表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

パスワードは 以下の何れか です

作者: 風風風虱

 深夜。

 高層ビルの部屋に男が音もなく入ってきた。

 男は手に持ったライトで素早く部屋を照らし

部屋の奥にあるパソコンの電源をオンにした。

 ブーンという音とともに画面がゆっくりと青白い光を放ち始める。

 男は名うての産業スパイだった。

 今夜も数えきれない警備員や監視カメラをすり抜けてきた。この部屋のパソコンからしかアクセスできないデータベースが目的だ。後はこのパソコンを経由して重要機密をごっそりいただくだけだった。

 画面にパスワード入力のダイアログが浮かび上った。

 アクセスにはパスワードが要るようだ。が、男は慌てる様子もなく、デスクの引き出しの中やマウスの裏などを調べ始めた。やがて男の視線がデスクに置かれた自由の女神の像で止まる。無駄なものが何もないデスクにそれは少々似つかわしくないものだった。

 男はニヤリとほくそ笑むと像を手に取り、裏返して見る。

 果たして台座の裏には小さなメモが貼り付いていた。


パスワードは 以下の(いず)れか です


 コスモス 雪山 温泉 たまご

 和菓子  5年 金魚 帽子 クエスト

 三日月 文化祭 暖炉         


 と、書かれていた。


 パスワードを忘れた時のために身近にメモを置いていく(やから)がいまだに多いことに男は苦笑を禁じ得ない。

 男は取りあえず、『コスモス』といれてみた。しかし画面が赤く点滅する。パスワードが違うようだ。

 ならばと一番最後の『暖炉』をいれてみた。しかし、それも違った。

 男は淡々とメモにある単語を入力していく。

 『雪山』、『温泉』、『たまご』……すべて外れ。そして最後の『文化祭』を入力してみた。

 しかし、画面は男を嘲笑うかのように赤く点滅するばかりだった。



「くそっ。どう言う事だ。どれも違うじゃないか!」

 

 男が小さく叫ぶと突然部屋の明かりがついた。

 ドアが激しく開かれ、銃で武装した警備員達が乱入くる。男は呆然としながら手を上げた。


「間違ったパスワードを入れると警備員室だけに警報が鳴る様になっているのだよ。スパイ君」


 リーダーと思われる眼鏡の男が言った。


「デタラメの単語を入力させて時間を稼いだんだな。騙しやがって卑怯だぞ」


 拘束された男は悔し紛れに叫んだ。


「とんでもない。

パスワードはメモにちゃんと明記してあるさ」


 眼鏡の男はキーボードで『以下の何れか』と入力するとエンターキーを押した。ピッと音がしてパソコンが動き出す。


「こんなに丁寧に書いてあるのになぜかみんな勘違いするのだよね」


 と言うと眼鏡の男はさも可笑しそうに笑うのだった。







 

 




2023/12/19 初稿


卑怯だそ! と言うと声が聞こえて来そうですが笑って許してください



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こちら投稿されたことに気づいていませんでした。本日割烹を拝見してたどり着きました。 切れがあって面白かったです。 読めて良かった!
[気になる点] 確かちょっと前に同じように“パスワードは◯◯です”って、◯◯を入力する話がランキングに載ってたな。 その作品がランキングに残ってのかと思った。
[良い点]  卑怯ですが、そもそも産業スパイが卑怯ですもんね~。ですが、今度は脱獄を頑張ってほしいです。もっと大変でしょうか。  コミカルでとても面白かったです。 [気になる点]  特にございません。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