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ヒロインの思い通りにならない世界なんて、あっていいわけないじゃない①


サリエラ・ルードベッヘは、ルードベッヘ家の一人娘である。

商人である父と母の仲はいたって良好で、娘のことを大事にしているいい両親だ。

料理上手な母は「将来結婚した時に困らなくて済むように」と料理を教えてくれ、父は「将来の選択肢の一つになるように」と商いのことを教えてくれた。

両親に愛されて育ったサリエラは天真爛漫で素直な子に育ち、周囲もそんなサリエラに良くしてくれる者がほとんどだった。

家族仲は良好で周囲の人々にも恵まれ、特別贅沢ができるわけではないが日々の暮らしに困るわけでもない。

一平民ではあるものの、不自由のない暮らしをしていたサリエラに転機が訪れたのは、ほんの二月ほど前のことだった。

父の功績と国への貢献が認められ、男爵位を賜ることになったのだ。

家族は抱き合って喜んだ。

爵位を賜ったということよりも、功績が認められたことが何よりも嬉しかった。

興奮はなかなか冷めやらず、書簡を受け取った昼過ぎから日付が変わる手前の時間まで、いつもより少し豪勢な食事を楽しみながら過ごした。

流石にそろそろ休もうということになり、自室に戻ったサリエラが布団に入り目を閉じた瞬間のことだった。


ー彼女に、前世の記憶が蘇ったのは。


その日を境に、サリエラは人が変わってしまった。

誰にでも分け隔てなく接していたはずの少女は、見目の良い男性だけを相手にするようになった。

媚を売るように相手の腕にしがみついて甘ったるい声で何かを強請る姿がよく見られるようになり、仲良くしていたはずの同性を煙たがるようになっていった。


「あのサリエラも豹変するほど、身分というものは尊いらしい。」


皮肉を込めた誰かの呟きは瞬く間に周囲の人間に広がり、ルードベッヘ家と距離を置く者も出てくるようになった。

事態を看過できないと判断した両親がなんとか娘を諭そうと試みたが、その両親ですらサリエラにとっては目障りだったらしい。

たった1週間で、サリエラは悪女に変わってしまった。

両親ですらそう言って頭を抱えた矢先、サリエラが1人の魔術師を連れてきた。


「お父さん、お母さん。ごめんなさい。私、正気を失っていたみたいなの。」


そう言って目に涙を浮かべ、申し訳なさそうに項垂れるサリエラはあの夜よりも前の、穏やかで素直で愛らしい少女だった。

自分たちが愛した娘が戻ってきたことに両親は歓喜した。

何があったのかと説明を求める両親に促され、サリエラはぽつぽつと話しだした。


「私、呪いのようなものをかけられていたみたいなの。人に嫌われるように振る舞う呪い…みたい。」

「呪い…?誰がそんなものを!?」

「わからないの…。でも、たまたますれ違ったこの魔術師さんがそれに気づいて、私の呪いを解いてくれたの。」

「…。」


こちらの方、と言って紹介された人物は黒のローブを目深に被っていて顔は見えない。

深々と頭を下げて礼を言った両親に何かを言うでもなく、軽く会釈をするだけだ。

身長や体つきからおそらく女性だろう、という程度のことしかわからず、娘の恩人であるとはいえ両親は薄気味悪さを覚えた。


「それでね、私のように呪いをかけられてしまう人が他にもいるかも知れなくて…それを防ぐために、魔術師さんと魔道具を作りたいの。」

「魔道具を…?」

「そう。ターゲットになる可能性があるのは女の人だけらしいから、女性ウケするコンセプトを作って広めたいの!」

「人助けのために、ということかい?」

「うん!」


サリエラに真っ直ぐな目で見つめられ、両親は深く頷いた。

今目の前にいる少女は、やはり元の天使のような愛娘だ。

自分が酷い被害に遭ったにもかかわらず、他者が同じ不幸を負わないように助けようとしている。

そんな娘を誇りに思いながら、両親は娘をしっかりと抱きしめた。


「わかった。それが誰かを助けることになるのなら、私たちがいくらでも手助けをしよう。」

「ありがとう、お父さん!」


両親に抱きしめられた腕の中で、顔を見られないのをいいことにサリエラがニヤリと笑う。

両親が愛したサリエラは、戻ってきてなどいなかったのだった。


今回はサリエラ視点のお話です。

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