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調査を行っていただきましょう。②


エルミリアの自室の調査を終え、一同は応接室に移っていた。

あれ以上は部屋の内外の調査で得られる情報が無さそうだと判断したのも理由だが、今日の第二の目的を果たすためでもある。

メイドが飲み物とお茶請けを出し、下がったところでエルミリアは遮音の魔法を使った。

この遮音魔法は薄い真空の膜を周囲に張ることで、膜の内外で音を干渉させないという原理だ。

屋外の使用であれば範囲を広く取ることが可能だが、室内となると膜の内側に留められる空気量に限界があるため、手早く話を済ませる必要がある。


「時間が限られるゆえ、単刀直入に伺おう。アンクロフト殿下のご様子はいかがだろうか?」


これこそが今日、アルフレッドを邸に招いた2つ目の目的である。


「順調に回復しておられます。じきに私の手も必要なくなるかと。」

「…此度の件について、殿下は何か?」

「魅了魔法の影響でしょうが、記憶があまり定かではないご様子です。ただ、婚約者さまに謝らねばならない、とだけ。それ以上のお話は私の分にふさわしくありませんので、お聞きしておりません。…摂取した食物にかけられていた魅了魔法はすべて排出しきれたと考えています。」

「そうか…それだけでも朗報だ。両陛下もさぞかしお喜びのことだろう。この短期で素晴らしい成果だ、アルフレッド殿。」

「いえ。私は、私に与えられた役割を全うしただけですので。」


言葉だけだと淡々としているように思える返答だが、アルフレッドの口元には僅かに笑みが浮かんでいる。

彼もまた、アンクロフトが回復したことに安堵しているのだろう。

リコリエッタとのことに一切言及することなく、必要な情報を簡潔に報告してくれるところも好ましいところだ。


「では、魅了魔法をかけた者についての調査はどうだろうか。」

「…」


問われたアルフレッドが一瞬だけ逡巡した様子を、エルミリアは見逃さなかった。

恐らくだが、フェストラーダの正体を推察した時と同じ懸念をしているのだろう。

ここはこちらが持っている情報を少し提供することで、軽い助け舟を出した方が良いかも知らない。

エルミリアが父に視線で許可を求めると、意図を察した父が同じように視線で許可をくれた。


「アルフレッドさま。私は、アンクロフト殿下に魅了魔法をかけた者は、私の部屋に侵入してきた者と同じではないかと考えているのです。」


あえて自分の考えだと前置いたのは、フェストラーダと直接対峙したのがエルミリアだけだからだ。

たとえ身内であろうと、娘の考えすべてを鵜呑みにするような家だと思われるようなことをするわけにはいかない。


「ナイトリアス侯爵令嬢は、」

「私のことはどうかエルミリアとお呼びください。サーフェスト卿から全幅の信頼を置かれている結界師さまにそのように改まれると、落ち着かなくなってしまいます。」


にこりと笑って、自身の雰囲気を和らげる。

「ナイトリアス侯爵家のエルミリア」の名は、エルミリア本人が思っている以上に周りに威圧感を与えるらしいからだ。


(まぁ単騎であれこれ討伐したなんて話が出回ってればそうなるでしょうけど…。)


いくつか尾鰭がついて回った噂もあったのだが、牽制になってちょうどいいだろうと好きにさせておいたものもある。

国防とはいろんな面からのアプローチがあるものだ。


「では、エルミリアさまと。」

「はい。」

「エルミリアさまがそうお考えになった理由をお伺いしても?」


さて、ここは少し慎重に話をしなければならない。

ナイトリアス家からすればこれは「フェストラーダが言っていたことが本当か」の答え合わせなのだが、アルフレッドにとってはそうではない。

疑義を持たれるような回答をするわけにはいかないのだ。


「正直に言ってしまいますと、根拠と言えるほど確かなものはないのです。状況証拠という言い方が近いかと思いますが…殿下を害そうとするには王城への侵入は必須。ですが、王城に張られている結界はサーフェスト卿と指折りの結界師さま方が施されたかなり強固なもの。我が家に張られた結界もそれに近い強さを持っているとお聞きしておりますので…それを掻い潜れる者が2人もいては堪らない、というのが同一人物ではと考えた理由です。」


願望に近いですね、といささか自嘲めいて足すと、アルフレッドはどうやら信用してくれたようだった。


「私も、エルミリアさまと同じように考えております。魔力の波長には個人差があります。魔物も同様に波長に個体差がありますが、その波長が類似していました。」


調査や探知能力に秀でている者がここまで言うのであれば、ほぼ断定したと言ってしまってもいいだろう。

ナイトリアス侯爵は納得した様子で頷く。


「この件は、急ぎ王家に報告せねばならんな。アルフレッド殿、報告の際には同行を頼めるだろうか。」

「勿論です。この身は国に仕えるためにありますゆえ。」


同意を得られたところで、ナイトリアス侯爵はエルミリアに向かって軽く頷いた。

遮音魔法を解除しても良いという合図だ。

返事の代わりにコクリと頷いてから魔法を解除する。


それほど長時間遮っていたわけではないのだが、なんとなく空気が新鮮に感じるのは心情によるものもあるのかもしれない。




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