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レディの部屋に勝手に入ってくるのは無粋ですよ。③


あの時アンジェリーナは「憎悪と怨嗟をまとった悪意」と言っていた。

一連の婚約破棄騒動のバックにサリエラがいる以上、それはリコリエッタに向けられた逆恨みのようなものだとエルミリアは思っていたのだ。

しかし先ほどのフェストラーダとのやり取りで、その線ははずれなのかも知れないと考え始めていた。

アンジェリーナの精神に干渉するほどの憎悪と怨嗟を向けられている本当の相手は、一体誰なのだろうか。


(可能性の高さで言うなら殿下だけど…王家の方全員という可能性もある。ううん、下手したら同族であるラフェイアを打ち斃したクロエ様を恨んでる可能性だって…。)


「しかし、あの呪いはもう解いたのだろう。」


記憶の回想から思考の海に耽りかけていたエルミリアを、フェストラーダの言葉が遮る。

フェストラーダの呪いは解呪しただけであり、呪詛返しを行ったわけではないので術者本人に知れるかどうかはわからないということだったが、どうやら知っているらしい。


「やはり気づいていたのね。」

「当然だ。自分がかけた呪いが生きているのかぐらい近寄らずともわかる。さして強いものをかけたわけでもないからな。」


(強いものじゃない、ね…。人間にとっては呪詛返しの『返し』を心配するぐらいには強いものだったと思うんだけど…。)


かけた本人に言わせればそうなのだろう。

しかしこういった類のものは解呪に手間取りがちになるものだ。

例えて言うなれば、入力桁数もわかっていない暗証番号を1から順番に、桁数をどんどん増やしながらすべて打ち込んで解錠しようとするようなものなのだから。

呪いの強さがわからないというのは解呪する側にとってなかなか致命的な情報欠落なのだが、そういったことも「瑣末なこと」といったところなのだろうか。


(これだから規格外の力を持つ相手はやりにくいんだよね。自分がどれだけ突出した力を持ってるのかってことを自覚してないんだから…。)


今の心の声をもしエルミリアの婚約者であるリチャードが聞いていたならば、間違いなく「その言葉、君にだけは言われたくないと思うよ」と笑顔で突っ込まれていたことだろう。


「あなたがかけた『呪い』というのは、対象を限定するものなのかしら?」

「そうだ。あの男以外には興味がないと喚いて煩かったからな。」

「私たちが行う魔道具の付与は対象を限定するための媒体が必要になるのだけど、あなたの呪いはどうなの?」

「…それは探りを入れているつもりなのか?」


あまりにも呪いについてぐいぐいと聞いてくるエルミリアの姿勢に、フェストラーダはやや圧倒されているようだった。

つい先ほどまで明確に「駆け引き」をしていた相手が突然質問責めを始めたので、それも含めた駆け引きの一環なのかと問うたのだろう。


「いいえ?これは私の知的好奇心からの質問よ。人が作る魔道具は元々、古に魔物によって呪いをかけられたアイテムを模したものが始まりだと言われているの。」

「…ほう。」

「けれど私たち人では魔物が使う『呪い』というものがどうしても真似できなくて、試行錯誤の結果生み出されたのが魔法付与という手法で効果を持たせた魔道具なの。」

「………ふむ。」

「魔道具も作られ始めた当初は筋力の増強や魔力増幅、魔物から身を守るための加護といったものが主で、どちらかと言うと戦闘に特化したものが多かったらしいわ。けれどそれを、日常生活をもっと豊かにするために役立てられないかとお考えになったのが5代目国王であらせられたオルム様で…」

「………………。」

「今や魔道具はいかに生活を豊かにするかに重きを置いて作られるようになったから、貴族だけではなく一般国民からの要望を聞く機会が年に1度設けられているの。自分たちの要望を伝えることができるとあって毎年それはそれは賑わって」

「もういい。」


まるで目の前の存在を忘れたかのような状態で話し続けるエルミリアの言葉を遮って話を強制終了させたフェストラーダは、いささか不満そうな顔をしていた。


「あら、つれない。で、媒体は必要なの?」

「そんなものは不要だ。…帰る。」


嫌そうな顔をしながらも律儀に答えてくれるのは性分なのだろうか。

案外真面目なのかもしれない。

しかしエルミリアとて、何もただの雑談として魔道具の成り立ちを長々と話していたわけではない。


(そろそろタイムリミットみたいだから平和的にお帰り願おうと思ったんだけど、ちょっとやりすぎたかな?)


鬱陶しいとは思われただろうがおそらく嫌われてまではいないだろうと自己完結すると、エルミリアは転移魔法陣を発動させたフェストラーダに向かって声をかける。

伝えておくべきことがあったのをすっかり伝えそびれていたのだ。


「ねえ、最後にこれだけは伝えておきたいのだけれど。」


去ろうとしていたフェストラーダが「まだ何かあるのか」と言いたげな顔でこちらを見やる。

いささか臍を曲げてしまった様子の相手を気にすることもなく、エルミリアはにんまりと笑って続けた。


「レディの部屋に許可もなく勝手に入ってくるのは、無粋というものよ。」


言われた言葉が予想外のものだったらしいフェストラーダが面食らったような顔をしているのを見て、エルミリアはつい吹き出してしまった。

まさか、そんな間の抜けた顔を見られようとは。


「ふふっ…やっとあなたのおすまし顔が崩れたわね。」

「…お前がレディというタマか?」

「失礼ね。私だって年頃の女の子なのよ?見られたくない姿の一つや二つぐらいあるわ。」


苦虫を噛み潰したような顔での反論に、わざとらしく「心外だ」という表情を作ったうえで腕を組んで相手をじとりと見やる。

意外にもバツの悪そうな顔をしたフェストラーダが去り際に残した「悪かった」という小さな一言を最後に、部屋は再び静寂を取り戻したのだった。


「あらまぁ、意外と素直。」


てっきり鼻で笑われて終わるものだと思っていたのだが。

自室に近づいている侍女の気配を感じながら、エルミリアは一人思い出し笑いを堪えていた。



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