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第02話 ニンゲンと人間

 突如魔力が覚醒したアイによって、森で暴走する大熊の魔獣を倒すことに成功した。

 髪と目の色が変わってしまったアイは頭を抱えて困惑しているが、彼と共に大熊を巻いたカナとヨータは、大熊が鎮静化したことに一安心する。


「まあ良かったじゃない、最初よりもこのへんの雰囲気と馴染んでるし。そんなことよりちょっと手を出して」

「そうは言ってもこんな派手な色……てかそんなことよりって……」

「というかお前、大熊に撥ね飛ばされたの忘れたのかよ」


 他人事だからか、カナはどこまでも能天気にアイを励ます。かたやヨータはもっと大事なことがあったはずのアイを見て呆れを浮かべている。


 カナに言われるがまま、アイは右手を差し出した。その手をカナが両手で包み込むと、二人が繋いだ手を通ってカナの中の温かい光の粒がアイの方へと流れ込み、彼の体を光が包む。

 今更ながらよく見てみれば、アイの肌には生傷、服には裂け目がいたる所に刻まれていた。結果としては大熊に勝ったものの、大熊が衝突した直後に魔力が目覚めなければ、普通に考えれば死んでいてもおかしくはなかったのだ。

 カナから伝ってくる光に驚きながらも、その温もりにアイが身を委ねていると、瞬く間にアイの全身の傷が自然治癒され、赤い線の数々はすっかりなくなっていた。


「治った。えっ? 今のカナが治したの?」

「そう。でも体の負担は少し残ってるから今日はもう無茶しちゃダメよ」

「すご! あ、ありがとう」


 アイは治ったばかりの体をまじまじと眺めて目を輝かせた。礼を言われたカナは得意げな表情を見せるが、今度は昏倒している大熊の方へ恐る恐る近づいていく。


「あなたも苦しかったのね」


 大熊の暴走は、大熊自身の意思ではなく別の何かによって引き起こされ、無理矢理走らされていたようだ。一度気絶させる必要があったとは言え、その巨体の背中には斬撃の傷が残っている。カナがそっと大熊の茶色い体毛に手を埋めると、再びカナの体から光の粒が浮かび大熊に流れ込んでいく。

 すると、その光に反応したかのように――大熊の体から黒い霧のようなもやが立ち昇った。光に照らされるにつれ、その黒い霧は蒸発するように消滅していく。完全に消え去った頃には大熊の体の傷も治癒されていた。

