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コンタクトをとりましょう。②


夕食を終えて自室に戻ってきたエルミリアは、夕食前と同じ格好で新たに発生した問題に文字通り頭を抱えていた。

一つ目の問題は言わずもがな、ベッドサイドのチェストの上に置いてある物だ。

気のせいではという期待のもとでもう一度じっくり観察してみたが、やはり古龍の逆鱗で間違いなかった。


この世界での古龍の逆鱗とは、幻の霊薬の素材だ。

万病に効くとされる霊薬の素材は人魚の涙や不死鳥の尾羽など、どれも入手困難なものばかりであり、その中でも古龍の逆鱗の入手難易度は格段に高い。

理由の一つとして、まず古龍という存在がなかなかいないという根本的なものがある。

古龍の定義とは100年以上生きている個体ということになっているらしいが、そもそも龍の個体数が少ないのだ。

一説では、長命の種族であるが故の繁殖力の低さが原因で個体数が減少したとされているが、真偽は不明である。

とにかく龍に会うこと自体がとても稀であるため、第一段階から難易度が高い。

二つ目に、運良く会えたとしても龍は非常に頭がいいために並みの戦略では通用しないとされ、またその魔力量も桁外れだという。

人間が討伐できるような存在ではないというのが世界の共通認識だった。

だからこそフォルテリアの建国者であり、初代女帝でもあるクロエは人智を超えた存在として未だに国外の人たちからも崇拝されているのだ。

そして三つ目に、あの巨体にたった1枚生えている逆鱗を探すという作業の困難さだ。

一応、逆鱗は他の鱗と違って桜の花びらのような形をしているということらしいが、結局遠目で判別できないことに変わりはない。

そんな理由が合わさった結果、入手はほぼ不可能と考えられているのが古龍の逆鱗というアイテムだ。

そんなものが今、自分の手の中にある。


(なんでこんなものを…それにこれ、ゲームの世界では課金アイテムだったやつ…。)


古龍の逆鱗はゲームの世界において、課金アイテムとして存在していた。

一度の攻略に対して一個しか購入できない個数限定アイテムで、他の課金アイテムより値段もやや高めの設定となっていた。

その効果は「使用した攻略対象キャラクターの愛情度と友好度をMAXにする」というものだ。

乙女ゲームの醍醐味をすべて台無しにしてしまうようなこのアイテムだが、意外なことに使用するプレイヤーは多かったらしい。

というのも、「わたこい」にはコンプリート特典としてすべての攻略ルートをクリアしたプレイヤーにご褒美スチルというものが用意されていた。

特典は欲しいが好みではないキャラクターの攻略には力が入らないという層に、このアイテムは需要があったのだ。

余談だが、乙女ゲームに何故「龍の逆鱗」などという不似合いなアイテムを選んだのかを聞かれた運営は、「ファンタジー要素が感じられてる、なおかつレアアイテムといったらこれかなって思って。」というなんとも緩い回答をしていた。


頭を悩ませる二つ目の問題はアンクロフトの件だ。

アルフレッドが解呪師として就いたということから、アンクロフトにかけられた魅了(チャーム)は数日のうちに解呪されると思われていた。

しかしアンクロフトを診たアルフレッドによると、香水の他に魅了(チャーム)の効果を付与された食物を摂取した可能性が高く、その成分が概ね排出されるまで完全な解呪は難しいとのことらしい。

護衛の騎士に確認したところ、アンクロフト宛に何度か王都で有名なパティスリーの菓子が届けられていたという。

通常であればそのようなものを王太子にそのまま渡すなどあり得ないのだが、香水の効果でサリエラに対する警戒心がまるでなくなってしまっていたアンクロフトから指示されたことによって、そのままアンクロフトが摂取する結果となってしまったようだった。

さらに、サリエラが訪ねてきたときには持参した紅茶を淹れるようアンクロフトに言い付けられていたというのだから、随分と小賢しいことをしてくれたものだとエルミリアは思った。

もっとも、いずれの場合も仮に毒味が行われていたとして、効果はアンクロフトにしか出ないようにされていたと推測されるので、結局毒味をする意味はなかったわけなのだが。


(紅茶とかクッキーはライバルの女性キャラにしか使えないうえに、友好度を上げるだけのアイテムだったはずなのに…。)


香水がゲーム本来の仕様とは違う効果を持っていたように、クッキーや紅茶もまた本来とは異なる仕様を持たされていたらしい。

香水の香りが漂う中で菓子をお茶請けに紅茶を飲んでおり、それらすべてに魅了(チャーム)が付与されていたとなれば、この短期間で婚約破棄を言い出すまでの効果が出てしまうのも納得だった。

これらの対応として、ひとまずは解呪用の薬湯を服用させながらアルフレッドが解呪を行い、正常な判断が出来るところまで回復させるという方針になったということがエルミリアの父であるナイトリアス侯爵に伝えられたらしい。

その間はサリエラがアンクロフトに近づくことが出来ないよう、上手く言い包めて遠ざけるのでそのことを頭の隅に置いておくようにと、父から伝言を受けたという兄から釘を刺された。

ようは不要な喧嘩をふっかけないように、ということだ。


(どんな理由なら納得するのかっていうのは、気になるところだけど…とにかくサリエラとは関わらないようにしないと。)


エルミリアは幸いなことに、明日は魔物討伐のために終日王都から離れることになっている。

リコリエッタもしばらくの間はパーティーへの出席を控えるとのことだったので、自分の周りで何かが起こることはないだろう。


(それにこれはある意味チャンスよね。今のうちに『あの人』と接触をはかっておくかな。)


反撃の材料は多く持っておくに越したことはない。


「何だか少しだけ、悪役令嬢の気分ね。」


誰もいない部屋で独りごちると、エルミリアはクスリと微笑った。



エルミリアが、自分今ちょっと悪役令嬢っぽい楽しいってなってる回です。

言うほど悪役令嬢ではない()

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