第五話
部長に誘ってもらい、バンドをやることが決まった。
決まってからは週に一回部室で練習をしている。
最初の練習では、一曲全部演ってみた。
それ以降の練習は、それぞれの苦手なパートやずれている部分を入念に行った。
練習以外の時間で俺は、ヒトカラに行き歌詞を覚えたり、今よりもうまく歌えるように練習をした。
練習最後の日に最終確認として一曲丸々通しで演った。
少し歌詞がうろ覚えだった部分もあったが、概ね問題なく歌えたと思う。
終わった後はものすごい達成感が身を包んだ。
メンバー同士でよかったなと口々に言いあった。
練習を終え、部屋からでると、バンドメンバー以外の部員たちからも褒めてもらえて最高の気分だった。
少し雑談をしていたが、家に帰らないと行けない時間になったので、
「そろそろ帰るので、失礼します。」
「直人、ありがとな。明日の準備も頼むぞ」
「はい!お疲れ様です」
と言ってその日は帰宅した。
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遂に学祭の日が来た。
わくわくとドキドキで胸いっぱいだ。
初めて遠足いくような小学生のような気持ちで大学に向かっていた。
大学に着いて、ドラムや重い機材を運んで準備を着々と進めた。
準備を完了させ、最初に演奏する人たちがリハーサルを始めた。
その時に違和感を感じた。
何かがおかしいとそう思った。
それは、本番になって気が付いた。
ボーカルの音だけが極端に小さかった。
それに気づいてから楽しくもあり、楽しくないと感じる相反する感情が渦巻いていた。
そんなぐちゃぐちゃの状態で出番が回ってきた。
歌詞は完璧に歌えた。
声も大きく歌い、楽しかった。
しかし、満足感はなかった。
二日間はモヤモヤだけが残った。
やはり何事も経験が大事、尚且つ楽しいだけのことはないことも知れた。
打ち上げの時に新しい部長の大橋さんが話しかけてくれた。
「よっ、直人。どうだった今日のライブは?」
「なんていうか、全体的に満足感は思ったよりないです。」
「どうしてなんだ?」
「全体的にボーカルのことが小さかったのが微妙でした。」
「そっか。ありがとう。次から気を付けるようにするわ。
残しの打ち上げを楽しんでくれよ。」
と言葉を残して別の人の所に行った。
その言葉に期待してみようと思った