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作戦会議のターンその2ですよ!②

「さて…それはそれとして、だ。確認しておくべきことがあるな。…エルミリア。」

「はい。」

「お前は、これが王城で会ったサリエラ嬢が纏っていた香水と同じものだと思うかい?」


問われてエルミリアは思案する。

目の前に置かれているこの香水の香りを自分はまだ知らない。

しかし、夜会から帰ってきた兄に聞いた話や先程の効力の話からするに、今自分が持っている考えはおそらく間違いではないはずだ。

父の目をしっかりと見据えてから、エルミリアは口を開いた。


「いえ、別物だと思っています。」

「そうか。…私もだ。」


父の言葉を聞いてエルミリアは少し安心した。

兄や母が何も言わないところを見るに、2人もまた同意見なのだろう。

アンジェリーナだけは、まだ難しい顔のまま香水と睨めっこをしているが。


(アンジェリーナがこんなにも長い時間難しい顔をしてるなんて珍しい…。それだけ嫌な感じがするってことなんだろうけど…。)


「王城で彼女が纏っていたという香水は、恐らく対殿下のためだけに作らせたものなのだろう。使用者も対象者も限定されているとなれば、相当強い効果を持たせることができるはずだ。」

「ふむ…エルミリアを味方につけるつもりで近付いたのだと思っていましたが…。」

「いや、それも目的の一つではあったのだろう。」

「え?しかし…。」


エルミリアを取り込むつもりだったのであれば、魔道具の効果対象をアンクロフトに限定するべきではなかったのではないか。

そう問おうとしたエルミリアは、サリエラが「そうしなかった理由」の可能性の一つに思い当たった。

それはサリエラが転生者だと知った自分が、無意識のうちに排除していた可能性だ。

何故ならば自分達は、ゲームの設定を知っているのだから。


(でもその設定を、彼女は覆そうとした。つまりー)


「殿下を籠絡すれば、王家の命令として私を殿下付きの…あるいは彼女付きの護衛にできると考えた、と言うことでしょうか。」

「…おそらくな。」


大きな溜息を吐いて父がエルミリアの考えを肯定した。

途端、その場のほぼ全員の眉間に皺が寄る。

なんという浅はかで身勝手な考えだろうか。


「愚策もいいところですね。」

「エルミリアの特例を知るのは我が家と王家、そしてフェランドル公爵家だけだからな。知らぬが故の愚慮ということだろう。」


もはや呆れて言葉もない、と言った様子だ。

この2人が、ここまであからさまに呆れたという態度を取るのはなかなか珍しい。

母に至ってはこの話題に入る気すら無くしたらしく、パティシエ自信作の一口タルトを美味しそうに食べているぐらいだ。


(サリエラにとって今のこの状況は…完全に誤算のはず。)


おそらくサリエラの頭の中には「王家の命令は絶対で誰も逆らえない」という考えがあるはずだ。

それは確かに正しい。

クーデターでも起こさない限り、一貴族が王家の命令や決定を覆せるようなことはそうそうないのだ。

とは言え、何にでも例外というものは存在する。

そしてその例外が他でもない、エルミリアに関わることなのだ。


(そう…"(エルミリア)の特例"…これも、ゲームの設定にはなかったこと…。)


それは7歳のとき、前世での記憶が甦った一月後に取り決められた「特例」だ。

とある出来事がきっかけで、エルミリアはその類い稀なる魔法の才を王家を始めとした貴族諸侯に認知されることとなった。

するとその強すぎる魔力故に、その将来を不安視する声が一部から出てきたのだ。

その声を抑えるため、そしてエルミリアが国家に仇なすことがないよう楔とするために設けられたのが件の「特例」である。

特例の内容は王家とナイトリアス侯爵家、そして特例の内容に関わるフェランドル公爵家にのみ周知され、その他には秘されている。


(たしか他の貴族諸侯には、「エルミリアは自分で自分に制約を課して国家に仇なさないことを誓約した」っていうことだけ伝えられたんだっけ。)


その宣誓を以て、エルミリアは「普通」の生活を送ることを許されている。

王家にとってエルミリアは、リコリエッタと同等に手放したくなければ敵対したくもない相手なのだ。

そしてそれは、エルミリアにとっても同じだった。


「…特例の有無に関係なく、国王陛下と王妃殿下は私にもとても良くしてくださいます。お二方にご負担をかけるようなことには…。」

「無論、そんなことにはさせんさ。」

「…はい。」


父のはっきりとした言葉にエルミリアはほっとする。

大好きなゲームの物語を壊したくないという想いと同じかそれ以上に、幼い頃から自分にも良くしてくれた国王夫妻に辛い思いをさせたくないという気持ちがあった。

今起こっていることの全てを隠すことはできないまでも、なるべく大事になる前に今回の件は収束させてしまいたい。

場合によっては多少荒っぽい手段を取ることも考えなくてはいけないだろうかと、少々物騒なことを考え始めたエルミリアの耳に、アンジェリーナが何かを呟く声が聞こえた。


「アンジー?」

「この、香水…。」

「うん?」


よく見るとアンジェリーナの目が少し虚ろになっている。

ハッとして両親の方を向くと、目線だけで少し待つようにと指示される。

すぐに動きたい衝動をぐっと堪え、エルミリアはアンジェリーナをじっと見る。

すると彼女はゆっくりと香水を指差して、口を開いた。


「ヒトではない、強いモノの魔力を、感じます…。」

「ヒトではないモノ…?」

「とても、旧い力…。憎悪と怨嗟をまとった、悪意のカタマリ…っ…。」

「アンジー!」


喋り終えると同時にそのまま意識を失い、椅子から崩れ落ちそうになったアンジェリーナを兄がすぐに抱きとめる。

母が駆け寄って様子を窺うと、どうやら眠っただけらしいアンジェリーナは静かな寝息を立てていた。

家族は困惑した表情のまま、顔を見合わせた。



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