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まずは相談することにしましようか⑤

わたこいのゲームシステムは初心者に優しく作られており、友好度システムはそれを特に象徴するものだった。

主な特徴は3つ。

まず一つ目に友好度の上げやすさ。

二つ目に、一度上げた友好度は下がらないという保持性。

そして三つ目に、友好度に応じて攻略対象キャラとの愛情度が上がりやすくなるというシステムだ。


そもそも、わたこいにおける友好度とはあくまで友人としての親密度のようなものであり、それを最大値まで上げたとしても恋愛イベントには発展しない。

攻略対象キャラには友好度とは別に愛情度というパラメータが設定されており、それを上げることで恋愛イベントを発生させることになる。

では何故わざわざ攻略対象キャラの友好度を上昇させるのかと言うと、友好度に応じて愛情度の上昇率が加算されるというシステムが採用されているからだった。

友好度が最大値まで上がっている状態だと、愛情度の上昇率が1.5倍になる。

攻略対象として選んだキャラが3年生の場合、学園イベントのスチルを取得するためのリミットが1年しかないことになるので、必然的にスピードが求められる。

漏れなくスチル回収を達成するために、友好度システムは重要なものだった。


もちろん愛情度上昇のための課金アイテムも存在していたが、使用するためには「友好度が規定値以上であること」という条件が付いていたため、ある程度の友好度がなければそもそも課金アイテムが使えないという仕様になっている。

一部のプレイヤーの間では「なんのための課金アイテムなのか」という意見もあったようだが、そこを補うかのように友好度は上がりやすくなっていた。

なにしろ日常の会話イベントと贈り物イベントにおいて正しい選択肢を選ぶだけで、規定値の友好度には到達するのだ。

基本は無料で遊べるアプリゲーム故に間口を広く取るための戦略だったようだがこれが功を奏し、結果的には乙女ゲーム自体が初見だというプレイヤーを上手く取り込んで、200万ダウンロードを達成するまでになっていた。

余談だが、やり込み勢や物足りないというプレイヤーのために、会話も贈り物もすべて正しいものを選ばなければ規定値に達しない「人生ハードモード」という難易度も用意されていた。

専用スチルがあったり逆ハーエンドがあったりしたため、「香水」は専らここで使うプレイヤーが多かったらしい。


友好度の保持性で何よりも助かったのが、友好度が下がる選択肢がないというところだった。

間違った選択肢を選んでしまった場合でも、微妙な反応はされても好感度は下がらない。

ただ上がらない、それだけだった。

そしてそれは選択肢だけに限ったことではなく、「定期的に構わなければ愛想を尽かされる」ということすら起こらないようになっていたのだ。

極端な例を挙げてしまえば、開始時点で課金アイテムを使用して友好度を最大値まで上げ、その後はずっと最低限のイベントだけを消化するというような攻略の仕方でも問題なくエンディングに到達できるということである。

現実の世界でそんなことをすれば怒られるか愛想を尽かされるかしそうなものだが、ゲームの世界の彼らはどこまでも穏やかで懐が深かった。


しかしそんな盤石とも言える友好度を下げる唯一の手段が、ゲーム内には存在していた。


それはアイテムではなく、イベントというほど特別なものでもない。

ゲーム内のカレンダーで月に一度だけ、ゲーム内の通貨で利用できるサービスのようなものである。

課金アイテムを売るショップに「まじない師」を名乗るキャラクターが現れ、「友好度減少のまじない」を依頼することができるというものだった。

もっとも友好度を下げられるのは自分と攻略対象キャラだけであり、攻略対象キャラとライバルの友好度を下げることはできない。

なんとも使い道がなさそうなこのまじないは、「スチル回収のための友好度調整」というのが主な使われ方だった。

友好度は7段階に分けられており、虹の色で表されていた。

内側の色である紫が一番低く、外側の色である赤が一番高い。

そしてそのすべての段階でイベントが発生するようになっているのだが、攻略対象キャラによってイベント発生のタイミングが若干違うため、友好度が上がりすぎてうっかりイベントを飛ばしてしまうということが発生し得た。