 その様子を見ていたヨータが訝しげに口にする。


「……今の黒いのって……」

「もしかしてあれのせい……?」


 治癒を終えて大熊から手を離したカナも少なからず直感していたようだ。現象を見ていたアイは相変わらず初めて目にする光景に興奮している。


「すげぇ! 治すだけじゃなくてああいうのも消せんの!?」

「はしゃぐんじゃねぇカナだって疲れるんだぞ」


 声を大にするアイの頭をヨータが小突く。乱暴に諌められたアイが痛む場所を押さえると、その右手がきらりと眩しく光った。

 光を見逃さなかったヨータが、一瞬目を見開いた。同様に見ていたカナもはっと表情を変える。



「……アイ……お前、その赤い石、いつから付いてた?」



 さっきまで粗暴に振舞っていた彼が、急に神妙な目と声で問う。


「え? ああ、戦えるようになった時かな? 今考えてみればこれのおかげで死なずに済んだのかも」

「最初からついてたわけじゃないのか?」

「宿で目が覚めた時は無かったと思うけど……魔法みたいなのが使えるようになったのもそれからだし」


 やけに事細かく聞いてくるヨータは、アイのその返答でさらに追及を始める。


「待て、今ので初めて魔力を使ったのか?」

「それまで魔力を使ったことがなくて、そもそも使い方を知らないってこと?」


 カナまで加わって念入りに聞いてくる二人に、アイは事実通りに「うん」と答えることしかできない。二人は顔を見合わせ、カナが呟いた。


「……それって……『ニンゲン』ってこと……?」

「そりゃそうだろ」


 アイにとっては当然としか言いようがなく、素直に答えた。それを聞いた二人はしばし言葉を失ってしまった。

 我に返ったのか、途端にヨータがアイの右手を掴んで「なんか隠せるやつ」と指示をし、カナが鞄から取り出した包帯をアイの手に巻きつけた。


「とりあえずその石はあんまり人に見せるな。魔力を初めて使ったことも言わないようにしろ。

 それと……カナの力も普段は人前じゃなるべく使わないようにしてるんだ。それは覚えておいてくれ」


 突然の二人の挙動にアイは呆然とし、ヨータに言われるがままに「お、おう」と頷く。


「とにかく……今はさっさと森を出るか。細かいことは次の宿についてから落ち着いて考える」


 ヨータはため息混じりにそう言って頭を掻いた。彼らの言動についても、今は波風を立てずその時に聞いた方が良さそうだ、とアイも思案する。いまだ戸惑っているアイを見て、ヨータはおずおずと口を開く。


「……カナが治したとは言え、俺のせいで森に入ってお前に怪我させたのは

悪かった」


 そして懐からある物を懐から取り出し、手に握ったままアイに差し出す。


「これを取り戻そうとしてたんだろ」

「……それ……」


 ヨータに手渡されたのは、アイが制服で着けていたワインレッドのネクタイだった。

 このネクタイのために一人で咄嗟に引き返したというのに、直後大熊と衝突してからの怒涛の事態にすっかり失念してしまっていた。それをヨータが拾ってくれていたのも驚きだ。


「あ、ありがと――」


 礼を言いながら渡されたネクタイに触れる。ネクタイを通してアイとヨータの手が繋がる。


 その瞬間。

 アイの瞳の奥で、再び景色がフラッシュバックする。

 ネクタイを手渡すぼやけた人影。先程撥ね飛ばされながら見たものと同じ――青年のシルエットが、明滅しながら目の前のヨータと重なる。


 立ち眩みを起こしよろけるアイの体を、ヨータが肩を掴んで支えた。


「お前本当に大丈夫か?」

「早く宿で休んだ方がいいよ!」

「だ、大丈夫大丈夫! でも早くこの森から出たい……かな……」


 ヨータとカナに挟み撃ちの如く心配され、アイはとりあえずそう答えて場を収めた。



 三人がその場を去ってしばらくが経過した。アイと大熊の戦闘の余波を受け、なぎ倒された木々と平らにされた茂みに、素っ頓狂な声が響いた。


「んぎゃあああああ!?」


 朱色の毛並みに三角耳と蝙蝠のような羽が生えた、哺乳類と思われる四つ足の魔獣の子供が血相を変えて走ってきた。変わり果てた森の様子を一心不乱に見渡し、衝撃を受け叫ぶ。


「お、お、おりぇの住処はどうなっちまったんだぁ~~!?」




* * *




 別日。とある洞窟の通路。

 古びた石の匂いが、日の当たらない冷えた空気と一体化している。その最奥には、かつて人の手で造られた神殿の如き大広間の中心に、円形の舞台が佇む。そこにはエスペル教団の黒い制服を着た三人の少年少女――ダズフェルグ隊の少年兵達がいた。


「ったく何で俺達がこいつらに詫び入れながらやらなきゃなんねぇんだよ!」


 銃声や金属音が岩壁に反射して響く中、三人の中の年長の少年・ラスティが両手の二丁拳銃を放ちながら声を荒げる。二人の少年達は、洞窟に棲みついている狼の魔獣達に異物と看做され飛び掛かってくるのをなんとかいなしていた。


「座標として一番効率的な場所がここだった以上仕方ないだろ。

 多少は止むを得んがあまり血が流れると他の魔獣まで寄ってくる。なるべく気絶までに留めろ」

「わーってんだよそんなこと!!」


 槍捌きで狼を振り払う、長い黒髪を束ねた少年・ジフが、対照的に淡々と指摘する。互いの年齢に対して冷静さが逆転したかのような状況に、ラスティは苛立ちながら威嚇射撃の火花を散らす。

