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レディの部屋に勝手に入ってくるのは無粋ですよ。②


「ほう…気付いていたのか。」

「こちらも確証があったわけではないのだけど…まぁ、消去法といったところかしら。」

「消去法、ねぇ…。」


ニヤニヤと笑いながらこちらを見てくるフェストラーダに対し、不思議とエルミリアは不快感を抱かなかった。

その視線に値踏みをするような不躾さを感じないからなのか、相手がとにかく楽しそうにしているからなのか。

どちらにせよ、先の質問によって相手が逃げるような素振りを見せていないことにエルミリアは内心で安堵していた。

これならばもう少し踏み込んだ話も聞けるかもしれない。


「それで、質問には答えてもらえるのかしら?」

「どうだろうな。」

「あら、意地悪ね。」

「お前の考えを聞く方が面白そうだ。」


つまり何故勘づいたのかを話せということか。

これに従っていいものか、エルミリアは考える。

普通に考えればやめておくべきなのだろう。

自分が持っている情報を迂闊に開示しないというのは、己が不利な状況に立たないための鉄則であり忌避するべき行動だ。

しかし不思議とフェストラーダに対しては、自らの考えを示した方が望む方向に事態が進む気がしているのも事実だった。


(これはエルミリアとしての直感なのかな…。)


「…これはあくまで、私の考えなのだけど」


エルミリアはわざと悩む素振りを見せてから、個人の考えであることを前置く言葉を紡いだ。

無知が恐ろしいのはどの世界でも同じだが、この世界での自分の立場上、知りすぎていることもまた脅威なのだ。


「あなたはリコリエッタ…フェランドル公爵令嬢に、王家の一員に加わってほしくないのかと。」

「…ほう?」

「あわよくば、この国から追い出したいと思っているんじゃないか…というのが私の考え。」

「…。」


フェストラーダの顔から先ほどまでの嬉々とした感情が消えた。

口元には笑みが残っているので表面上は微笑んでいるようにも見えるが、その目は笑っていない。

かといって、明らかな敵意や害意を向けられているわけでもない。

となるとまったく見当外れなことを言って興味をなくしたか、あるいはー…


(向こうが思っていた以上に核心に触れた…?)


沈黙が部屋を支配する。

ここで食いつくような真似をするのは悪手だ、

足元を見られて一気に不利になってしまう。

それがわかっているからこそエルミリアは問いただしたい気持ちをなんとか堪えて、ただフェストラーダの答えを待った。

そうして待った時間はほんの数十秒だったのかもしれないし、数分だったのかもしれない。

待つ時間は体感として長く感じがちだ。

しかしその甲斐あってか、フェストラーダはこちらに倣うようにゆっくりと口を開いた。


「お前たち人間の言い方を真似るのであれば、50点と言ったところか。」

「あら残念。私、学園の試験では満点以外を取ったことがないのだけど。」

「…ヒントを与えたつもりはなかったんだがな。」


どこか呆れたような言い方だ。

これはきっと本心で言っているのだろう。


(反応からすると、合っていたのは「この国から追い出したい」の方だと思うべきなんだろうけど…なんか違う気がするんだよね…。)


ここはさらにカマをかけてみるべきか。

あまりやりすぎると警戒されてしまうかもと思いつつ、どうしても聞かずにはいられない気持ちになる。

エルミリアはフェストラーダの目をしっかりと見つめた。

誤魔化しは許さない、とばかりに。


「合っていたのは、『フェランドル公爵令嬢を王家に入れたくない』という方かしら?」


フェストラーダが目を見開いた。

どうやら当たりらしい。


(やっぱりそっちか〜…。)


それはほんの些細な違和感だった。

「この国から追い出したいのでは」という言葉を聞いたフェストラーダがほんの一瞬だけ、どこか複雑そうな顔をした気がしたのだ。

ああいった表情は前世でもよく見た気がする。

学生時代が特に多かったのではないだろうか。

そこから導かれる仮定を口に出すことはせず、エルミリアはわざと興味なさげに振る舞うことにした。


「あなたが国の運営などというものに興味関心があるとは思えないけれど…まぁいいわ。理由なんて今の本題ではないもの。」


興味のないふりしながら、エルミリアはフェストラーダの様子を注意深く観察する。

エルミリアに追及するつもりがないことを察したらしいフェストラーダから感じられたのは、僅かな安堵だった。

勿論それを表情や態度に出すほど相手も愚かではないが、張り詰めかけていた場の空気が元に戻ったのは事実なのだ。


(やっぱりこのことについてこれ以上聞くのはだめだな…逃げられちゃう。)


今はサリエラとのことを聞く方が先決だ。

優先順位は正しくつけなくては。


「ところで、尊き龍の一族であるあなたが、あの男爵家の娘とどう知り合ったというの?」

「…あの娘からは様々な負の感情が漏れ出ていたからな。明確な悪意というものは『惹きつけやすい』ものだ。」

「まぁ…それは彼女が特別性格が悪いということかしら?」

「くくっ…そういうことだ。」


オーバーリアクション気味に首を傾げつつ困ったような表情を作ったうえで冗談めかして聞いてみると、フェストラーダは軽く吹き出して肯定した。

上手く毒気が抜かれたようなので、これでまた軽口を叩きながら話してくれるかもしれない。


「あの魔道具はあなたが?」

「魔道具?」

「あの香水よ。魅了(チャーム)がかけられていたでしょう。」

「あぁ、人間はアレをそう呼んでいたか。あの女が作れ作れと煩いから作ってやったが…好きだの愛しているだのいう相手に呪いをかけたがるとは、人間は本当に理解し難い生き物だ。」


(やっぱりあれは、魔物からすると呪いの類なのか…。)


『とても、旧い力…。憎悪と怨嗟をまとった、悪意のカタマリ…。』


アンジェリーナが言っていた言葉が、エルミリアの脳裏に蘇った。




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