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フランチャイズ

作者: はんはん

「まいどまいどー」


 取引先のおっさんが、手をひらひらさせながら上機嫌で向かいの席に座る。

 居酒屋「天の川」の半個室だ。

 こちらもおっさんなので、よくある居酒屋風景の一部になる。


「とりあえず生」


 おっさんに呼ばれた店員が笑顔でタッチパネルを指さし、無表情で戻って行った。


「どこもかしこも時代的にこれやなあ」


 微妙に反応の悪いタッチパネルを操作しながら、おっさんがぼやく。

 一通り酒と肴を入力して私に差し出したが、私は遠慮した。


「どうしましたのん? 夏バテでっか?」


 おっさんは、狭いテーブルの上を肘ですべるように顔を近づけてきた。

 暑苦しい。

 わざわざ商談を地球でする必要はなかった。

 しかも夏と呼ばれる時期に、日本地区を選んだのは失敗だった。

 

 


「地球産は評判も良いし、なかなかの単価で売れてるでしょ」


 ビールとつくね団子で一息ついたおっさんが、ホッケの身を箸で器用にほぐしながらこちらの顔をうかがう。

 おっさんが上目遣いにチラチラ見てくるのは、毎度のことながら気持ちのいいものではない。

 無駄にまつ毛の長いおっさんの視線は、なんとも言えず生理的に不愉快だ。


「本部としましては今まで通りのロイヤリティで、これからもながーくお付き合いしたいな思うてますねんけど」


 私がボソボソと地球の現状を伝えると、案の定おっさんは「こまったこまった」と眉を寄せて腕を組んだ。

 いつものポーズだ。


「廃棄処分につきましては、生物廃棄は知能レベル3以上は不可という条約がありますわな」


 おっさんは声をひそめて言う。

 だが、元のボリュームが大きいため隣のテーブルぐらいには丸聞こえだろう。

 それでもギャーギャーとわめき散らす人間たちの、隣テーブルには聞こえてないらしい。

 これで本当に知能レベルが3以上もあるのかと不思議に思う。


「期限切れ前の割引につきましても、いつをもって期限切れとするのかと」


 私が地球人年齢での区切りを提案すると「それもそもそも条約違反ですわな」と封じられた。



「年齢による区別は、いわゆる差別と言うやつに繋がるので、銀河派遣組合に入ってる我が社としては容認できませんなあ」


 そう言われると何も言えなくなる。

 たしか社長か会長が、銀河派遣組合の代表を務めていたはずだ。


「しかし利益も右肩上がりやのに、なにをそんなに心配してますんや?」


 梅酒をちびちび舐めながら、私はまたボソボソと説明した。


「は? AI問題? なんでまたそんなことに!」


 おかしな地球語イントネーションも忘れて、真顔でおっさんが驚いた。


「もしかして、地球は科学全振りで構築したんですか?」


 私は梅酒に浮かぶ氷を眺めながら、ごめんなさいと小さくつぶやく。


「前回は魔法全振りで魔力暴走のために絶滅しましたよね? だからバランスタイプにするように業務連絡もしたはずですが」


 バランスタイプは構築もめんどうくさくて、育成にも時間かかり維持費も高い。

 もちろんそんなことは理解したうえでの、上層部からの連絡という名の指示だったのだが無視した。

 このままAI暴走による絶滅になれば、私は5回連続滅亡オーナーとして歴史を作ってしまう。


「しかしその割に、派遣先では魔法に対しての忌避感などはないですね。どちらかというと嬉々として使っている」


 不思議そうなおっさんに「異空間での過ごし方マニュアル」を世の中に紛れ込ませていると告げると、とても食いついてきた。


「アニメ、ゲーム、ラノベ、異世界、転生、悪役令嬢? ほうほうほうこれは興味深い」


 スマホという旧時代の機器を器用に操ると「スバラシイ」と私をシンプルに褒めた。


「この方法で、新しい派遣星を作って下さい。ロイヤリティは半分で結構です」


 破格の提案に思わずおっさんを二度見する。

 どうやらこの方法を、本部に提案して自分の名を上げるつもりだろう。


「次回の星は必ず、科学魔法バランスよく構築してください。そうじゃないとまた、地球みたいに絶滅しますよ」


 私は素直にうなずいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 星新一感があって良いですね!
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