 一通り狼達を遠ざけると、ジフは一度槍を翻して切っ先を地面に突き刺した。足元に広がった魔法陣から特殊な魔力を帯びたラスティが己の力を拳銃に込めて放ち、発火した魔力が狼達の頭上で飛散する。降りかかる魔力を浴びた狼達は瞬く間に眠りについた。



 目標通り魔物の鎮静化を終えた二人は大きな息を吐き、突破されぬよう守っていた背後の舞台の方へ振り返る。


「てかよぉ、本当にお前一人で行くのかよ。三人でやれって任務だぜ?」

「作戦も三人で練った。この魔法陣も三人で準備した。一人が現地に行って、何かあれば残りの誰かが後方支援、もしくは交代する。指令通り三人の仕事だろ」


 舞台を見上げながら問うラスティに、相変わらず滞りのない説明で返すジフ。


「それにピンポイントかつ確実に転移するなら、一人の方が成功率が高い。すでに三日経過したからには実働は最短かつ一直線の方が良い」

「……まあ、今まで落とした任務は一つもないお前が成功させれば、上も文句は言えねぇだろ」


 ラスティはそれ以上食い下がるのが面倒臭くなったのか、わざとらしくジフをおだてて了承したふりをする。拳銃のトリガーに人差し指を通し、おもちゃのように回して気を紛らわせていた。


「にしたってこんな任務を俺達みたいなガキに頼むってことは、大人がぞろぞろ動くのは都合が悪いってことだろ。ニンゲンを取り逃した挙句見失ったのが周知されるとまずいってか」

「そんな所だろうな。失踪か消失か、誰かが連れ去ったか……最悪なのは三番目だが、リオウは恐らく三番目のつもりで進めている」


 上官のリオウから任された今回の任務に文句を垂れるラスティに、ジフもそれとなく同意する。と、二人が見上げる舞台の上から少女の声が響く。



「お兄ちゃーん! 魔法陣の確認、終わりました!」


 最年少の少女サギリが舞台上から顔を覗かせた。呼びかけられた二人も舞台へと上がる。彼らの足元には舞台の形に沿った円形の魔法陣が青い光を放っていた。


「魔法陣の状態、現地の大気中の魔力の安定、どちらも今なら問題ないと思います」


 報告しながら歩み寄るサギリに、どちらからともなくジフが腕を差し出す。サギリは右手に握っている杖から魔力を得ながら、ジフの腕に回復魔術を施した。


「これで万全だな。後は俺が片付ける」

「ジフ兄……気をつけて」


 ジフの言葉こそ淡白だが、サギリを見遣る顔に穏やかさを滲ませる。そしてジフは光る結界陣の中心に立った。


「油断すんじゃねーぞ」

「お前こそ遊んでるんじゃないぞ」

「何かあったら教えてね!」


 見届ける二人の視線を背に、ジフは静かに息を吐き精神統一する。そして、再び槍を握り直し、魔法陣の中心に突き刺した。



 今、彼が立っているのは転移の魔法陣。転移する先は――人体を発火させながら夜空に昇り立っていた炎の柱。その発生源である『未確認魔力体』。……すなわちニンゲン。何者かによってその場所から連れ去られたと思わしきニンゲンのもとへ直接転移し、身柄を確保するのが今回の任務だ。

 エスペル教団南支部の結界が感知した魔力の性質を、ジフは一つ一つ明細に思い浮かべて魔法陣に照合させていく。それらが実在する魔力と一致した瞬間、魔法陣全体が一際強い光を放った。それを合図にジフは腰を落として片膝をつき、体勢を備える。


「《空間転移(エクスポート)》!」


 ジフが合図となる術の名を口にし、槍を握る手に力を込めた。魔法陣に宿る魔力が解放され、眩い光が舞台から広がっていく。ラスティとサギリに見送られながら、ジフはその光に包まれていった。




