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作戦会議のターンその2ですよ!①


ブランシュ伯爵家での夜会から3日が経った日の夕食終わり。

ブライアンの手元には、薄いピンクのリボンで可愛らしく飾り付けられた手のひらサイズの白い箱が置いてあった。

これは、これから始まる作戦会議の主役である。

その箱に視線を向けたまま、父が開始の合図とばかりに口を開いた。


「オリヴィエ嬢から贈り物が届いたと聞いたが。」

「はい。こちらです。」


ブライアンは箱の蓋を取って中身を出すと、父の方へと差し出した。

淡いピンクからピンクパープルのグラデーションが可愛らしい小瓶には、蝶々の羽の意匠が施されている。

瓶の形はハートを少し縦長にしたようなものになっており、蓋の上部は薔薇の形に飾り彫りがされていて、いかにも女性が好みそうだ。

香水が入っていた箱は、よく見るとごく薄い銀灰色で蝶々と薔薇の絵が描いてあるらしい。

売値が特別安いというわけではなかったと思うが、加工に使う技術やそれに支払う費用を考えると、純利益はそれほど多くなさそうだ。

兄と父がその考えに至らないわけはなく、二人も同じように凝った外装をしげしげと見つめている。


「商家が販売元とは思えんな。」

「そうですね。さほど利益を上げられる品だとは思えません。」

「利益を得ることを目的としていないということでしょうか?」

「そうやも知れん。」


アンジェリーナが珍しく難しい表情で香水を見つめている。

商品を販売しておいて利益を得る気がないという、矛盾した行動の意図が読めないからではない。

おそらくは目の前の香水から感じる魔法の気配に、嫌なものを感じるのだろう。


(転生するまでは知らなかったことだけど、アンジェリーナは第六感的な感覚が兄妹の中でも一番強いから…嫌な感じがわかるんだろうな。)


「この香水、もう分析はされたのですか?」

「あぁ、終わっているよ。ごく弱い魅了魔法が付与されているらしい。」

「具体的には?」

「香りが届けば無意識に目で追う程度だそうです。香りが届かなければ効果はない、と。また、使用者にまったく好意を抱いていない相手にも効果が出ないだろうとのことでした。」

「なるほど。やはり、さほど強い効果は持たせていないか。」

「それは条件付与の難易度とは関係なく、敢えて効果を弱くしてあるということでしょうか?」


魔道具は条件の難易度と効果の強さが反比例している。

難しい条件を付与すればその分効果は低減し、条件が単純であればそれだけ効果が高くなる。

目の前の香水は、使用者はもちろん対象者が限定されていない分、条件付与の難易度は比較的高い部類になるのだろう。

しかしだからといって、そんな弱い効果しか持たせられないほどの難易度ではないはずだ。

そうなると、何かしらの理由や目的があってわざと効果を抑えてあるということになる。


「あぁ、分析した魔道具師が言うにはそのようだ。この魔道具に付与されている条件から考えれば、もっと強い効果を持たせることは可能だそうだよ。」


「その腕があればの話だけどね。」と笑いながら付け足す兄が、何やら黒く見えたのはエルミリアの気のせいではないだろう。

この兄は基本的に温厚なのだが、笑顔で毒を吐くところがある。

今のも恐らく言外に「そんな優秀な魔道具師が一商家に仕えるとは思えない」という皮肉が込めてあるのだ。


(リコリーに辛い思いをさせてること、相当根に持ってるな…。)


ふと、改めて家族の顔を見回す。

この場にいる全員が同じ思いでいるのだということを考えると、つくづく身内ながら敵に回したくない人物ばかりだとエルミリアは思った。


「…効果を強くしないのは、無用な混乱を引き起こすことによって受け得る商品の回収や、褫爵(ちしゃく)といった事態を避けるためでしょうか。」

「そうだろうな。そのぐらいの頭はあるらしい。」


(あ、コレお父様もめちゃくちゃ怒ってるわ…。)


父親らしくない棘を含んだ言い方に、エルミリアは思わず顔が引き攣りそうになる。

そして同時に、いよいよ空恐ろしくもなってきた。

事が露見して男爵家が取り潰されるよりも先に、我が家によって潰されるのではないだろうか。

そんな考えすらよぎるほどだ。


(せめてルードベッヘ男爵が、何も知らずにサリエラに利用されてるだけならいいんだけど…。)


そうであれば、男爵はまだ救いようがある。

国に貢献したという実績があることは事実なのだ。

彼の努力がこんな形で水泡に帰す様は見たくない。

そう考えてしまうのは、貴族社会に生きる者としては甘いのだろう。

しかし現代日本で生きていた「茜」としての意識が、どうしても連座という考え方を受け入れられないのだ。

それに、ルードベッヘ男爵が無関係であって欲しいという願いはそんな個人の感情によるものだけではない。


「しかし、そういった事態は本当に避けたいところですね。ルードベッヘ男爵が叙爵を受けてからまだ半年と経っていませんから…。」

「あぁ。そのあたり、慎重に動かねばならん。」


(んー…そこなんだよねぇ…。)


父兄の言葉に、エルミリアは心の中で頷く。

叙爵されて間もないうちに取り潰しなどということになれば、王家に対して不信感を抱く者が多少なりとも出かねない。

そうなってしまうと、そちらの対応にもまわらなければならなくなってしまう。

事後処理のことまで考えると、面倒ごとの種は可能な限りまかないようにしたいところである。


(とは言え既にだいぶ面倒なんだけど。あ〜〜〜もう!高火力の魔法で一掃できる掃討作戦の方が、何倍も楽だわ…。)


王城で会った時のサリエラの顔を思い出し、ついうっかり物騒なことを考えてしまうエルミリアだった。



お久しぶりになってしまいました。


新生活開始からの体調不良コンボでとんでもないことになっておりました。

コツコツ書き溜めていたものがようやくお出しできる…。

まだまだ頑張って書いていきます…!

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