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内緒のお話のお時間です②


「殿下と…婚約…?」


目をパチクリとさせたリコリエッタが、エルミリアから聞かされた言葉をそのまま口にした。

そこには悲しみや怒りといった負の感情はまったく見られない。

それよりも、とにかく驚いて言葉が出ないといった様子だったが、それもそのはずだ。

男爵位を賜ったばかりの家の娘が、王太子と婚約など聞いたことがない。


(そもそも男爵位って、王族とは結婚出来ないってことで合ってたよね…?)


エルミリアに転生する前、茜はゲームの影響で中世貴族の暮らしやしきたりなどを少しだが調べた時期があった。

その際に何かの資料で「王族と婚姻できるのは伯爵以上の爵位を持つ家のもの」というのを目にした気がするのだ。

だから男爵家の娘となったサリエラの攻略対象に、アンクロフトが入らなかったのだなと納得した覚えがある。

この世界にご都合主義が多く存在するのは理解しているが、当然のことながら茜がいた元の世界をモデルにしているところも数多い。

それを鑑みると、やはりどう転んでもサリエラはアンクロフトと結婚できないはずなのだ。

王家に多大な利を齎すと臣民が納得できれば側室という道もなくはないだろうが、今の時点ではそれも難しいだろう。

いくらルードベッヘ男爵が作り上げた商業ルートが評価されたとはいえ、それがなければ国が立ち行かないというわけではないのだから。


(それを理解しているのかも、確認する必要があったんだったわ…。)


理解してあんなことを堂々と言ったのであれば、それを認めさせるために何かしらの手を打ってくるということだ。

あちらには、課金アイテムという手札もある。


「り、リコリーお姉さま…大丈夫ですか…?」

「アンジー…えぇ、大丈夫よ。ただ、とても驚いてしまって…。」

「無理もないです。私も最初にお姉さまからお話を聞いた時は、本当に驚いて…。」


アンジェリーナが一生懸命にフォローしている。

貴族としての常識が染み付いていればいるほど、この話の衝撃は大きいだろう。


「けれどそのお話、きっと国王陛下はお許しになっていないのでしょうね…。お許しが得られているのなら、私たちが王城へお伺いすることになっていたはずだもの。」

「そうね。私も、殿下がおみえになったと聞いた時に同じことを考えたわ。」


一旦気分を落ち着けようと、エルミリアは紅茶に口をつけた。

同じバラの香りでも、この紅茶からは優しいものを感じる。

紅茶に合うように改良された品種を使っているというのもあるだろうが、結局は気持ち的なところが大きいのだろう。

一口飲むと、少しホッとしたような気がした。


「エリー、一つ聞きたいのだけれど。」

「なにかしら?」


不安そうな顔で切り出されたので、きっとアンクロフトの反応を尋ねられるのだろうとエルミリアは思っていた。

しかし。


「怒ったりしていないわよね?」

「………。」


まったく予想もしていなかったことを、しかもかなり痛いところを突かれてしまい、エルミリアは思わず目を逸らして黙り込んでしまった。

その反応を見てリコリエッタが小さく溜息をつく。

そうして「やっぱり…。」と呟いた。

だがしかし大っぴらに喧嘩を売ったわけではない。

そこだけは弁明しなくてはと、エルミリアは言い訳を始める。


「怒ってはないわよ?ただちょっと、納得できないことを言われたから…。」

「怒りを表に出さなかっただけで、反論のようなものはしたのでしょう?」

「反論は…したといえばそうかもしれないけれど…。」

「あなたが、肯定はしたくないけれど否定もできないときの答え方ね。」

「ぅぐっ…!」

「お姉さま…。」


2人のやり取りを見ていたアンジェリーナが苦笑している。

結局のところ、エルミリアはリコリエッタに頭が上がらないのだ。

相手の方が年上だからとか、家格が上だからとか、主君として仕えているからというのはエルミリアとしての建前であり、本音はもっと単純である。

『転生前からずっとリコリエッタが推しだから』。

これだけだ。


「リコリーお姉さま。エリーお姉さまもその点は悪手だったと、ご自分で反省していらっしゃいましたので…。」

「…ごめんなさい。どうしてもカッとなってしまって…。」

「私のために怒ってくれたのでしょう?謝ることなんてないわ。けれどそのために、自分の立場が悪くなるようなことはしないで欲しいの。」

「…善処するわ。」


(守れるかどうかは約束できないけど。)