* * *




 森に隣接したとある小さな町の宿屋。

 アイ達が無事に森を抜け目的地に辿り着いてから、三日ほど経過していた。ヨータの運び屋の仕事の予定に沿って数日ほど滞在することになり、ビテルギューズ大陸に迷い込んだアイはひとまず腰を落ち着けることができた。

 アイはボロボロになった制服のかわりに町の古着屋で服をいくつかこしらえてもらい、簡単な手伝いをしながらも、ほとんどの仕事はヨータが全て自分でこなしていた。


「ここにうちの判を押す」

「は、はい」


 現在泊まっている宿の個室。机の席についているアイは、卓上に並べられた書類と向き合い、隣に座っているヨータが指差す場所に恐る恐る印鑑を押した。

 ――『コンプレアンスエージェンシー』。

 ヨータとカナが生業にしている運び屋の会社名。この世界の言語でそう書かれた文字列が赤く捺印された。アイは現代日本人だが、幸い既知の言葉に当てはまらないほど難解な場合を除き、この世界で目覚めた時点で文字を読み取ることができている。目で追ったその文字を読み上げようとする。


「コンプライアンス?」

「〝コンプレアンス〟、だ」


 自分の会社の名前を間違われたヨータが苛立った声と顔で訂正する。

 それにしても、このコンプレアンスエージェンシーはヨータ達が雇われているわけではなく、彼ら自身が立てた会社なのだという。自分と少ししか離れていない少年が事実上会社の社長なのだと思うと、アイは緊張してやまない。


「まあ領収書はそれでいい。これを次の街の郵便局で出す。その時また教えるからここまでメモっとけよ」

「うん……」


 客に渡す商品や書類を扱っているからか、仕事を教える時のヨータは初対面時の剣幕に比べれば比較的丁寧だった。メモ用に与えられたノートを開き、言われた通りに書き残す。



 異世界で天涯孤独な身にしては、寧ろ衣食住に困ることもなく安全なほどだった。――子供だけで稼いで暮らすというのは、やはりまだ慣れないが――。

 故に〝肝心の件〟についても何も起きぬまま、数日が経過した。


「べ、弁償の件って……どうすんのかな」


 アイはベッドに腰掛け、クローゼット前で荷物の片付けをしているヨータに恐る恐る切り出した。アイが〝奴隷〟と称してヨータ達に同行させられた原因――破壊してしまった商品の弁償についてだ。


「あの商品はもっと先の街で届けるやつだ。だからそれまでに代わりの新品を速達で手配してもらう。今日はその手続きと支払いをしてきた」


「えっ、もう払ったの」

「まあ言っちまえばこういうことが全く起きないわけじゃないし、最初の頃は俺でもあったからな。応急処置で立て直すくらいはできる」


 また怒りを蒸し返してしまうかと思いきや、ヨータはいたって冷静に、すでに対処を終えていた。仕事をしているとこういう事態も経験しているのか、やはり自分と同じ子供にしては大分大人びて見える。

 アイが感嘆半ばに呆けているうちに、クローゼットを閉めたヨータが人差し指に力を込めてアイのつむじを押さえつける。


「だからお前は俺が立て替えてやったぶん働いて俺に払うんだよ!」

「わわわわかりました!」


 感心したのも束の間、やはり怒りの制裁を喰らってしまった。その時、ドアをノックする音と共に、外からカナの声が響く。



「ヨーター! アイー! 食堂の夕飯できたってー!」

「おーわかった今行く!」


 途端、ヨータは何事もなかったかのように声を半音和らげて返事をし、アイはつむじ攻撃から解放される。部屋の外で待つカナのもとへ向かおうと扉を開ける直前、ヨータの通信機が着信の音を鳴らす。

 アイの世界の携帯電話(スマートフォン)とよく似た形状だが、バッテリーや基盤の一部として内蔵されているのは、魔力が凝固した鉱物・『星零石(せいれいせき)』というものらしい。


「先に行ってろ」


 ヨータが一言そう告げ、通信機を取る。アイも会話の邪魔にならぬよう、そっと部屋を出た。カナに状況を説明し、二人で一階の食堂へと向かおうとする。しかし、ドアの向こうから漏れてくるヨータの声が気になって、アイはドアに耳を近づけた。


