作戦会議のターンその2ですよ!③
「…何かに引き摺られたな。」
場の静寂を破ったのは父だった。
父の言葉を受けて母がすぐにアンジェリーナの額に手を翳すと、すぐにぼんやりとした温かな光が灯る。
「…精神操作や侵食の類はありませんわ。干渉される前に、本能的に危険回避をしたのでしょう。」
深刻な影響が残っているわけではないらしいことがわかり、皆が胸を撫で下ろす。
母の探査魔法は家族の中でも随一で、状態異常を見逃したことは一度もないほどだ。
異常がないことがわかると父はすぐにアンジェリーナ付きの使用人を呼び、部屋で休ませておくようにと言いつけた。
詳細は伏せるつもりのようだが、今夜はしっかりと様子を見ておくようにと念押しもしている。
その様子を見ながら、エルミリアは思案する。
(アンジェリーナが言ってた「旧い力」って何のことだろう…?この国には古代魔法なんてものはなかったはず…。)
フォルテリアは建国からまだ400年ほどであり、古代魔法という言葉を持ち出すにはまだ比較的歴史が浅い。
魔物は人間よりも永い寿命を持つものが多いが、それでも200年程度がザラだという話だったはずだ。
そして何よりも魔物は知性が低いものが大半で、人間の指示を聞いて魔道具を作るために魔法を込めるという行動を取るなど、とてもではないが考えられない。
(ヒトではないモノとも言ってたっけ。知性があって魔道具を作れるような力があって、ヒトではない旧い存在…?そんなの…)
「ラフェイア」
ぼそりと呟かれた言葉を聞いて、エルミリアは知らず知らずのうちに俯いていた顔を勢いよく上げた。
先の言葉を呟いたのはブライアンらしい。
勢いよく自分の方を見たエルミリアを見て、彼は少し驚いているようだった。
「お兄さま、今なんと…。」
「え?あぁ…アンジーが言った言葉の意味を考えていてね。浮かんだのがそれしかなかったものだから。」
「…私も、同じことを考えていました。」
兄妹2人は顔を見合わせると、そのまま揃って父の方へと顔を向けた。
顔には明白に「父上(お父さま)はどうお考えですか?」と書いてある。
この兄妹が、揃ってこんなにわかりやすい顔をするのは珍しいことだ。
子どもたちに視線で問われた父は、思案するように目を閉じる。
ほんの数秒のことがやたらと長く感じた。
そうして父は殊更ゆっくりと目を開くと、子どもたちの顔を順に見てからゆっくりと頷いた。
「今の時点では、お前たちが考える存在が一番可能性が高いだろう。」
「しかしアレは討伐されたはずでは…。」
「なんらかの手段を使って逃げ延びていたのかも知れん。過去のことは文献に残っていること以外、我々には知る術がないからな。…俄には信じ難いことだが。」
父の言葉が終わると、家族はまた黙り込んでしまった。
まだそうと決まったわけではない。
しかし400年前に討伐されたはずの存在が、今になって話題に上がるようなことがあろうとは。
(これが「プレイヤーがサリエラに転生したことによるイレギュラー」なのか、それとも公開されてない裏設定なのか…。)
今のエルミリアにはどちらなのかを判断するための材料が足りない。
しかしどちらであったとしても、かなり面倒なことになっているという事実は変わらないだろう。
「この魔道具に効果を付与した存在については、今は置いておこう。今後のことを話さなければな。」
「はい。」
ブライアンとエルミリアが姿勢を正す。
フェランドル公爵家への情報共有は終わった。
リコリエッタにはもしもの時に備え、協力を頼んである。
ルードベッヘ男爵とサリエラへの接触も済んだ。
夜会の際にブライアンが上手く立ち回ったこととオリヴィエが協力してくれたことで、ルードベッヘ男爵との商談の場も作れそうだという。
次に打つべき手はなんだろうか。
(国王陛下と王妃様への報告はお父さまがやるだろうから…情報収集とか?でも今集められる情報なんてたかが知れてるし…。)
サリエラに警戒されているであろうエルミリアでは動けない部分も多く、打てる手もいくらか限られる。
考えを巡らせる父の姿を見て、あの時の悪手を改めて痛感する。
方針を決めたらしい父が自分の方を見たことで、エルミリアは次は自分が動くのだということを悟った。
「エルミリア、確かまた討伐の予定があったね。」
「はい。2日後にエクアードの森で、ボグフロッグの討伐があります。日帰りの討伐ですが、事前確認のため明日は王城に参ります。」
「ではその時に、殿下の様子を確認しておきなさい。」
「魔道具の効果を受けているか、ですか?」
「そうだ。常に効果があるのか、あるいは使用者が近くにいなければ薄らぐのかは重要だからな。」
「承知しました。」
それならばエルミリアが適任だ。
いくらエルミリアがサリエラに警戒されていようとも、討伐の打ち合わせであれば流石にサリエラの同席は許されないだろう。
婚約破棄の旨を告げられた日からアンクロフトと会えていないこともあり、エルミリア自身も彼のことは気になっていた。
「あぁ、それから」
「はい?」
「もしサリエラ嬢と会うことがあれば、先日の態度を謝罪しておきなさい。」
「…へっ!???」
予想だにしなかった父からの言葉にエルミリアは思わず目を見開き、侯爵令嬢らしからぬ素っ頓狂な声を上げた。




