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作戦の第一段階へと進みましょう②


ブランシュ伯爵家での夜会が始まっておよそ1時間。

ブライアンは父の名代としての役割を恙無く終えて、婚約者であるオリヴィエと談笑していた。

シャンパンを片手に婚約者の令嬢と談笑する様は、傍目に見れば微笑ましく見えるものだろう。

しかしその視線は、オリヴィエの後ろにいる男にさり気なく注がれていた。

夜会が始まってから今までの間それとなく観察していたが、ルードベッヘ男爵はあまり飾らないタイプの男らしく、高位貴族に取り入るためにどうこうしようというつもりはないらしい。

値踏みするように目をギラつかせるわけでも、貴族の話に聞き耳を立てるわけでもなく、今目の前で話している相手に誠実に受け答えをしている。


(こうして見ている限りだと、特に思うところはないが…。)


娘を王太子に嫁がせたいと思っているのならば、もっと有力な貴族に取り入ろうとする姿勢があっても良さそうなものだ。

露骨な動きをすれば逆効果になってしまうものの、軽い縁を繋ぐぐらいの動きは見られてもいいだろうに。

そう考えていたのだが、今のところそんな素振りはまったく見られない。

春から王立学園に通うというサリエラのことも紹介されたので挨拶は交わしたものの、こちらも同様だった。


(あの様子だと、父親は娘の所業を知らないと考えるべきか…。)


オリヴィエとの会話を成立させながら器用に思案するブライアンだったが、ふと婚約者が自分の顔をじっと見つめていることに気付いて思わず息を呑んだ。

これはどうやら、やらかしたらしい。


「私とのお話を隠れ蓑になさるなんて、随分ですわね。観察はもう終わりまして?」


にこりと笑った婚約者にズバリと核心を突かれて、ブライアンは思わずたじろいでしまった。

これでは肯定をしたも同然だ。

今回のことについて、オリヴィエには「ルードベッヘ男爵とのパイプを作っておきたい」程度にしか説明はされていないはずなのだが、何故こうも勘が鋭いのだろうか。

つくづく自分の周りの女性には頭が上がらないものだと、ブライアンは観念したように頷いた。


「…君のおかげでね。」

「それは佳きことですわ。」


ニコニコと笑っている彼女に怒っている様子は感じられない。

恐らくだが、本当に「首尾が良いならそれでいい」と思っているのだろう。

もしかすると、今この場で起きていることを楽しんですらいるかも知れない。

引っ込み思案ではあるのに変なところで豪胆なのだ、この令嬢は。


(我が婚約者ながら、本当に男前な性格をしている…。)


もっともそんなことは、口が裂けても本人には言えないのだが。


「仔細はお話しいただけるときにお聞きできれば良いですわ。今夜はどうぞ、この場を存分にお使いになってくださいまし。」


コロコロと笑いながら告げられた言葉に、ブライアンは思わず苦笑してしまった。

自分もそれなりに教え込まれている方だとは思うが、そんな自分よりもよほど駆け引きが上手そうに思う。

ともあれ、折角本人から許可が出たのだ。

ここはその心遣いに甘えておくべきだろう。


「君がそう言ってくれるのなら、そうさせていただこうかな。」


そう言って微笑ったブライアンはオリヴィエの手を取り、エスコートをしながらゆっくりとルードベッヘ男爵の方へ移動し始めた。

他の貴族との会話を中断させないように注意を払いながら、それとなく近寄る。

狙いは男爵本人ではなく、その傍にいるサリエラだ。


(先ほどの挨拶の時に香ったあの匂い…。)


あれがエルミリアが言っていた香水なのだろうか。

妹の話では咽せ返りそうになるほどの強い香りだったということだが、今日はそれほど香りは強くないように思う。

それに自分の中で、サリエラに対する好感のようなものは今のところ感じられない。

父と自分の見立てでは対象を限定しない効果を持たせてあると考えていたのだが、周りの者たちも特別彼女に好意的に接している様子は見られなかった。


(物が違うのか、はたまた見立てを誤っていたのか…。)


こちらとしては件の香水をつけてきてくれていた方が好都合だったんだがな、と考えていると、オリヴィエがこそりと耳打ちをしてきた。


「あちらのご令嬢が纏っていらっしゃる香りが気になりますの?」

「君のその観察力は慧眼というしかないね。」

「王都のお店でサンプルが頂けるので、貴族の子女の間で話題になっておりますのよ。」


美容や流行り物にあまり興味を向けないオリヴィエですら知っていることをブライアンは意外に思った。

同時に、それだけ話題性があるということを認識する。

テーブルに並べられた色とりどりの可愛らしいデザートに惹かれ、サリエラが近くにきたのを視界の端にとらえたブライアンはわざと声を潜めることをやめた。


「意中の相手を射止めたレディがいたのかな?」

「まだそういったお話は聞いておりませんが、香りに勇気をもらえるというお声は聞きますわね。」

「なるほど。背を押してもらえるということだね。」

「えぇ。彼女たちの恋心が叶うと素敵ですわね。」


意を汲んでくれたオリヴィエも声を潜めることをやめ、サリエラに聞こえるように話を続ける。

話が聞こえたらしいサリエラの、デザートを取ろうとしていた手が一瞬止まる。

こちらを窺う気配があることを確認してから、そこではじめた気づいたフリをしてサリエラの方を見やる。


「これは、ルードベッヘ男爵令嬢。夜会は楽しんでおられますか?」

「はい、とても!私のことはサリエラとお呼びください、ブライアン様。」

「…では、サリエラ嬢と。」


サリエラの無礼を、ブライアンは笑顔で受け流す。

これは妹が嫌うのも無理はないと、心の中で呆れながら。


オリヴィエはとても性格が男前ですが、人前で何かするのはとても苦手です。

裏方をさせると滅法強いタイプのお嬢さんです。

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