はかりごとと思われるとは心外です。①
ニーナ・ハウゼンは動揺していた。
しがない商家の娘でしかない自分に、とても想像できないような身分の人物が訪ねてきたからだ。
最初は混乱した。
もしかして訪ねる先を間違えたのではないか?
そう思って確認してみたものの、相手の返答は否だった。
その答えを聞いて、次に警戒した。
貴族の身分を騙った人攫いか、あるいは強盗の類かもしれない。
そう考えたニーナの思考を読んだかのように、相手は安心するようにと声をかけてきた。
そして用件を告げたのだ。
「今後、自分たちのところで魔道具の製作を手伝ってほしい」と。
そして今、お世辞にも広いとは言えない家の居間にその相手は座っている。
(何、この状況…。お父さんが帰ってきたら卒倒しそう…!)
かく言う自分もまったく状況が飲み込めていないのだが。
ひとまず、来客用にと買い置いてある中で一番高価と思われる茶菓子とお茶を出してみた。
魔道具の製造と販売という分野において、フォルテリア王国では有力貴族が市場のほとんどを占めている。
それは新規参入を許さない風潮があるだとか、庶民ではその事業を興せないほどの投資が必要になるなどといった理由ではない。
単純に、魔力量の差があるのだ。
魔法を扱うことと、魔道具としての効果付与を行うことでは適性が異なる。
魔法を自在に扱える者が、魔道具も自在に作製できるかというとそうではなく、逆もまた然りだ。
魔道具の効果付与というものは魔力制御ができることが大前提であり、繊細な魔力コントロールが求められる。
製品ごとの効果を可能な限り均等にするために、一定の威力で魔力を放出しながらなおかつそれを比較的長時間持続する必要があるのだ。
篭める魔力量にもよるが、数個程度であれば平均的な魔力量の持ち主でも作製は可能だ。
しかしそれを販売できるほどの数量をこなすとなると、魔力量がさほど多くない者には難しい。
そして魔力量や適性といったものは、基本的に遺伝によるところが大きい。
貴族は家同士の結びつきや利益などを優先して婚姻を結ぶことが多く、勘案する事項の一つに魔力量や適性といった遺伝的なものを含める家も少なくない。
そのため、代を重ねるごとに魔力量や適合する適性が増えていくことも珍しくないということだ。
それに対して庶民は当然ながら恋愛結婚がほとんどで、魔力量や適性というものを考慮することはほとんどしない。
もちろん中には突然変異のように高い魔力値を持った子どもが生まれることもあるが、そういったものは多くの場合それを生かせる職に就く。
そして勤めた先で結婚相手を見つけて結婚する、というのがパターン化しているのだ。
(魔道具の作製なんて、普通なら一般人に頼むようなものじゃないのに…。それに私が魔道具を作れることを知ってるのはお父さんだけのはず…。)
自分に関する誰にも話した覚えのない情報が漏れていることにも、ニーナは混乱していた。
父親以外の前で効果付与をしたこともなければ、友人にそんな話をしたこともない。
時々話題に上がってくる魔道具の話にも、「すごいよね」という当たり障りのない言葉で返していたぐらいだ。
「まずは、驚かせてしまってごめんなさいね。」
「えっ!?あ、いや大丈夫!…じゃなくって、大丈夫です!」
突然話しかけられたことで驚いてしまって、うっかり敬語を忘れてしまった。
貴族相手に無礼を働けないという緊張感から、全身に汗をかいているのがわかる。
「そう畏まらなくても大丈夫よ。私とあなたは同い年だし、今日は貴族家の者として来ているわけではないの。怪しい者ではないとわかってほしくて、家の名前は出したけれどね。」
こちらを気遣ってくれているのはわかるが、だからと言って「はい、そうですか」と言えるほどの度胸はニーナにはなかった。
しかしどこから情報が漏れたのかを聞きたい気持ちはある。
魔道具を作れることは特段隠すようなことではないが、知らせていないことを知られているのはやはり怖いものがある。
「何故あんなお願いをしにきたのか、不思議に思うわよね。」
「あ、えっと……はい…。」
反射的に否定しようとするのをやめて、素直に頷いた。
はぐらかすわけでもなく、向こうからその理由を教えてくれると言うのならそれは願ってもないことだ。
「理由はとても簡単。あなたに稀有な才能があるからよ。」
「わたしに?」
「えぇ。」
にこりと笑って返される。
背中と首筋のあたりが、心なしかヒヤリとした気がした。
両腕の産毛が逆立っている感覚がする。
「ニーナ・ハウゼンさん。あなたはー」
続いた言葉に、ニーナは声も出せないほどに驚いた。
それこそが、彼女と父親が「ニーナが魔道具を作れる」ことを隠すように決めた最大の理由だったからだ。
「人の心を操る魔道具が作れるでしょう?」




