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まずは相談することにしましょうか④


「その香水というのが魔道具のようなものだと仮定して、だ。」


思案顔のままの父が口を開く。

顎をさすりながら視線を下に向けて話すのは、考えを纏めながら話を進めるときの父の癖だ。

幼い頃から見ていたその癖が移ったらしい兄のブライアンが、唇を指でさすりながら同様に思案している。


「随分と効果が強すぎるように感じるな。」

「はい。精神操作の類は魔法でも5割程度の成功率ですが…魔道具となれば効果自体がもっと弱くなるうえに、成功率は落ちるはずです。」

「並の魔道具では、たった3日であの殿下の心を翻意させられるとは思えませんね。」


この世界での課金アイテムがどういった力で作用するのか、そこまではエルミリアも理解していなかった。

何せ今までの人生でそんなものを使う必要がなかったのだ。

ゲームの強制力という括りなのか、魔法効果を付与された魔道具としての効果なのか、はたまた別の何かなのか。

しかしそのいずれの可能性を考えても、その効果の強さには違和感があった。


「それに、嗅覚に働きかける魔道具は対象を限定しにくい。迂闊に使えば、自分の意図しない相手にも効果を与えることになるだろう。」

「アンクロフト殿下以外の方にも効いてしまうということですか…?」

「そういうことになってしまうね。」


不安そうな顔で父に問うたアンジェリーナに、ブライアンが困り顔で答える。

それを聞いたアンジェリーナが、また泣きそうな顔になっていた。

アンクロフトと同じように、婚約を解消する者が現れてしまうことを懸念したのかも知れない。

可愛い妹を慰めてあげたい気持ちはあるが、今は話を進めなければならない。


「しかし、私には効果が出ていません。」

「そうだ。そこがまた説明がつかん。」

「男性だけに効果が出るようになっている、という可能性は?」

「…それは難しいだろう。」


エルミリアが挙げた可能性を、父は一瞬思案したのちに否定した。

元々の存在意義を考えるとこれ以外にないだろうと思っていたエルミリアは、何故なのかと父を見る。

その視線を受けて、父は諭すように口を開いた。


「お前も知っているとおり、魔道具はあくまで魔法効果を付与した道具でしかない。男女で異なる効果を与える魔法というのは今まで聞いたことがないし、そんな魔法を使える術者自体がいるかもわからん。」

「皆が皆、エリーのような魔法の才に恵まれているわけではないからね。」


苦笑した兄にそう付け加えられて、エルミリアは得心した。

先の自分の発言は、ゲームのプレイヤーだったからこそ出てくる発想だ。

ゲームの世界ならば、特定の異性にしか効かない魔法も道具も「設定だから」の一言で片付いてしまう。

しかしここは「ゲームの世界が現実になった世界」というべき場所だ。

たとえご都合主義であろうとも、ゲームの設定を現実の世界での理とするためのしきたりやルールが存在する。

香水の実際の効果がどうであれ、「男性だけに効果がある魔道具」などという存在を正当化するための何かがなければ、この世界の人たちはそれを認められないのだ。

そしてそれを認めさせるための手段を、今のエルミリアは持っていない。


「…申し訳ありません。考えが浅はかでした。」

「いや、謝ることはない。難しいとは言ったが、可能性がないわけではないのだ。」


しかしそうすると、尚のことエルミリアに香水が効かなかった理由が説明できなくなってしまった。

香水は男女問わず友好度を上げられるアイテムだったはずだ。

ゲームの中とこの世界とでは効果対象が変わってしまったのではないかと考えたのだが、それが違うのだろうか。

「アンクロフトに効いた」のか、「エルミリアに効かなかった」のか。

後者の場合、考えられる要因は何なのか。


(性別か魔法耐性か…でも今の時点じゃ他の人に効くのかもわからないし…。)


家族とは違うことで必死に頭を働かせていると、先ほどから話の聞き役にまわっていた母がおもむろに口を開いた。


「エリー。リコリーに会ったときのことを、もう一度よく思い出してごらんなさい。」

「え…?」

「何か、あなただけに渡されたものや、かけられた言葉はなかった?」


問われて思い返す。

会話のほとんどが普段と同じ、たわいもない雑談だった。

討伐に向かう場所、予想される魔物の種類、帰還予定日、新兵を率いて行くことを話して、そして。


「…あ。」


そして思い出した。

すぐに左手に嵌めている愛用のブレスレットを探査魔法で探ってみると、ほのかに加護の力が宿っているのが確認できた。

これが香水が「エルミリアに効かなかった」理由だろう。

エルミリアの反応を見て、同じようにブレスレットを探査魔法で確認したらしい母がにこりと微笑んだ。


「状態異常無効化の加護がかかっているようね。ブレスレットそのものは以前から付けていたと思うけれど…。」

「はい。これは恐らく、出立の前日にかけられたものだと。」


出現すると予想される魔物の傾向として、睡眠や麻痺、混乱などの状態異常攻撃が多いという話をしていたのだ。

それを聞いたリコリエッタはブレスレットを嵌めているエルミリアの左手を取り、「クロエ様のご加護を」と祈りを込めてくれた。

普通であればそれはただの祈りであり、単純な「願い」だ。

しかしリコリエッタは光属性魔法の使い手であり、防御・補助系魔法において国内では右に出る者はいないほどの力の持ち主でもある。

その祈りが加護の力となって、エルミリアを護っていたのだろう。

もっとも、当のリコリエッタにそんなつもりはなかったのだろうが。


「…なるほど。これでエルミリアが件の魔道具の影響を受けなかった理由は説明がつくな。」

「となるとこの場合、その魔道具は対象を限定しないと考えた方が良さそうですね。」


うむ、と父が頷いた。

これに関してはエルミリアも同感だ。

1つの疑問が解けたことで、話題は最初の疑問に立ち返る。


「しかし…やはり効果が強すぎる。これだけはどうにも解せん。」


そうしてまた、皆が考え込んでしまった。

エルミリアも口元に手をあてて小さく唸りながら考える。

やはり、しっくり来ないのだ。

香水の存在を出してはみたものの、それが婚約破棄を言い出した原因だとするにはどうにも納得がいかない。

父も言ったように、不特定多数に効果が出てしまいかねないアイテムがそんなに強い効果を持つものだろうか。


エルミリアが知っている香水の効果はあくまで友好度を上げるだけであり、攻略対象キャラとライバルの友好度を下げるような効果はない。

仮にサリエラとの友好度を強制的に上げられていたとしても、それがリコリエッタとの婚約を破棄するという思考に至るようなことにはならないはずなのだ。

そうでなければ、ゲームのコンセプトである「友情と恋の両立」ができなくなってしまう。


(香水だけじゃ説明できないことが多すぎる…。)


今のアンクロフトとリコリエッタの状態をゲーム風に表すのであれば、「ライバルと攻略対象キャラの友好度が下がっている」という状態だ。

何かそんな状態に陥るイベントかアイテムがあっただろうかと、エルミリアが前世の記憶を一生懸命探りながら思考していると、母がぽつりと呟いた。


「魔法というより、なんだか呪いのようね。」


その言葉を聞いてエルミリアはハッとした。


(そうだ、まじない師!)


そんな方法があったことを思い出したのだ。



遅くなりました。。

次回は少し空いて、来週の日曜日の予定です。

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