思っていたより大ごとになりました、どうしましょう。①
フェストラーダが去った後、エルミリアは「これでコソコソせずに堂々とお父さまたちに相談できるわ!」とルンルン気分だった。
思いがけず真相に一歩近づくことができた喜びで、彼女はいろんなことを失念していたのだ。
「転移魔法を発動までのインターバルの制限なく使える者」がこの国では片手で数えて余る人数しかいないことも、屋敷に張ってある侵入阻害と検知を兼ねた結界魔法を侵入者があっさりすり抜けて入ってしまってきていたことも、その結界を張ったのが『塔』の責任者であるサーフェスト卿だと言うことも。
そんな重大なことをすっかり忘れていたエルミリアがうっかり、
『自室に転移魔法で侵入してきた者がいた。話を聞いてみたところ件の香水の製作者だった。目的はリコリエッタを王家の一員に加えさせないことらしい。サリエラに協力するのは恐らく利害の一致という程度なので、彼女に利用価値がなくなったとわかればそれ以上協力する可能性は低いと思う。(要約)』
というようなことを兄に報告してしまったため、話を聞いて驚いた兄がすぐさま父に知らせを送り、その日の晩に家族会議が開かれることになった。
(お父さま…今日明日は領地での大事な仕事があって戻らないはずだったのに…!)
エルミリアが、家族で過ごす時間を少しでも増やしたいと望む両親のために制作した固定型転移魔法装置が見事に仇になった。
余談だが、この装置を使って賊が入り込んでくるなどといった事態を防ぐためにサーフェスト卿に結界を依頼したという経緯がある。
結界を張った際には、ナイトリアス家とナイトリアス家が認めた者しか結界を通過出来ないよう入念な検証が実施されていた。
それをすり抜けて侵入してきてしまったというのだから、父と兄が焦るのははっきり言って当たり前のことなのである。
「ではエルミリア、話を聞こうか。」
そう切り出されてエルミリアは自然と背筋が伸びた。
自分が悪いことをしたわけではないにも関わらず、なぜこんなにも緊張した状態で臨まねばならないのだろうか。
ある意味自業自得ではあるのだが、エルミリアの心の声に指摘をするものなど誰もいない。
「えぇと…どこからお話しすれば…。」
「そうだな…では侵入者が接触してきたところからにしようか。何故屋敷の者を呼ばなかったのか。」
「それは、無闇に人を呼ぶ方が却って危険だと思いましたので…。」
「それはわかる。だがお前には、声や音を使わずとも報せる手段があるはずだ。」
それを言われてしまうとどうにもならない。
そもそもこの件については、最初にフェストラーダが接触してきた時点で家族からの追及を受けることは不可避だったのだ。
母に至ってはエルミリアの行動を尊重して追求せずにいてくれただけで、最初の接触の時点で気づかれていた可能性すらある。
あまりにも敏すぎる家族相手に、エルミリアはあっさりと初手で詰んでしまっていたのだ。
「…申し訳ありません。人を呼ぶことで取り逃すと思い…せめて事の確証に関わる部分だけでも聞き出しておきたいと思いまして…。」
「理解はするが、褒めることはできんぞ。お前は確かにこの国において指折りの手練れだが、その前に私たちの大切な娘なのだ。連携を組める普段の討伐とは違う。」
「はい…申し訳ありませんでした。」
父としての心配を口にされてしまうと、エルミリアには謝る以外の道がなかった。
父の懸念は尤もだ。
フェストラーダが友好的な態度であったからこそエルミリアは人を呼ばないという選択をしたが、何かの折に相手の逆鱗に触れて被害を受けた可能性は否定できないのだ。
もしそうなってしまっていたら屋敷の者たちは勿論、周囲の人々をも危険な目に合わせていたかもしれない。
当然のことだが、相手が自分に好意的だからと言って、自分の周囲に対しても同様に好意的なわけではないのだ。
ここについては危険予知が足りていなかったと、心底反省せざるを得ない。
目に見えて肩を落としてしまったエルミリアを見て、アンジェリーナがおろおろとした様子で父と母を交互に見やる。
その目は「これ以上お姉さまを叱らないであげてください」と切に訴えていた。
そんなことをされてしまうと、父はもうそれ以上エルミリアを咎めることはできなかった。
尤も、先の言葉は自分も庇護されるべき「子ども」であることを忘れてしまっている様子の娘に釘を刺すための言葉だったので、これ以上叱るようなことをするつもりもなかったのだが。
父は苦笑いを浮かべると、アンジェリーナに向けてひとつ頷いた。
「お前が焦ってしまう気持ちもわかるからな。反省してくれるのであればそれでいい。」
「はい。次にこのようなことがあった時は、1人で対峙することは避けます。」
「あぁ、そうしてくれ。…さて、ここからが本題だ。」
「はい。」
「その侵入者…フェストラーダと言ったか。その者がお前に接触してきた理由はわかったのかい?」
「いいえ、それについてはわからないままでした。何かを要求してくるわけでもありませんでしたし…。」
フェストラーダがエルミリアに接触してきた目的は結局のところわかっていない。
攻撃を仕掛けてくるわけでもなければ交渉を切り出してくるわけでもなく、はたまた何かの要求をしてくるわけでもない。
今の時点でしていることといえば、簡素すぎる自己紹介と簡単な質疑応答といったところか。
「ふむ…となると尚のこと、リコリエッタを王家に入れたくないというのが気になるな…。」
「殿下に差し向けたのが男爵家の娘ということもありますし、政治的な介入を狙っているようには思いませんが…やはり結界が目的でしょうか。」
「その可能性もあるが……。」
珍しく歯切れ悪く話す父を見て、エルミリアは不思議に思った。
父のこの話し方は「話さなければいけないが正直気が進まない」ときのものだ。
そんなに言いにくい事情があるのだろうか。
自然とエルミリアも身構える。
少し言い淀んだ末に、父が重たい口を開いた。
「今から話すことは、決して他言しないように。」
「はい。」
兄妹みなが頷いたのを確認してから、父は続けた。
「実はリコリエッタは、幼い頃に龍族の者に見初められた可能性があるのだ。」
「………え!?」
キャラの台詞を覚えるほどやり込み、設定資料集まで読み込んだゲームの、そんな裏設定は初耳だった。




