まとめ学習と考察の時間は大事なのですよ。②
エルミリアは手元の紙に「フェストラーダ」と書き足した。
この人物についてはすべてが不明だ。
人種、性別は勿論のこと、なぜ自分に接触してきたのか、その目的さえも見当がつかない。
(人語を話すけど、人間だって保証もないし…。)
知能が高い魔物が人語を操ることは珍しくない。
代表的なものにはサキュバスやナーガ、ケンタウロスなどの見た目がヒトに寄っているものが多いため、発声器官がヒトに近いのだろうと言われている。
(でも、サキュバスはあそこまでしっかり喋らないんだよね…どっちかと言うと眠りに誘ってくるから歌に近いし。あと他に人語を話せると言えば……龍族か。)
龍族の中には人の形に姿を変えられるものもいるといった話もあったはずだ。
実際に見たことがあるわけではないが、数千年を生きると言われる種族であればそういったことも不可能ではないのかもしれない。
それに、先のオリヴィエの言葉のこともある。
(可能性としては色々あるけど、結局のところ確証はないから人種どころか種族から謎か…。でも人の夢に勝手に出てきたり出来るぐらいだから、護衛の目をくぐって殿下に何かすることはできるかも。)
そう仮定するとサリエラとフェストラーダが繋がっているという可能性に行き着くのだが、そうすると更にまた新しい疑問が出てくる。
フェストラーダがサリエラと組む理由だ。
サリエラ側の利点はいくつか思い浮かべども、フェストラーダ側の利点がまったく思いつかなかった。
自分が知らないだけで、なんらかの利点があるのだろうか。
(仮定の状態で思考を進めるべきじゃないけど、この仮定が今のところ一番しっくりくるのも事実だし、取り敢えずはこの説で考えてみるか。)
サリエラとフェストラーダの間に線を引き、その真ん中に「協力?」と書き足す。
(サリエラがフェストラーダに提供できそうなもの…殿下を籠絡して得られるのは王家との関係に、商品の優先仕入れや税の免除や減額の案とか…?でもそんなの欲しがりそうな感じはしなかったし…。)
フェストラーダの名前の下にペンを置いて考えてみるものの、その人物のことがわかっていない状態では仮定すら進みそうにはなかった。
そもそも何かを欲しているのかすらわからないのだ。
嫌な可能性ではあるが、ただ現状をかき乱したいだけの愉快犯の可能性だってある。
腕組みをしてから首を背もたれに思いきり預けて天井を仰ぎ、掃除が行き届いた真っ白で美しい天井をぼぅっと見ながら考える。
(もっと別の視点で考えてみたら何か思いつくのかなー…?例えば何かが欲しいんじゃなくて、逆に排除したいとか…でも貴族同士の小競り合いとかに関係ある感じはしな……)
「あ!?」
思わず声が出た。
周りに人がいればきっと驚かせてしまったことだろう。
しかし今のエルミリアにはそんなことすら気になりそうになかった。
フェストラーダがサリエラと組む理由の可能性の一つに思い当たったからだ。
(そうだ…サリエラが殿下に取り入るのが目的なんじゃなくて、リコリエッタを…フェランドル公爵家と王家を引き離すことが目的だとしたら…!)
リコリエッタに関することで、国内貴族の間で周知の事実とされているのは主に2つだ。
1つ目はアンクロフトの婚約者だということ。
これは公式に発表されていることである。
2つ目は、国内の土地すべてを覆うほどの巨大かつ強力な結界をたった1人で張ることができるということだ。
国内を覆う魔物よけの結界は通常、王都の5ヶ所に建つ『塔』に勤める結界師が、魔力増強効果を持つ媒介を通じて複数人で張るものである。
『塔』にはおよそ100人ほどの結界師が勤め、交代制で24時間常に王国を守護する結界を張り続けている。
精鋭と呼ばれる彼らが張る結界ですら稀に綻びが生じたり、結界の効力をすり抜ける類の魔物によってすり抜けられたりすることがある。
リコリエッタが張ることができる結界は、それすら許さないほどの強力なものだ。
魔力消費が激しい上に不眠不休での作業になってしまうため3日程度が限界だと本人は言っていたが、それでも十分すぎる期間だと言える。
(リコリエッタが結界を張らないといけないほどの事態にはそうそうならないはずだけど、もしその事態が起こった時にリコリエッタがこの国にいなかったら…)
貴族の令嬢を排除するにあたり、必ずしも殺すという手段を取る必要はない。
婚約者がいる令嬢の場合、その婚約が破棄されれば理由の如何を問わず国内での良縁を望める可能性は低くなる傾向があるのだ。
そうなってしまえば他国に良縁を求めて嫁いでいくか、修道院に入る可能性もある。
そうしてリコリエッタを排除した後で、彼女の結界がなければ防げないような不測の事態が起こってしまえば、それは王国が壊滅的な損害を受けることを意味するのだ。
エルミリアや騎士団がいたとしても、方々から侵入されてしまえば手に負えなくなるのは目に見えている。
何故なら魔物は一部の種族を除いて、戦略を練るということをしないのだから。
ただそこに衝くことができる虚があり、そこに食糧となる生き物がいれば、本能のままに襲ってくるのが魔物という生き物だ。
(まだフェストラーダが魔物の類だと決まったわけじゃない。でもそれが一番可能性として高いなら、この仮説が一番有力になる。)
リコリエッタ本人を狙わないのはおそらく、迂闊に手を出せないからだろう。
リコリエッタは戦闘能力こそさほど高くはないが、強力な光属性の魔法を操ることができる。
光魔法を弱点として持つ魔物は多いことに加えて防御や補助系の魔法が多いこともあり、魔物は光魔法の使い手を本能的に忌避する傾向にあるのだ。
(一応私とお兄さまが教え込んだ護身術もあるし、何よりフェランドル公爵家の護衛は手練れ揃いだから、そう意味では誰よりも手が出しにくいのかも。)
リコリエッタの身の安全という意味では、この上なく安全な環境下にあると言えるだろう。
なのでリコリエッタのことはひとまず心配をせずに済むとして、だ。
ここにきて浮上した今日1番の問題は、この仮説をどう家族に説明するのかということだった。