「……本当に急な無理を言ってすみません」


 アイと接している時とは打って変わって、とても丁寧で、そして真剣に話しているヨータの声が聞こえてくる。


「こちらの注意が足りなかったせいなので……最終的な料金もこちらが全て払います。本当にすみません……」


 彼は繰り返し自分のせいだと言いながら、何度も謝っていた。それが先ほど聞いた弁償の件だとアイもすぐに悟った。無意識に聞き入っていると、先に階段を降りるカナから催促の声をかけられ我に返った。




* * *




 夕食と風呂を済ませると、ヨータとカナはそれぞれの部屋で明日の準備をし、そのまま眠りについた。

 それでもただ一人アイだけは、三日前までの当たり前を全て喪失し、現実を受け止めきれない頭では眠れるわけもなかった。同じ部屋で寝ているヨータを起こさないように静かに扉を開け、寝巻用の服のまま宿の外へ抜け出す。


 夜風に当たって少しだけ落ち着いたアイが夜空を見上げると、地球で見るのとよく似た月の側にもう一つ薄紫に光る月があることに気づく。


「……異世界には月が二つあるんだなぁ……」


 見慣れない方の月を見つめながら、アイは物思いにふける。帰る方法。記憶を取り戻す方法。『ニンゲン』と括弧付きで呼ばれたこと。そして弁償のこと。最後については自分が完済できるのかという不安もあるが、今はそれ以上にヨータの電話中の声が頭から離れなかった。


「……俺のせいなんだよな」


 ヨータは商品を壊したことを怒りはすれど、アイに客を前にして謝らせることはしなかった。先程の電話についてはこのまま気付かないフリをするのか、一言でもヨータに謝るべきなのか。思案しているうちに無意識に下がった視線をもう一度薄紫の月に戻す。

 その時。


 突然アイと夜空の間を遮るように、空中に魔法陣の光が現れ、目の前の夜空が窓ガラスのように砕けて人影が飛び出した。


 衝突した勢いで転倒したアイを人影がそのまま組み伏せ、アイの顔に触れるギリギリの位置で地面に槍を突き刺す。月の逆光でよく見えないが、背丈はアイと同じくらいの少年だった。青みがかった黒髪となんらかの制服のような黒いジャケットが宵闇に溶け込んでいる。


「確保したぞ、ニンゲン……!」

「なっ……何!? 誰!?」

「お前は教団で『未確認魔力体』に指定されている。詳しいことは教団でじっくり説明してやるから大人しく同行しろ」


 一方的に言い放つ少年。わけがわからないながらも、彼が何かしらの目的を持っていることを感じ取り、咄嗟にアイも訴える。


「ちょっ、ちょっと待てって! 宿に一緒に止まってる人らがいるからせめてその人達にも話して――」

「宿? だったら部屋番号を言え。朝になったら教団から連絡を入れてやる」

「ええ!? 教団って何なんだよ!」


 聞く耳を持たない少年と押し問答をしている間にも、アイが倒れている地面に魔法陣が出現して発光し始めている。身動きが取れないまま万事休すかと思った、その瞬間。


「見ぃつけたぁああああああ!!!」


 突然どこからか、新たに素っ頓狂な声が響いた。アイだけでなく少年も想定外だったのか、二人同時に声の方へ顔を向ける。

 宿の裏の雑木林の方から――朱色の毛並みに三角耳と蝙蝠のような羽が生えた、四つ足の魔獣の子供がこちらへ向かって走ってきた。魔獣は二人の状況に構うことなく、彼ら目掛けて飛び掛かってくる。そして魔獣も魔法陣の光の中に転がり込んだ。


「……!?」

 直後、眩いばかりの光が彼の体を包み込む。陣の光は乱れ始め、突然の事態に少年は驚き焦りを見せ始める。魔法陣は激しい火花を走らせ、やがて二人は目を貫かんばかりの光に包まれていく。

 二人の少年と一匹の魔獣は、光の中に消えていった。

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