はっきりと返事ができないことを、心の中でだけ詫びる。

推しだからどうこうという話を抜きにしても、今回のことはすでに個人の間で片付けられる話ではなくなってしまったのだ。

もしも今回のことが原因となって王家と公爵家が対立するようなことになってしまった場合、おそらくナイトリアス侯爵家はフェランドル公爵家側につくだろう。

そしてそれを選択するのは自分ではなく、当主である父親だ。


「…話を戻しましょうか。」


これ以上追及される前に、無理矢理だが話題を戻すことにした。

サリエラが、エルミリアが自分に仕えると勘違いしていたことについては省くことにする。

それこそ怒りで更に話が脱線しかねない。

これでエルミリアにとって一番腹立たしいくだりの話は終わったので、ここからはもう少し理性的に話すことができるだろう。


「殿下のご様子がいつもと違って、おかしいと感じるところがあったものだから…。報告書の作成を口実にして、その場はそれで話を終えたの。それで家族会議を開いたのだけど…」


ここからの話はリコリエッタにとって、第二の爆弾となるだろう。

アンジェリーナが息を呑む気配がした。

協力を取り付けるためとは言え、何とも気の重たくなる役回りだ。


「サリエラ嬢が、何らかの手段を使ってアンクロフト殿下を誑かしている可能性があるという話になったの。」

「そう。」

「ショックを受けるのはわか…え??」


ショックを受けたであろうリコリエッタを慰める言葉をかけようとして、エルミリアは間の抜けた声を上げることになった。

アンジェリーナもエルミリア同様にポカンとしていて、思わず2人で顔を見合わせてしまう。


「ず、随分すんなりと納得してくれるのね…?」

「だって、どう考えてもおかしいのだもの。あのアンクロフト殿下が、私との婚約を破棄すると仰るなんて…絶対にあり得ないわ。」

「それはそうなのだけど。」

「それに、ほんの数日前に私の髪色に映えるからと、髪飾りを贈ってくださったばかりなのよ。」

「エリーお姉さま…私、お顔が熱くなってきてしまいました…。」


当てられたらしいアンジェリーナが、赤くなった頬を両手で押さえながら呟く。

エルミリアとしての顔を保ったまま、茜は心の中で「ご馳走様です!」と盛大に叫んだ。

推しの惚気を聞くのは、なんだか精神にいい気がする。


「あ…、自惚れているわけではないのよ。けれど事実として、今のこの国に私以上の人材はいないはずだから。」

「…そうね。それは揺るがない事実だわ。」


他の上位貴族も皆、そのことがわかっているから自分達の娘を婚約者にと推してはこないのだ。

というのも、フォルテリアでは王家との婚姻に独自の条件が定められていた。


まず第一に貴族であること。

これはどこの国でも同じだろう。

第二に、強い魔力を有していること。

王家は代々「国土の守護」という重要な役割を担っており、とある責務を果たすためになるべく強い魔力を持つ者が必要となっていた。

指標として魔力値の下限が設けられており、この時点でかなりの候補者がふるいにかけられる。

そして一番厄介ともいえる第三の条件が、光属性魔法の適性があることだった。

フォルテリアは土の気が強く、次いで水の気が強い土地である。

土地の気はそこに住む者たちにもいくらか作用し、国民たちは土属性に適性を持つ者が多い傾向にある。

そんな中で全ての条件を満たす貴重な候補者として、アンクロフトの婚約者となったのがリコリエッタなのだ。


「婚約者の条件をすべて満たす上、たった1人で()()を維持できるほどの逸材なんて、リコリー以外にいはしないわ。」


王国内で右に出る者がいないほどの光属性魔法のスペシャリストであり、エルミリアに次ぐ魔力値を持っている。

これが、「王家がリコリエッタとの婚約破棄を認めるはずがない」絶対的な理由の一つだった。

一公爵令嬢としては盛りすぎな程の設定だ。

しかしそれもそのはずで、リコリエッタは公式が設定した「公式チートその2」なのである。

そんな彼女を上回る存在など、この王国内にいようはずもなかった。



エルミリアはリコリエッタに頭が上がらず、アンジェリーナには甘いです。

あと両親には一生勝てると思っていません。

お兄さまのことはとても尊敬しています。

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