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作戦の第一段階へと進みましょう③


「あのぉ、そちらの方は…?」


オリヴィエの方を見てそう尋ねてきたサリエラに、ブライアンは一瞬面食らってしまった。

主催者であるブランシュ伯爵とは、夜会の始めに挨拶をしているはずなのだが。

その一瞬の思案をオリヴィエは感じ取ったのだろう。

手に持っていたシャンパングラスをテーブルに置くと、優雅な仕草で礼をした。


「サリエラ・ルードベッヘさま。先程のご挨拶の折には席を外しておりまして、失礼いたしました。私はオリヴィエ・マール・ブランシュと申します。」

「初めまして、サリエラ・ルードベッヘです。サリエラって呼んでください!オリヴィエ様は伯爵の娘さんだったんですね!ブライアン様とは仲がいいんですか?」

「オリヴィエは私の婚約者なんですよ。サリエラ嬢と同い年なので、今年王立学園に入学するんです。」

「えー!?全然見えないです。すごく大人っぽいですね!」

「まぁ、ありがとうございます。」


にこりと笑って返すオリヴィエを横目に見ながら、ブライアンは内心で冷や汗をかいていた。

サリエラはまったく気付いていないだろうが、彼女は先ほどからオリヴィエの地雷をいくつか踏み抜いているのだ。

そんなことをおくびにも出さないのは流石だが、だからこそその笑顔が逆に恐ろしく感じられる。

これ以上他の地雷を踏まれてはたまらない。

ブライアンはさっさと話題を変えてしまうことにした。


「今彼女と、最近話題になっているという新作の香水の話をしていたんですよ。」

「あ、蠱惑の羽ばたきのことですかぁ?」

「えぇ。さすがは爵位を賜るほどの商家の娘さんだ、耳が早い。」

「ふふ、ありがとうございますぅ。」

「聞いたところによると、なんでも意中の相手を虜にできるとか。コンセプトが良いと感心していましてね。」


少し露骨だろうかと思いながら、エサを撒いていく。

サリエラが心なしか得意げな顔になっていくのをそれとなく観察しながら、ブライアンは更に話を続けた。

これは食いつきそうだ。


「あれの販売元がどこなのかが、気になっていまして。」

「それは私も気になっておりましたの。サンプルは頂きましたけれど、どちらで取り扱っておられるのかがわかりませんで…。」

「正規の発売前にこれだけ話題になっているのだから、さぞ商売戦略に長けている方なのだろうと思いましてね。叶うことならその非凡な才を持つ御仁とご縁を結びたかったのですが…。」


そこで苦笑しながら肩を竦めて見せる。

貴族社会の情報網をもってしてもわからなかったというアピールだ。

オリヴィエがアシストをしてくれたことで、気になっているのが自分だけではないというのも伝わっただろう。

ちらと見たサリエラの顔からは、「言いたくて仕方ない」とうずうずしている様子が見てとれる。

おだてられたことで気を良くしたのか、どうやら繕う気もなさそうだ。

オリヴィエは口元を扇子で隠すと、声を潜めた。


「もしや、サリエラさまはご存知でいらっしゃいますの?」

「えっとぉ…まだ内緒なんですけど、あれってうちで作ってるんです。」

「まぁ…!」


オリヴィエが声を潜めたまま驚いてみせる。

わざとらしくなく目を見開き、それでいて自分の求めていた情報にようやく辿り着けたという喜びが伝わってくる。

オリヴィエが「お願いがあるのですけれど…」と前置いてから何事かをサリエラに耳打ちすると、サリエラが「勿論!」と答えた。

オリヴィエが嬉しそうに礼を言う。

これを演技だと見抜けるのは恐らく彼女の両親と、幼い頃から関わりがあるナイトリアス家の面々ぐらいのものだろう。

婚約者の有能さに、ブライアンはただただ頭が下がる思いだ。


「これは幸運な巡り合わせだ。叶うことならば、お父君ともゆっくりお話をさせていただきたく思うのですが。」

「大丈夫だと思います!お父さん…あ、えっとお父様もきっと喜びます。」

「それは良かった。では、後ほどお父君のところにお話しに伺います。…あぁそれと、サリエラ嬢。」

「はぁい?」


最後に声を潜めてサリエラの名前を呼ぶと、不思議そうな顔でこちらを見上げられた。

少し距離を詰めて内緒話をするように口元に手を添える。

ここまで距離を詰めても、自分がサリエラに好意を抱く気配がないことを確認しながら。


「先日は妹がキツイ物言いをしたようで申し訳ない。本人も反省しておりましたので、何卒ご容赦を。」

「あぁ…いいえ、お気になさらないでくださぁい。」

「ありがとうございます。では。」

「サリエラさま、ごきげんよう。」


再びオリヴィエの手を取ってエスコートをすると、ブライアンはするりと喧騒の中に溶け込んでいく。

唇の動きが読まれることのないよう、念のためにサリエラからは死角になる位置で落ち着いた。


「望んだ結果になりそうですの?」

「まぁ、手応えとしては上々だと思うけれど…やはりああいったタイプの女性は疲れるね。」

「あら、上手にお話ししていらしたようですけれど。」

「君には到底及ばないよ。」


コロコロと笑いながらささやかな意趣返しを仕掛けてきたオリヴィエに、ブライアンは肩を竦めてみせた。


「例の香水の購入を打診したんだろう?」

「えぇ。お品が届き次第、そちらにお送りいたしますわ。」

「助かるよ。」


改めて婚約者の有能さに感謝するとともに、彼女が自分の婚約者であることを幸いに思う。

これだけ自分のことを理解して協力的に動いてくれたのだ。

今回の礼に何を贈ろうかと考えながら、ブライアンは夜会の残りの時間を過ごした。



お兄さまとオリヴィエさんはとても仲良しです。

オリヴィエさんはわかりにくく独占欲が強いタイプですが、そう言うところも含めてお兄さまはオリヴィエさんのことが好きです。

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