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あれこれ考えてはいるものの、私は本来頭を使うことは苦手なんですよね。


「はい、充実した時間を過ごせました。」


遮音のために張っていた魔法は先ほど解除したため、敢えて当たり障りのない返事をかえす。

母の側に控えてくれているスージーを信用していないわけではない。

しかしリコリエッタにも言ったように、本人の意思とは裏腹に何かをさせられてしまう可能性がある限り、こちらの手の内を見せるわけにはいかないのだ。

普段ならば信用できるはずの彼女ですら、ある程度遠ざけねばならないことにエルミリアは少し心が痛む思いがした。

それと同時に、早くこの問題を解決しなければと、改めて心に誓う。


「では、そろそろお暇しましょうか。忙しい時にお邪魔してしまって申し訳なかったわね、リコリー。」

「いいえ、こちらこそ十分なおもてなしもできませんで…。また是非いらしてくださいませ。」

「そうね、次はローザも一緒に皆でお話ししましょう。」


それらは何気ない約束のようでもあり、この苦境を必ず跳ね返すという強い意志を感じさせる言葉でもあった。



別れの挨拶を済ませてから、エルミリアたちはフェランドル公爵邸を後にした。

帰りの馬車の中で母に聞いたところによると、リコリエッタの母はショックで伏せてしまっていたそうだが、婚約破棄がアンクロフトの本意ではない可能性があると聞いて、幾分か落ち着いたようだったということだ。


「叔母さまが大事ないようでよかったです。」

「本当に。叔母さまにとって、何よりお辛い話だったでしょうに…。」


母の言葉を聞き、アンジェリーナとエルミリアはほっとした表情で胸を撫で下ろした。


(叔母さまも、殿下がリコリーを大切にしているのを間近で見てきた人だからな…ショックを受けるのは当然よね…。)


従姉とよく似た優しい叔母の顔を思い浮かべて、思わず溜め息が溢れた。

彼女たちは何も悪いことなどしていないはずなのに、なぜこんな仕打ちを受けなければならないのか。

そう考えると、またサリエラに対する怒りが沸々と湧いてくる。


(そもそも殿下は攻略対象じゃないんだから諦めなさいよ!正規の婚約者を貶めてまで略奪しようとか、マジで意味わっかんない!!)


我ながら感情の起伏が激しい…などと何処か傍観者的な考えを頭の隅に持ちながら、エルミリアは今後のことについて考えを巡らせる。

次は兄であるブライアンが、ルードベッヘ男爵に接触を図ることになっている。

その際に可能であればサリエラとも接触をということになっていたが、やはり目下の懸念事項は香水の存在だ。


もしも香水の効果が魔道具として働くのであれば、アンクロフトよりも魔法耐性が高いブライアンならその効果を受けないかも知れない。

しかし課金アイテムというゲームの強制力が働くのであれば、魔法耐性などというものはまったくの無意味となってしまう。

ブライアンはゲームにおいて攻略対象者の1人であることもあり、アンクロフト以上に香水の効果が作用してしまう可能性もあるのだ。


「まぁ、やはりリコリーもあの恋愛小説を読んでいたのね。」

「はい!リコリーお姉さまは、主人公の親友の言葉に特に胸を打たれたそうです。あとはー」


恋愛小説というのは本当に、とても女性に人気があるものだ。

リコリエッタとの会話を、アンジェリーナが一生懸命母に話しているのをBGM代わりにして思考を続ける。


(ゲームでは、会いに行く相手を選択してから「アイテム」欄に香水をセットすると、それでアイテムを使ったことになってたんだよね。)


ゲームの設定上、イベントが発生しない限りは放課後に会いに行けるキャラクターは1人だけと決まっていた。

そのため、使用するアイテムが目当てのキャラクター以外に作用することはなかったのだ。

しかしこの世界では、そんな規制は存在しない。

不特定多数に作用すると考える方が妥当だろう。

普通は、そう考えるものだ。

しかしエルミリアは今、別の可能性を考え始めていた。


(もしサリエラの香水が、特定の人物にしか効かないようになっていたとしたら…?)


ゲームで例えるならば「キャラ限定効果」というものだろうか。

現実の世界であれば、あれこそ「ザ・ご都合主義」というものだろう。

しかしこの世界においては、意外とそうでもないものなのだ。

理由は至極簡単で、条件の単純さにある。


魔道具とは「魔法で条件付けされた道具」であり、その条件の難易度がそのまま製品価格に影響する風潮にある。

条件付けのための魔法というのは普段の生活や戦闘の際に使うものとは根本から異なっているらしく、それを扱う者は魔道具師や魔術師と呼んで区別されるのだが、それらは魔法を主体として戦闘を行う魔法使いよりも数が少ない。

元々の母数が少ないうえ、複雑な条件の魔法を付与できる者は更に一握りしかいないため、魔道具の開発では「いかに条件を簡素化できるか」が鍵となる。

フロー図で言えば、条件に当てはまるまでの矢印が少ないほどいいということだ。

つまり、「特定の人物にしか効かない」というのは「誰にでも効く」と同じぐらい単純な条件ということになる。


(誰にでも効くとなると怪しまれる可能性は上がる。それを避けるために…いや、でも…。)


やはりしっくり来ない。

エルミリアが自分の味方になると信じて疑っていないようだった振る舞いが、どうしても引っかかるのだ。

思考が堂々巡りになっている自覚はある。


(「エルミリア」は才色兼備のチートキャラだけど、「私」は考えるの苦手だからなぁ…。)


これ以上考えたところで意味はなさそうだと判断したエルミリアは、家に到着するまでの時間を母と妹とのお喋りに充てることにした。

どちらにしろブライアンがルードベッヘ男爵と接触するというプランに変更はないのだ。

待っているだけというのは歯痒いものがあるものの、今自分は迂闊に動くことができない身であることも事実である。


(ちょっと違うけど、果報は寝て待てって言うし…今は我慢するしかないか。)


心の中でそう自分に言い聞かせると、楽しそうに話す母と妹の話題に参加させてもらうことにした。



お久しぶりの更新です。

お話を書く時間がほしい私です。

1日が36時間ぐらいになってほしいです(夜が20時間でお願いします)。

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