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レディの部屋に勝手に入ってくるのは無粋ですよ。①


(できれば龍族かもっていうのは伏せて説明したいけど…そこを伏せるとそもそも話にならないんだよね…!)


この時点ですでに八方塞がり感が否めない。

エルミリアは両手で顔を覆って言葉にならない唸り声を漏らす。

当然ながらフェストラーダのことは誰にも話していないため、まずはそこから説明が必要となる。

しかし「突然夢の中に現れてきて、目が覚めたら古龍の逆鱗を渡されていた」などという、説明の出だしの段階で躓いてしまうのが目に見えていた。

「他者の夢に干渉できる存在がいる」ことも「夢を介して現実に干渉できる可能性がある」ことも、真っ当な人間からすればかなりの脅威だ。

夢の中とは基本的に自分の意志が及ばない範囲のものであり、戦闘の訓練を積んでいる者の強さすら悉く打ち消してしまうものである。

エルミリアがフェストラーダとの邂逅時に落ち着いていられたのは、実戦経験の中で強制的に夢から覚める方法をたまたま習得していたからだ。

しかしその方法ですら「爆発的な魔力を一気に練り上げ、強制的に身体を活性状態に導くことで脳を覚まさせる」というものであり、常人にはまずもって不可能な荒技でしかない。

要するに、「殆どの人間が夢に干渉された時点で抵抗する手段を失うに等しいと言える」ということである。

まともな対処法もない状態で、そんな事実を話してしまうのは余計な混乱を招くだけだろう。

しかし、それを説明しなければ仮説の話にすら行き着けない。

見事な負の連鎖が成立していた。


(相談のスタートラインに立てない…!)


抜け道が見つからない事態を前に、エルミリアは目の前の机に突っ伏した。

せめてフェストラーダが現実の世界で接触してきてくれていればさらりと相談できたというのに。

相談をするための打開策が見えないという、どうにもならない状態に陥ったエルミリアはつい血迷ったことを口走ってしまう。


「もういっそこの部屋にでも来てくれればいいのに…。」


それは同時だった。


血迷ったことを呟いたその刹那、なんの気配もなかった自室に突然魔法の気配を感じてエルミリアは勢いよく後ろを振り返る。


「ほう、随分と気づくのが早いな。…護衛でも呼ぶか?」

「なっ…!?」


そこには夢の中であったかの人物が、どこか嬉しそうとも取れる顔で立っていた。


(今のは転移魔法特有の座標を固定する魔力の動きだった…ってことは、こいつも転移魔法を使えるっていうこと!?)


普通であれば悲報と取れるこの情報は、今のエルミリアにとってはこの上ない吉報だった。

これで「突然夢の中に現れた」ではなく、「突然部屋の中に現れた」と説明できる。

どちらにしても警戒されることに変わりはないということを指摘してくれる者は、残念ながら今この場にはいないのだが。


「いいタイミングだわ!」

「…?…よくわからんが、そうか。」


エルミリアの言葉が意外だったのか、はたまた護衛を呼ぼうとしないことに肩透かしを食らったのかはわからないが、フェストラーダに気にした様子はなかった。

もしこの場にリチャードがいれば「君たち、他にもう少し言うことがあるんじゃないのかい?」ぐらいは言ってくれたのだろうが。


「てっきり警戒されているものだと思っていたのだがな。」

「警戒はしているわ。勿論ね。ただそれ以上に都合がいいというだけよ。」

「…相変わらず肝が据わった女だ。面白いな、本当に。」

「褒め言葉と受け取っておくわ。」

「あぁ、それでいい。」


この場にはいささか不似合いな軽口の応酬に、エルミリアは不思議な気持ちになっていた。

警戒しているのは事実なのだが、何故だかそれと同じくらいにこの関わりを面白いと思ってしまう自分がいる。

これが強者を前にした『エルミリア』としての感情なのか、ゲームでは登場しなかった重要人物との関わりによって起こるイベントを楽しみに思う『茜』としての感情なのかはわからないが、高揚しているのは事実だ。


「いくつか、聞きたいことがあるのだけど。」

「いいだろう。」

「即答ね。」

「今は気分がいい。それに、隠さねばならんこともこちらにはないからな。」


随分と気前がいいことだ。

内心少し驚いているのを表情には一切出さないまま、エルミリアは相手の気が変わらないうちに聞きたいことを聞いておくことにした。


「龍の逆鱗を渡されたと思うのだけど、あれはあなたのものかしら?」

「そうだ…が、驚いたな。あれが逆鱗だとわかったのか。」

「確信があったわけではないけれど、他の鱗と形が違うという話は聞いたことがあるわ。」


本当は設定資料集の記載を覚えているので確信はあったのだが、涼しい顔で嘘をついておく。

あまりにも『知りすぎている』と不要な興味を持たれかねず、話が更にややこしくなりかねないからだ。

兎にも角にも、フェストラーダの返答によって目の前の人物が龍族だという確証は持てた。


(さて、次は何を聞いておくべきか…。)


核心をついた質問をすると答える前に逃げられてしまう可能性もあるが、今のエルミリアには核心をつかずに済む質問という手札がほとんどないのも事実だ。


「これはずっと気になっていたのだけれど」


わざと言葉を途中で切り、ことさらゆっくりと話を切り出す。

エルミリアの目はフェストラーダの目をしっかりと見据え、逸らさない。

この言葉によって事態が好転することを期待して、エルミリアは言葉を続けた。


「あの男爵家の娘に手を貸すことは、あなたにとってどんなメリットがあるのかしら?」


フェストラーダは驚く様子もなく、ただただ楽しそうに笑っていた。




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