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調査を行っていただきましょう。①


フェストラーダによる突然の訪問を受けてから2日後、ナイトリアス家の邸宅には珍しい客人が来ていた。


「お初にお目にかかります、ナイトリアス侯爵。私はワグナー子爵家が次男、アルフレッドと申します。どうかお見知りおきを。」

「ようこそ、我がナイトリアス家へ。君の優秀さは方々から聞いている。」

「勿体無いお言葉ですが、私など我が兄に比べれば未だ遠く及びません。」

「随分と謙虚だ。アルフレッド殿と呼んでも良いだろうか。」

「勿論です、ナイトリアス侯爵。」


アルフレッド・ルート・ワグナーは結界師として塔に所属しており、あまり社交の場には姿を現さない。

それ故、貴族の家を訪問する機会が少ないというのはそこそこ知られた話だ。

そんなアルフレッドが何故ナイトリアス侯爵家を訪れたのかというと、ナイトリアス家に張られている結界魔法が綻んだりしていないかの確認、ようは点検だ。

塔の責任者であるサーフェスト卿が施した結界は強固であるが、そのぶん修復や修繕も難しい。

相応の実力を持つものでなければ、修繕すらもできないのだ。

が、これは勿論表向きの理由である。


「早速ですが、賊が侵入したというご令嬢のお部屋を拝見しても良いでしょうか。魔力残渣がまだあれば、転移先を追えるやも知れませんので。」

「あぁ、お願いしよう。」


1つ目の目的はフェストラーダの魔力残渣の調査だ。

もし、かの侵入者が魔力の痕跡をすべて消し去っていなければ、その痕跡から転移先を追跡できる可能性がある。

エルミリアができれば良かったのだが、生憎とこの手の魔法は少々不得手であり、尚且つ勝手に相手の懐に飛び込んでいきそうな娘を危うく思った父により、アルフレッドの来訪が設定されたという経緯がある。


侯爵直々にエルミリアの部屋にアルフレッドを案内する。

使用人たちには夕方までエルミリアの部屋やその周辺に近づかないよう通達してあるため、人の気配はない。


「侵入者が立っていたのはこの辺りです。」

「…そのようですね。」


父とアルフレッドに続いて自室に入ったエルミリアが、フェストラーダが現れた辺りを指すと、アルフレッドが目を細めた。


(場所を指す前からこの辺りを見てたわね。既に気配を探ってる…設定上のことは知ってはいるけど、やっぱり優秀なんだわ。)


アルフレッドが集中を始めた気配があったので、エルミリアはそれ以上話すのをやめた。

父もまた同様に、アルフレッドの動向を見守っているだけだ。

その時間は僅か数十秒ほどだっただろうか。

不意にアルフレッドが、その視線をベッドサイドにあるチェストへと移した。

そしてすぐに、天井の方へ顔を向ける。


(あそこにも反応した…もう『中身』は入っていないのに…。)


アルフレッドが視線を向けたのは、夢の中で渡されたと思われる件の逆鱗が入っていたチェストだ。

アルフレッドへ来訪を依頼することが決まったときすぐに魔力遮断用の器に移しておいたので、そこに"物"がなくなってから丸1日以上経っているというのに、凄まじい探知能力だ。


「…魔力残渣はありますが…追わせる気はないようですね。」


集中を解いたアルフレッドはいささか険しい顔でそう言った。

痕跡は残しているのに追わせる気がないとはどういうことだろうか。

ナイトリアス侯爵が先を促すようにアルフレッドを見つめる。


「転移先はこの邸の屋根上のようです。おそらくそこから先も、それほど長くない距離で複数回転移を繰り返したのではないかと。」

「そんなことが可能なのか…。」

「相応の魔力が必要です。…とてもではないが、人間業とは思えません。」

「…エルミリア。」

「はい、お父さま。」

「万全の状態のお前の魔力量で、転移魔法は何回使えるかわかるかい?」

「正確に検証したことはありませんが…中距離程度の移動であれば、1日に5回の使用でやや疲労感を感じます。魔力ポーションで回復すればその後も転移そのものは出来ますが、座標の固定に相応の時間を要するようになるかと。」

「いずれにしてもハイリスクということだな。…その状態で、転移魔法を繰り返して逃げる相手を追うことは?」

「少々難しいかと。」

「ふむ。」


エルミリアの回答を聞いたアルフレッドが驚きに目を見開いているようだったが、敢えて気付かなかったことにした。

ナイトリアス侯爵家では、こんな常人離れした会話はいつものことなのである。

そもそも、アルフレッドとて十分に常人離れした才人の部類に入る人間なのだ。


「…ご令嬢が追わなかった判断はご賢明です。待つ側はある程度の座標を予測できますから、不意打ちを受けやすい。」

「アルフレッド殿の言うとおりだな。良いタイミングでお前を呼びに行った侍女に褒賞を出すべきか。」


もしや、侍女が来なければ追いかけて行っていたと思われているのだろうか。

いくらなんでもそんな誘いには乗らなかったはずである。…多分。


「他に何か気づきはあるだろうか?」


ナイトリアス侯爵がアルフレッドに尋ねたので、エルミリアはほんの少し期待しながら回答を待つ。

魔力残渣の調査の過程で、アルフレッドが相手の正体にいくらか近づくかもしれないということを父娘で話していたのだ。

転移先の特定も早かったうえ、逆鱗が仕舞い込まれていたチェストにも反応した彼ならば、何かに気づくかもしれない。

アルフレッドは一度何かを言いかけてやめた。

確証のないことを話すのに躊躇いがあるのかもしれない。


「なんでも構わないのだ。懸念でも、確証のない予測でも。家人以外の観点での気づきや考えを聞きたい。」

「…本当に、確証のないことなのですが。」


ナイトリアス侯爵に促されたアルフレッドが口を開く。

さて、どんな言葉が出てくるだろうかとエルミリアは更に期待した。


「…魔力残渣から見て、魔物の類であることは疑いようがないかと。ただ…残渣の中に僅かですが瘴気が混ざっておりました。膨大な魔力量と瘴気、これらの要素を併せ持つ魔物となると…」


その先に出る言葉がなんなのか、エルミリアは瞬時に予想がついてしまった。

つい、眉間に皺が寄る。

それは父であるナイトリアス侯爵も同じようだった。


「…ヤツなのか?」

「…今推測できる範囲では、ですが。」


アルフレッドが一度言葉を区切り、一呼吸置く。

この名を口にすることなど、そうそうないと思っていたのだが。


「かの侵入者は、ラフェイアに連なる者かもしれません。」


それは、絶望を意味する名だった。



大変お久しぶりの更新となりました。。。

少しずつですが書いてはいましたので…!

ただちょっと贔屓にしている作家さんが新作の長文小説を出してらっしゃったので、そちらを読み込んでおり……とても楽しかったです()

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