あくまで友好度に紐づいたイベントであるため、エンディングにはそれほど影響はしない。

せいぜい攻略対象キャラからエンディングで語られる思い出が減るぐらいだ。

しかし、そのほんの僅かな影響や、スチルが埋まっていない画面の状態が許せないという層はやはりいるのだ。

そういった層がそんな事態を回避するため、わざと友好度を下げて調整していたのだ。


ちなみにこの「まじないシステム」はリリースから3か月ほど経った頃、プレイヤーの要望で追加された。

「茜」も「スチルを埋めるための周回プレイ」を経験したプレイヤーの1人であったため、このシステムが実装されたときには運営に宛てて感謝のメールを送ったものだった。


(あの頃はスチルからの再開機能も未実装で…本当に大変だったなぁ…。)


下げられない友好度と、序盤や中盤で確定する再プレイに何度絶望したことか。

そんなあれそれの記憶を思い返しながら、エルミリアは過去の日々に思いを馳せていた。


「…とにかく、まずは現物を入手してみないことには話にならんな。」

「そうですね。今話していることはあくまで憶測でしかありませんし。」


思い出に浸りかけていたところに父と兄の会話が耳に入り、エルミリアはハッとした。

今は苦行のようだったリプレイの日々に思考を飛ばしている場合ではない。

しかしかと言って、まじない師のことに関しては今の自分にもわかることが少なすぎた。


わたこいはゲームの人気に押される形で、公式から設定資料集が1冊出ていた。

もちろん「茜」も購入して隅から隅まで熟読している。

そしてそんな設定資料集にすら、まじない師のことは「とある人物と因縁がある」としか書かれていなかったのだ。

当然まじないを提供する目的もわからなければ、どんな人物なのか、普段どこにいるのかといった情報も一切出ていない。

キャラクターデザインを見る限りは黒のローブを纏い、フードで顔の上半分ほどを隠していて、輪郭や体つきから女性であろうという程度の情報しかないのだ。

キャラクターボイスが充てられているわけでもなかったので、声すらわからない。


つまり、今のエルミリアにはまじない師を探すためのヒントがほぼない状態なのである。


まじない師が現れるというショップで待ち伏せていれば、あるいはコンタクトが取れるかもしれない。

しかし現実として存在するこの世界に、店はいくらでもある。

そのすべてを虱潰しに探していくというのは時間がかかりすぎるし、現実的ではない。

そんなことをしている間に婚約破棄が実行されてしまっては、元も子もないのだ。


(まじない師に会う手段がわからない以上、今は香水を調べてみるしかないか…。)


「サンプルを手に入れるのは難しくないようですが、そちらを調べてもあまり意味はないでしょうね。」

「そうだな。」

「え?そうなんですか…?」


アンジェリーナが不思議そうに首を傾げている。

頭上にたくさんの疑問符が浮かんでいるように見えて、エルミリアは思わずくすりと笑った。


「サンプルと本人が使っていた香水がまったく同じものとは限らないでしょう?そんなに効果が強いものをみんなが使ってしまえば、すぐに騒ぎになってしまうわ。」

「それこそ、他にも婚約の解消をする者や、心変わりする者が出てくるかも知れないからね。」

「あ…そう、ですね…。」


アンジェリーナがまたしょんぼりとしてしまった。

リコリエッタを慕っている分、彼女が婚約を破棄されるらしいというショックが大きいようだ。


「サリエラ嬢が実際に使用している香水を手に入れられることが1番の理想ではありますが、それは少々リスクが高いですね。」

「その香水とやらの製造に、ルードベッヘ男爵が関与しているのかも調べなければならんな。父親が関与しているか否かによって打つ手も変わる。」

「サリエラ嬢と危険なく接触できるのは現時点ではエリーだけですが…あちらも警戒しているでしょうね。」

「さてどうしたものか…。」


そう言って父は腕を組み、しばしの間考え込んだ。

そうして組んだ腕を解いてから二度頷くと、息子の方を向いて口を開いた。


「ブライアン、お前が件の令嬢と接触しなさい。」

「………え?」


ブライアンのみならず、エルミリアもアンジェリーナも驚いて言葉が出なかった。

そんな中で母だけが、あらあらと言いながら楽し気に笑っていたのだった。


1日遅れてしまいましたが、やっとこさ更新です…。


11/28:

お兄さまの名前を間違えていたので修正しました。。

最初はクロフォードさんだったんですよ…ごめんねお兄さま…。。

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