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思わぬ情報を得られそうな予感がしますね!①


ご機嫌斜めな侵入者を前にして、エルミリアには動揺も焦りもなかった。

接触が2回目ということもあるが、目の前の相手から怒気は感じても殺気は感じないからだ。

とは言え、理不尽に怒られてやる気もなかった。


「『何を吹き込んだ』って…何も吹き込んではいないわよ。そもそも彼女とは接触すらしていないのだから。」

「嘘を吐くな。あの女の部屋に侵入阻害の結界が張られているだろう。」

「…はぁ!?」


なぜ自分がサリエラの部屋に結界なんて張らなければならないのか。

調査の過程でルードベッヘ男爵の住居を把握しているのは勿論だが、そこに乗り込んで話をするつもりなど毛頭ないのだ。

そのうえわざわざ結界を張ってやる理由など、あろうはずもない。


「ちょっと待ってちょうだい。なぜ私が彼女の部屋に結界を張るなんて思っているの?」

「俺から遠ざけるためだろう。」

「そんな理由でわざわざ結界なんて張らないわよ。そもそも私が張れるものは戦闘特化だから、効力もそんなに続かな……ん?」


そこまで話して、はたと言葉を止める。

フェストラーダが突破できない結界、このタイミングでの苦言。

もしや目の前の相手が指す『あの女』とは、自分が頭に浮かべている人物とは違うのではないだろうか。

相変わらず不機嫌そうな顔のまま、腕組みをして自分を見据えてくる目を見つめ返してエルミリアは口を開く。


「ねえ、あなたが言っている『あの女』って、もしかしてサリエラ…男爵家の娘のことかしら?」


問うたとほぼ同時に、フェストラーダはその眉間に深い皺を刻んだ。

これはどうやら大はずれのようだ。

友達のように仲が良くなくても一発でわかってしまうほどの「何を言っているんだこいつは」感を感じる。


「なぜ俺が、あんな女のことを話に出すと思っている。」


先ほどよりも怒気が強くなったが、今回の行き違いに関してはどっちもどっちではないのか。

と言うか、対象をはっきりさせていなかった向こうに9割ほどの非があるとすら思うのだが。

そこを指摘するとまた要らぬ諍いが起きて話が脱線する予感しかしない。

モヤモヤしたものを抱えつつも「ここはこちらが大人になろう」と自分に言い聞かせて、エルミリアは話を進めることを選んだ。


「ではフェランドル公爵令嬢のことかしら?」

「当たり前だ!」


(当たり前ではなくない…?)


社会人として働いていた前世ですら、こんな理不尽なクレーマーに出会ったことはない。

が、クレームの初期対応における鉄則は共感して相手を宥めることだ。

「取り敢えず、うんうん頷いて親身になって怒りを鎮めろ。相手が人語を話すようになってからが話のスタートだ。」と先輩にも教わった、気がする。


「そう、悪かったわね。あなたが『あの女』と呼ぶ相手の、心当たりの筆頭があの男爵家の娘だったものだから。」

「あんな女にもう用はない。利用価値のない性悪など邪魔なだけだ。」

「…なかなか辛辣なことを言うわね。」


あまりにもはっきりとサリエラを切り捨てる言葉を吐くものだから、エルミリアは同意して良いやら驚いて良いやら憐れんで良いやらだ。

今のフェストラーダの言葉をそのまま受け取るのなら、今後サリエラに肩入れするつもりはないということになる。

つまり、不要な妨害が一つ減るということだ。


(ミスリード…でもないかな。本心でもう要らないって思ってそう。)


「まぁいいわ。私には彼女と積極的に関わる気はないし。…で、フェランドル公爵令嬢の結界の話だけど…あなたなら結界なんてすり抜けられるのではないの?」


現に今こうして侵入してきているだろうに、と言外に滲ませると、フェストラーダが再び眉間に深い皺を刻む。

なぜそんな反応をされるのだろうか。


「…喧嘩を売っているのか?」

「なんで!?だってあなた、まさに我が家の結界を抜けて私の目の前にいるじゃない!?」


さらに膨らんだ怒気に、さすがに少々慌てる。

多少の攻撃を受けたとてエルミリア本人は大丈夫だろうが、家を吹っ飛ばされでもしたらたまったものではない。

そうすると、エルミリアが本気で先の言葉を言っていることを理解したらしいフェストラーダが逆に困惑した表情になった。


「…待て。まさか貴様、こんなハリボテ同然の結界もどきで俺の侵入を防げると思っていたのか?」

「ハリボテ同然の結界もどき…!?我が国最高峰の結界師が張った結界を指して、なんたる暴言…!」


なんだか自分が知らない新情報が得られる予感がする。

そう感じたエルミリアが少し大袈裟なぐらいに驚いてみせると、それを見たフェストラーダが更に驚愕したようだった。

なぜなのか。

驚愕の後、どこか呆れたような顔をしたフェストラーダが「くそっ…」と悪態をつきながら頭を掻いている。

まるでこちらが全面的に悪いような反応をされるのは、なかなか心外である。


「はぁ…この家に張ってある結界とやらは、属性がないんだ。」

「属性って、6属性のことかしら?結界魔法はどの属性にも分類されないというのが、私たちの間での定説なのだけど。それに、王都を護る結界を魔物がすり抜けてくることだって稀なのよ。きちんと機能していると考えるのが普通だわ。」

「その国を護る結界とやらをすり抜けてくる魔物がいるだろう。」

「確かにそうだけど…でもそう多いわけではないわ。」

「…あの女が張る結界では、同じことは起こらないだろう。」

「それは…確かにそう聞いているけれど…。」


それが属性の有無だと言うのだろうか。

転移魔法と同様に、原理が完全に解明されていない魔法は多くある。

この話もそういったところに関わってくる内容なのかも知れない。

リコリエッタが張る結界が特別強力で、フェストラーダですら突破できないものである理由ー。


「あの女が張る結界は、光属性の最上位のものだ。」


(なるほど…合点がいったわ。)

 

やはり、リコリエッタは特別なのだ。




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