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思っていたより大ごとになりました、どうしましょう。④



「そう考えるのが妥当だろうと思っている。」


そう答える父の顔は、なんとも言えない複雑な表情をしていた。


クロエ・アルストゥス・フォルテリアは、フォルテリア王国において建国の祖として讃えられる女傑だ。

今から400年前、現在のフォルテリア王国を含む辺り一帯を支配し、瘴気を撒き散らしていた魔物「ラフェイア」を討伐し、この地に平穏をもたらして国を興した。

彼女は剣と魔法において類稀なる才に恵まれ、単騎でラフェイアを斃したとされている。

そんなクロエの名は当然のように今の世では伝説となり、フォルテリアにおいては高位貴族の子女ですらその名をつけることを許されていない。

それが認められていたのは、彼女の直系の子孫である王家の子女だけで、尚且つ厳しい条件付きだったのだ。

そんな絶対のルールを覆し、特例として名前の使用を認められ、国から名を贈られたのがエルミリアだ。

フォルテリア王国において「クロエの名を賜る」ことはすなわち「絶対的強者」である証であり、同時に「国に縛られる」ことを指すものでもある。

言ってしまえば「畏れ」の象徴でもあり、「(くさび)」でもある名だ。

しかし一方的に縛るばかりでは不満を募らせ、その強者の力を以て叛逆を起こされる恐れも少なからずある。

そこでエルミリアに利点のある「特例」を付加し、忠義を尽くす代わりにエルミリアの権利を保証し、自由を認めてはどうかということを当時の宰相が助言したらしい。

不安を口にする貴族諸侯を安心させるためのものではあるが、同時に謀反の冤罪を被せることによってナイトリアス侯爵家を追い落とそうなどと考える命知らずに対する牽制でもあったのだろう。

実際、この特例が結ばれた翌年にはエルミリアへの婚約の申込みが激増したという。

追い落とせないのならば身内として潜り込もうとでも目論んだ輩が多かったのだろうと、呆れたように父が教えてくれたものだ。

そしてその数多ある申込みの中から、「特例」を利用してエルミリア自身が選んだのがリチャードだった。

余談だが、本来であれば「特例」よりも「特権」を与えられるものなのだろうが、エルミリア本人がこれを固辞したため、妥協案として「特例」が付加されたという経緯がある。


(元々のエルミリアのミドルネームが「フィル」だったことは設定集の中にあった小ネタ特集で書いてあったけど、こっちではきちんとした理由で変わってたから感心したんだよね…。設定集には『なんか語感的なところで(笑)』とか緩いこと書いてあったし…)


「クロエ様に対する執着があるということでしょうか…」

「私がクロエ様の御名(みな)を名乗ることに反感があるといった可能性もありますよね。」

「…こればかりは本人に聞かねばわからんだろうな。」


やれやれといった表情で父が首を振る。

考えたところで意味がないことだ、ということだろう。

この事についての問答はあまりする気がないようだった。


「リコリエッタには、護衛の同室が不可能な場では常に光魔法での結界を張るように伝えておいてもらおう。エルミリア、すぐに頼めるか。」

「承知しました。」


早馬を使うより転移魔法を使うより、エルミリアの伝信魔法を使う方が確実であり、且つ早い。

エルミリアは父の指示に承諾の返事をすると、その場ですぐに連絡をとり始める。


(この時間なら、だいたい自室で休んでいるか妃教育に関する勉強をしているはず…。)


リコリエッタにはエルミリアからの伝信魔法を受けるため、エルミリア手製の魔道具であるイヤリングを常に身につけてもらっている。

魔道具に照準を合わせて伝信魔法を発動させるとすぐに魔力の回路が繋がった気配がしたので、エルミリアはすぐに話し出した。


「リコリー?今大丈夫かしら?」

『エリー?大丈夫だけれど、どうしたの?』

「詳しくは後日叔父さまからご説明があると思うのだけど、お願いがあるの。」

『なにかしら?』

「護衛が同室にいない場では常に、光魔法で結界を張っておいてほしいの。」

『…わかったわ、すぐにやりましょう。』

「ありがとう。用件だけでごめんなさいね。またアンジーと一緒に、美味しいお菓子を持ってお屋敷に伺うわ。」

『えぇ、楽しみにしているわ。…おやすみなさい。』

「おやすみなさい、良い夢を。」


通話を終えたところで、父がひとつ頷く。

明日にでもフェランドル公爵に宛てて説明のための手紙を出してくれることだろう。


(リコリエッタもなんとなく察してるっぽかったし、あの感じなら強めの結界を張っておいてくれるかな。)


普段ならばあんなにも唐突に本題に入るような不躾な話し方を、エルミリアはしない。

それを知っているからこそ、エルミリアの常とは違う行動に何某かの意図があるとリコリエッタは理解し、すんなりと承諾してくれたのだろう。

自分の周りには本当に察する能力の高い人間が多いものだと感心する。

そして同時に、そんな人たちを敵に回さずにいられることを幸運にも思う。


「これでひとまずは安心だな。エルミリアは、先の約束を守るように。」

「う…はい。」


少しバツが悪そうに返事をした姿を、ブライアンにくすりと笑われる。

兄は兄で心配をしてくれていたのだろう。


(それなりの時間私の近くにいるけど、アンジーが()()()()()()様子もないし…気配程度なら大丈夫そうね。)


嬉々として報告したことから端を発し、ちょっとしたお咎めを受けて始まった家族会議は、比較的穏やかに幕を閉じたのだった。




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