


 王妃は在りし日の記憶に想いを馳せる。



 お腹に眠るリンと共に、大精霊フローランナが宿る大樹のもとへ通い、「もうすぐ可愛い女の子が生まれますのよ」と度々語りかけていた。祝福してくれるように、春の風にそよぎ、桜色の花びらが舞った。

 その中で王妃は祈った。「だからどうか、この子を見守り……この子達と共に、これからの王国をお導きください」と。


 フローランナがそれを聞き届けたのかは定かでないが、リンは無事に生まれ、その後も大樹へ散歩に向かった。幼いリンが大樹に駆け寄り、夢中でお喋りし、花が舞うと喜ぶ姿を、王妃は幸せそうに見つめていた。

 ――十歳に成長したリンが、今でもフローランナの姿が見えると信じ込んでいるとは、その頃は考えもしなかったが。



「それでも、あの子が自分の足で大樹へ行こうとするようになったのは……

 ただのあの子の刷り込みではなく、本当に大樹から何かがもたらされているのかもしれません。

 フローランナは姿が見えなくとも、加護の結界が長きに渡って実在している以上、彼女も確かに存在しているのですから」


 母として甘いだけなのかもしれない、そう思いながらも、王妃は予兆じみたものを感じていた。

 大樹のもとへ直接赴いた時、あるいは王族の血の力で結界に干渉する時……言葉通り、大樹の力に触れた時、肌に走る感覚がある。それに近いものを、近頃も微かに感じる時がある。

 そして――姫であるリンも、その力を感じ取っている可能性がある。


「……それならきっと、フローランナの加護があの子達を守ってくれるはずだ」

「ええ。姫殿下が外向的になったのは、あの少年達と出会ってからです。

 人と言葉を交わし助け合うことを知れば、きっと大丈夫でしょう」


 王妃の不安に、国王とケレス騎士団長が穏やかに寄り添う。王妃もほんの少し、心を強く持ったようだ。



「私達大人も願っているばかりではなく、国を選んでくれた民への責務を果たさねばなりません」


 王妃の膝の上で組んでいる手に力が籠る。国王夫妻も、ケレス騎士団長も、次の時代を担う若者達へ座を譲る準備こそすれど、今もまだ国の長としての役目を退いたわけではない。王は静かに表情を引き締めた。


「結界を……国を守るためには、我ら王族の血を……備えておく日が近いかもしれんな」

「ええ……」


 意志を固める国王に、王妃も同意する。傍らに立つケレス騎士団長も、黙して二人と決意を共にする。

 彼らが囲むテーブルの傍の、アンティークの戸棚。その上のには、王族一家が四人で寄り添って映る写真が立ててあった。少年期のレオナ王子と、王妃の腕に抱かれた幼子のリンの姿が、その中にだけ残り続ける。

 写真の中では、四人を庇護するように春の空に向かって聳え立つ大樹が、――今は衰えてしまった――満開の花を咲かせていた。


 ――17 バロディノーギア王国

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