夜は色々と考えてしまうものです①
直近の方針が決まったところで夕食の場はお開きとなり、就寝の挨拶をしてから家族はそれぞれの部屋に戻っていった。
エルミリアも今は自室に戻っており、明日以降の動きについて考えている。
香水のこと、まじない師のこと、これからの接触の仕方や注意するべき点など、考えるべきことはいくらでもある。
しかしある程度考えたところで思考は中断され、溜め息が出るということの繰り返しだった。
リコリエッタに今日の一連の出来事を話さなければならないことを思うと、どうにも胸が痛んで集中できないのだ。
(リコリーは婚約破棄の話を聞いてどう思うかな…。あんなに殿下のことを想ってたのに…。)
リコリエッタは次代の王妃として申し分ない人格者であり、知識も教養も兼ね備えた「理想の令嬢」と呼ばれるような人物だ。
品行方正で礼儀正しく誰にでも優しいため、本人の知らないところで「女神」、「聖女」、「慈愛の姫君」などと呼ばれている。
婚約者が王太子でなければ、国内外の高位貴族や王族から求婚が相次いでいただろうと今なお言われているほどだ。
慕うものは貴族だけに留まらず、平民の間でも人気があるらしい。
もはやアイドルのようなものですらある。
もっとも、当の本人はそんな聖人君子のごとく崇められていることなど知らないのだが。
リコリエッタの胸にあるのはいつだって「アンクロフト殿下の隣に立つに相応しく、国民の誇りであれる王妃になりたい」という願いだ。
そのための努力を怠らない姿を、エルミリアは幼い頃からずっと見てきている。
リコリエッタがひた向きに努力する姿も、そんな彼女を思いやり、大事にしていたアンクロフトの姿も見てきたのだ。
ゲームとして楽しんでいた時から2人の仲の良さはよく理解していたのだが、この10年近くは現実の出来事として目の当たりにしてきた。
そんなところに突然婚約破棄という予想もしていない話を突きつけられたのだから、これで心が痛めるなという方が無理な話だ。
(今ここでどうこう考えたって仕方ないのはわかってるけど…。)
そんなことは頭では理解できている。
それでも感情が追い付かないのだ。
2人にとても近いところで、2人の幸せな姿が見られると信じていた。
「茜」だった時の一番の推しがリコリエッタだったこともあり、エルミリアに転生できたことはこれ以上ないぐらいの幸福だと喜んだのだ。
脅かされることなど考えてもいなかった幸福が今、悪意を持って脅かされている。
自分が転生したことがわかったとき、他にも転生者がいる可能性はもちろん考えた。
それこそヒロインが転生者として現れるというのは想定の範囲内だったし、それによって自分の婚約者であるリチャードが攻略対象として選ばれる覚悟もしていたのだ。
もしそうなったとしても、ヒロインが自分との友好度を上げて和解しようとしてくれれば自分は快く退くつもりだった。
だからこそ、この仕打ちは許し難かった。
作品への愛情もリスペクトも感じられない。
前世の知識を悪用して自分の欲望のままに、本来あるべきだった世界を変えてしまおうとしている。
(この世界はゲームじゃない。ここにいる人たち皆に心がある。)
ゲームの中では相手が「プログラム」だから許されたことなのだ。
現実として在るこの世界で、そのような暴挙は許されるものではない。
(そこをきちんと、わかってもらわないと。)
それがわかってくれれば或いは、彼女は考えを改めてくれるだろうか。
そんな願いにも似た考えが頭に浮かんだとき、部屋のドアを控えめにノックする音が響いた。
「はい。」
窓際に置かれている椅子から立ち上がり、ドアに向かう。
癖で足音を消してしまいそうになるところを、意識して小さく足音を立てて歩くようにする。
以前に足音を消したままドアを開けてしまい、兄を大層驚かせてしまったことがあるからだ。
大きな音を立てないようそっとドアを開けると、そこには眉尻を下げたアンジェリーナが立っていた。
「遅い時間にごめんなさい…。少しだけお話しをしたいのですが…。」
どうやらこれからのことを考えて寝付けないのは自分だけではないらしい。
返事代わりににこりと笑って部屋に招いてやると、妹はホッとしたように少し表情を和らげた。
更新が遅れました…しかも短い。。。
エルミリアさん1人にさせるとなかなか動かないもっと動いて。
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