気が置けない婚約者というのは貴重ですが、食えない婚約者というのは厄介です。①
2回目の家族会議から一夜明けた昼下がり、エルミリアは自身の婚約者であるリチャードと共に、穏やかなお茶の時間を過ごしていた。
リチャードとは婚約者であると同時に幼馴染でもあり、エルミリアが信頼を寄せる人物の1人だ。
謹厳実直を絵に描いたような人物で、ナイトリアス侯爵家の面々はもちろんのこと、学園の関係者や社交界からの評判もすこぶる良い。
(リチャードはアルファンド公爵家の長男で、顔良し性格良しの上に家柄も良い。まさに絵に描いたような「理想の男の人」なんだよねぇ。)
運営が行ったキャラクター人気投票では、攻略対象者部門でブライアンに次いで2位になっていた。
たしか投票数も、ほんの300票ほどしか変わらないような僅差だったはずだ。
通っている学園内でも密かにファンクラブが結成されているという噂を聞いたことがある。
そんな相手が今の自分の婚約者だと思うと、なんとも不思議な気持ちである。
(まぁリチャードの場合は裏設定とのギャップがまたいいって意見が多かったもんなぁ…。)
例に漏れず、前世の自分もその裏設定にまんとはまった1人だ。
ギャップ萌えというのはきっとどの世代にも刺さるのだろう。
そんなことを考えながら、優雅な所作で紅茶を飲むリチャードの顔をじっと見つめる。
(いやぁ……本当に顔が良い…。ブライアンとはまた違ったタイプの美形でとにかく眼福だわ…。)
この美形をこんな近くで拝めるという事実が、両手を合わせて拝みたいぐらいに有難い。
前世の人生が終わってしまったことが心残りではないと言えば嘘になるが、これはこれで転生した甲斐があったというものだ。
「エルミリア、どうかしたのか?」
自分の顔を見つめてくるエルミリアに、リチャードが困ったように笑いながら声をかける。
「しまった」と思いつつもそれを顔には出さず、さも何でもないという態度を取り繕う。
「ごめんなさい、考え事をしていたの。」
「君の考え事というと、魔物の弱点とか報告書とかその辺りかい?」
いつも自分はそんなことばかり考えていると思われているらしい。
あながち間違いではないあたりが、なんとも情けないような気持ちになってしまうところだ。
せめてそこは流行りの恋愛小説のことかと聞かれたいものなのだろう、きっと。
「残念だけど、今回は違うわ。」
「外れたか。正解を聞いても?」
「あなたに見惚れていただけよ。」
「ははっ、それは光栄だ。」
「あら、本当なのに。」
なんでもないことのように事実を伝えると、笑って流された。
嘘を言っているわけではないし茜としての本心なのだが、彼からすればありふれた社交辞令の言葉の1つで
しかないのもまた事実だ。
そんなものをいちいち真に受けていてはキリがない。
2人は顔を見合わせて、クスリと笑った。
こんな風に気を遣わずにいられる相手が婚約者というのは、本当に恵まれていると思う。
(もしまかり間違ってリコリーに転生していたらと思うと……私には絶対務まらないわ…。)
貴族の礼儀作法だけでも大変だと感じたのに、更に王妃教育まで加わるとなると、自分では絶対に習得できなかったであろう自信がある。
所作の一つ一つに至るまで王族としての気品が求められ、全ての行いが民の規範となることを常に求められる。
ー考えただけで頭を抱えたくなる立場だ。
やはり何事にも適材適所というものがあるのだと痛感する。
そういった点から見ても、元が平民であるヒロインがアンクロフトと結ばれるなど無理があるのだ。
「それで?」
「?」
「君が本当に考えているのは、誰のことだ?」
「…あら、掘り下げてくるなんてあなたらしくないわね。」
突然の問いに、エルミリアは動揺を悟られないようわざと軽い調子で返した。
しっかりとエルミリアの目を見据えて問いかけてくるリチャードの口元には、うっすらと笑みが浮かべられている。
これはすでに見当がついていることを敢えて問いかけるときの、リチャードの癖だ。
その証拠に彼は今「何について」かではなく「誰について」かを問うた。
(問題は、どこまで知ってるのか…よね。)
今回の件を知っているのは王家とフェランドル公爵家、そしてナイトリアス侯爵家だけだ。
ブランシュ伯爵家には詳細は伏せられており、ルードベッヘ男爵もおそらく娘の動きを把握してはいないだろう。
当然だが、当主である父の許可がない以上、エルミリアの口からリチャードにことの経緯を話すことはできない。
リチャードと同じように、口元に笑みを浮かべて見つめ返すだけで答えないエルミリアに業を煮やすでもなく、彼は変わらずこちらを見つめてくるだけだ。
エルミリアの口から話すことができない事情を理解しているのだろう。
(まぁ、私の口から話すまでもないんだろうけど。)
問う者と、問われる者。
答えを求める者と、答えるための言葉を持たない者。
そんなちょっとした膠着状態は、リチャードが口を開いたことであっさりと終わりを告げた。
「ルードベッヘ男爵の娘のことだろう?」
「…。」
否定をしたところで意味がないことを知っているエルミリアは、沈黙を以て肯定の意を示した。
そもそも、彼に隠し事などできるはずもないのだ。
(さすが、この国の全ての情報が集まるアルファンド公爵家の跡取り息子ね。)
今日はなろうに始めてお話を投稿した日から1年記念日です!
小話の更新は諦めたので、せめてお話の更新を…!




