まとめ学習と考察の時間は大事なのですよ。①
エルミリアは自室で一人、机に向かっていた。
現在の状況を書き出し、今起こっていることやその中でわかっていることなどをしっかりと整理することにしたのだ。
(ちょっと前に同じようなことしたはずなのに……前のことが解決するより先に次のことが起こって頭がパンクしそう…!!)
ふぐぅ…と変な唸り声を出しながら頭を抱える。
次から次へと厄介ごとが起こるせいで、思考回路が大渋滞を起こしているのだ。
解消するには一つ一つを丁寧に洗い出す方が良いと判断し、考査期間よろしく机に向かってペンを走らせている。
もっとも、勉強と違って明確な解答が用意されているわけではないので、本当に現状の把握にしかならないのだが。
(えーっと、まずはサリエラのこと…。)
彼女が転生者であることはまず間違いないだろう。
ゲームの世界で存在した課金アイテムを参考にして、攻略対象外であるはずのアンクロフトを籠絡しにかかっている。
その「課金アイテムもどき」はゲームの世界で存在していた『まじない師』が作成したものではなかったというのが、今回ニーナとオリヴィエが接触したことで判明した。
(ニーナはゲームの世界ではサリエラの親友っていうポジションだけど…同時に『まじない師』でもある。これは考察班の考察が見事に当たった形だなぁ。)
『まじない師』の正体は公式から正式に発表されているわけではない。
しかし、『まじない師』の元に通い詰めると特定の日のたった1回だけ、普段とは違ったイベントが発生するということを、一人のプレイヤーが発見した。
そのスクリーンショットがSNSに上げられると、考察班と呼ばれるインターネットの精鋭たちが一斉に動き出し、僅か1時間後には「『まじない師』の正体はニーナ」という情報が出回ったのだった。
(考察班に教えてあげたい…そして優秀さに改めて脱帽ものだわ…!…っと、今は状況整理…!)
プレイヤー目線での感慨に耽りかけたところで、慌てて思考を戻す。
エルミリアは改めて手元の紙に視線を戻すと、「サリエラ」と書いてある名前の周りを握っていたペンでぐるぐると丸く囲んだ。
サリエラはアンクロフトの籠絡に、一時的とは言え成功していた。
しかしそのことが却って新たな疑問を呼んでいるのだ。
(ルードベッヘ男爵が王城に行ったのは叙爵のための式典の日と、その数日後に開かれた記念パーティだけ。娘であるサリエラは、記念パーティーで初めて王城に行っている…。)
これについては王家の『影』が調査をしているため、極めて信用度の高い情報と言える。
このことから考えるに、その記念パーティの瞬間まではサリエラとアンクロフトに接点はなかったということだ。
にも関わらず、アンクロフトはそこから半年も経たないうちにリコリエッタに婚約破棄を申し出た。
(たった半年足らずで婚約を破棄するなんて言い出すほど殿下とリコリーの絆は浅くない。そこから考えても、確実に魔道具の影響を受けてのことのはずなんだけど…。)
しかしそうなると当然の疑問として出てくるのが、効果に関することだ。
たった一回の使用でその後の王城への個人的な出入りを許すほどの効果が出るのであれば、その時点で婚約破棄を言い出しそうなものではないかと思う。
しかし実際には半年近い日を置いての今回の出来事だ。
それに、アンクロフトがわざわざフェランドル公爵家を内密に訪れ、人払いをした上で婚約破棄を申し入れたというのも不可解だった。
魔道具によって理性を失っているにしては、リコリエッタへの配慮がきちんとなされている。
人間性にまでは影響を及ぼさない代物であるという可能性もあるが、そうなるとアンクロフトの性質上、婚約破棄そのものを言い出しそうにない。
(それに、魅了の効果を持つ食物を継続的に摂取させられてたことも気になるんだよなぁ…。)
継続的な摂取が必要ということは、それをやめると正気に戻る可能性があるということなのだろう。
現に今はサリエラとの面会を完全に謝絶し、薬湯を処方して摂取させられた食物の効果を体から抜いているところだが、早くもリコリエッタを案じる言葉が出てきたと聞いている。
それに反して、サリエラの名前が出てくることが明らかに減っているとも。
(サリエラが記念パーティで王城に初めて訪れたのが約半年前。次に王城を訪れたのは確か…2ヶ月後の薔薇の祭典って言ってたっけ。)
「薔薇の祭典」はゲームの世界でも存在した国全体のイベントだ。
この日だけは王城の門が解放され、国民は身分の区別なく城内の庭園を自由に見学することができる。
三代前の王妃が大変な薔薇好きであったことに併せて、平民を特に大事にするよう国王に度々進言していたことがきっかけで制定されたのだとか。
(でも薔薇の祭典は庭園までしか入れないし、その庭園に王族の方が出てくるわけじゃない。城門を開放するからこそ警備は普段よりも厳しいものだったし、結局ここにも接点があるとは考えにくいか…。)
「祭典」と書いた文字をバツ印で消す。
(起点らしい起点が特定できないのは、なんだか気味が悪いな…。)
どんな事象にも、それが起こるに至った起点があるものだ。
しかし今回はそこが見えていない。
(詰めが甘いかと思えば不自然なほどに痕跡がなかったり…なんだかすごく歪。意図的なのか、それとも…。)
『ではな。次は夢の外で。』
『すぐに会える。』
フェストラーダと名乗った人物が残した言葉が、ふと脳裏を掠める。
あの人物が関わっているということなのだろうか。




